第7話老いた剣聖④
第7話 老いた剣聖④決着
「君はこれで私の斬撃の起こりは見えない。 まだ勝負は決まってないぞ」
「エリック、俺はもう破ったと言ったんだ」
ヴォルトは足を開き重心を低く保ち、両腕を大きく広げた。
「獄炎・心獄臓」
ガイアの両手足の先が一瞬真っ赤に光ったかと思うと、その赤い光は真っ直ぐにガイアの心臓へと伸びた。 ガイアの心臓は盛り上がり、少し突いただけでも破裂しそうなほどだった。
1度鼓動を起こすたびに周りの大気は揺れ、地面にヒビを入れるほどの衝撃波を放ちながらエリックに向かって行く。
「良い的だな」
エリックはヴォルトに絶え間なく斬撃を飛ばした。
「効かん!」
ガイアのスピードは残像が見えるほどに速くなり、斬撃を全て鼓動の衝撃波で相殺しながら近づき、やがてガイアの拳がエリックに届く距離まで来るとエリックは短剣を解除し剣を元に戻すとその剣をガイアに振り下ろした。
「終わりだ」
ガイアはエリックの剣を身を回転させながら避け、空中で体を倒しながら踵をエリックの肋骨へとぶち当てた。
「少し掠ったか」
ガイアの額からは血が滴り、地面に流れ落ちる。
「お前の強さはその圧倒的なフィジカルの強さだな。 私の朝日をあんだけ耐えれるのは巨人種でも居ないぞ。 そしてその力、やはりケルベロスだけの力ではないな」
「俺がめっちゃ強いのは自分でわかってるわ」
「私はまだ負けてないぞ?」
「俺は弱い奴を痛ぶる趣味はないんでね、諦めろ。 ほらあんたの体、昨日の体に戻ってるぞ?」
エリックは自分の体を見ると、剣聖だった頃の逞しい肉体は元の老人の姿になってしまっていた。
「それにあんたの肋骨は完全に折れてる、動いて臓器に刺さったりでもしたら本当に死ぬぞ」
「わかってる、だがなぜかわからないが今が1番良い太刀筋を出せそうな気がするんだ申し訳ないが付き合ってくれ」
「そうか…………剣聖に頼まれたなら断れないな、最後に1つ言っておくあんたは俺子供の頃憧れて想像した通りの素晴らしい剣聖だった」
「ありがとう」
ガイアはエリックと距離を取ると先ほどと同じ地面に両手足を付いた四足歩行の動物の様な姿勢を取った。
エリックはそれに対し片手で肋骨を庇う様に脇腹を抑えると、もう片方の手で剣を肩より高く振り下ろす様に構える。
「殺す気で行く、いや殺す」
ガイアは奥歯が砕けるほど歯を噛み締め、全身に力を入れ、さっきよりも鋭く速く、エリックの命を奪う為に向かっていった。
エリックはガイアが衝撃波を起こし、向かってきたと同時に剣を振り下ろした。
「起こりが見えない」
それは65年生きて来たブル・エリックにとって生涯で1番速く、鋭い太刀筋でありそれはガイアの速度を遥かに上回っていった。
「無剣・朝」
エリックから放たれた黄金の斬撃はガイアを押しつぶす様に、振り下ろされたそれは剣というよりは大きな建物がそのまま降って来たという感じだった。
ガイアはすぐさま斬撃を掻き消そうと拳を空に向けて放つ。 だが朝はビクともせずにガイアに振り下ろされていく。 それはもはや斬撃ではなく質量を持った巨大な大剣と同じに感じられる。
体が地面と朝に挟まれたその瞬間、ガイアの心臓の鼓動はおそくなっていき、体の限界を知らせていた。
「最後の最後のどんでん返しなんて俺は好まない。 俺があんたが超えた限界をさらに超えて勝つ!」
足は膝まで埋まり、更に体を赤くし、唸り声を上げながら止まりかけの心臓の鼓動を早め、ガイアにとっては果てしなく長く感じる1秒、1秒を耐え忍んでいた。
数秒、ガイアには無限にも感じられた時間が経った頃、意識が薄れ始めたガイアが舌を噛み切りその痛みで意識を戻したその時、ガイアの体を押し潰そうとしていた剣はゆっくりと姿を消し、最後には金箔となって散り、 血溜まりに誇らしそうに倒れている、限界を超えし最強の剣聖の姿があった。
自ら限界を超え編み出した技で空を割り、その間から顔を出した太陽が差し込み剣聖の顔を優しく照らしていた。