第6話老いた剣聖③
第6話 老いた剣聖③
なんだ今の技は直前まで確かに手元に剣はあった、魔法か? いや違う、この痛みは魔力の痛みじゃない。 斬撃だ。
「俺の持つ最高の技だよ。 剣の刃をを何層にも何層にも重ねて、その隙間にごく僅かな隙間を設けてその共振により超高速の斬撃を飛ばす技でね。 もう武器と言うよりは構造上は楽器に近い」
エリックはそう言うと手のひらの中に収まるサイズのもはや剣とはいえない、ナイフぐらいの大きさの半透明な剣をガイアに見せた。
「やれば出来んじゃん。 やっとやりごたえが出てきたな」
ガイアは体を伸ばして肩を回しながら、さっきの斬撃のダメージを全く感じさせない様子でそう言った。
「強がりすぎだろ、体をボロボロだぞ、もうお前が俺に近づく事はない」
エリックが再び剣をガイアに向けて降った瞬間に寸分の遅れもなくガイアの体に衝撃が走り、その頃にようやく遅れて剣の共振による音が響いてくる。 ガイアの体だけでは無く後方の地面は大きく抉れ、地形が変わるほどのクレーターが出来た。
無茶苦茶だ。 ここからエリックまで50mはある、なのに異次元の速さ、降った瞬間に斬撃が飛んでくるというよりかは目の前にあるという感じだ。 シンプルに強すぎる能力、斬撃を攻略して距離を詰めないと勝ち目はない、それならすることは一つ。
ガイアは歯を食い縛ると一歩一歩エリックに向けて歩き始めた。
「来い」
エリックはそう呟くと剣をガイアに向けて細かく何度か振る。 ガイアは瞬時に衝撃に備え腕を交差させた。 常人なら細切れになる斬撃が何度もガイアの体を襲う。
ガイアは一撃、一撃、上半身が吹き飛びそうになるもその肉体で異常なほどただの我慢で斬撃の強さ振ってからくるほんの僅かな時間を感じ取り、体に力を入れ耐えていた。
「正直驚きだよ。 ただの我慢でそこまで耐えるとはこの朝日という技はね、俺の最高傑作であり、才能の限界なんだよ。 どんな敵も朝日で薙ぎ払えた、大きくても、素早くても、硬くても何でも倒せた。 俺はそれに満足というか、完成だと思ってしまったんだよね。 それから私は新たな技の開発や努力をする事が無くなってしまったんだ。 だから俺の最高到達点でもあり、終点でもある」
「なら俺が破ってやるよ。 それでもう一度上を目指せ、剣聖ブル・エリックの新たな目標になれるなんて光栄で震えが止まらないわ!」
エリックはその言葉に気が抜けたような顔をして大きく笑い始めた。
「お前の震えはただの体の限界からくるものだろ、にしてもこんな老人にまだ上を目指せというのか? 人生の折り返しどころか終盤戦に入ってると思うがね」
「あんたみたいな人こそ生涯現役みたいな事を言うと最初は思ってたけどな、昨日の様子だとそんなタイプではないらしい。 それでも俺に負けたら上を目指せ、死ぬまでやりたい事をやれ」
「どうやら思ったよりお節介な性格らしいな、それなら尚更負ける訳にはいかないな、これでも昔は剣聖だったんでね人の言う事を聞いて動くのが大嫌いなんだ」
「そっちも充分がんこだよ、それなら無理矢理負けを認めさせる」
エリックは向かってくるガイアに斬撃を飛ばす。
「ありえない」
ガイアはエリックの不可視で不可避の斬撃に対応し、斬撃に合わせて全身全霊の拳を合わせて斬撃をかき消した。
「朝日だったか、たしかに強いが目が慣れれば対した事は無かったな。 朝日自体は不可避でもあんたの手先の動きは容易に読める」
「違う、違う、目が慣れたとかそういう次元の速度じゃないんだよ、この斬撃は音が後からやってくる速度だぞ? 音速を超えてるんだ。 生物が反応出来るわけがない。 いや、そうか、そういう事かなら全て納得がいく」
「何だよ、勝手に納得して」
「いや、今は良い、戦いに集中しよう」
「戦いに、集中ってもうあんたの朝日は破った。 いくら放っても通用しないぞ」
「そうか? 私は違うと思うがね」
エリックは剣をズボンのポケットの中に入れるとそこから、斬撃を放つとガイアは技の起こりが見えなくなり、斬撃が直撃する。
「私は最後まで足掻く、小手先の技だろうが勝つためなら何でもする。 英雄とは最後まで戦い抜く人に与えられる称号だ」
ガイアは斬撃を一歩も動かずに受け切った。
「昨日のあんたより、今のあんたの方が100倍は好きだな、剣聖ブル・エリック最後まで全力で戦おう」
2人の戦いは最終局面へと向かっていった。