第5話 老いた剣聖②
第5話 老いた剣聖②勇気
「魔王!? 全然良いけど殺したんじゃなかったのか?」
「殺したつもりだった、トウヤの太陽で飲み込んだのを俺は見た。 だが、魔国の跡地近くの村で魔王の目撃情報が何個か上がってきている」
「自分で行けば良いんじゃないのか?」
「無理だ、魔王を倒してから統率されていた魔物達の動きが活発化してしまい、地上は魔物や魔獣で溢れかえってた」
「それで自分を責めてしまって病んじゃったのか」
「そうだ。 世界を不幸にしたのは我々の方なのかも知れない」
「わかった、塞ぎ込むのはやめろ、俺が魔王を見て来るよ。 その代わり明日の今と同じぐらいの時間にここに来て俺と戦え、条件はそれだ」
「わかった」
「髭と髪はしっかり整えて来いよ、剣聖らしく誇りを持った姿で来い」
「約束しよう」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ガイアは時間通りに木々が薙ぎ倒され、空き地の様になった昨日の場所に着いた。
「おーい! エリック! 居るか!」
ガイアの声が森にこだまする。
「居るよ」
エリックは昨日とは全く違い、髪は短く切り揃えられ髭も無く、甲冑越しでも分かるぐらいに胸筋が盛り上がり腕も丸太のような太さになっていた。
「いやいや、明らかに同一人物じゃないだろ20歳ぐらい若返ってるように見えるんだけど」
「歴戦の猛者の工夫だよ、体は1日でもあれば変えられる」
「どうやって若返ったのかは知らないけど、やる気にはなったみたいで良かったよ。 昨日のあんたとは大違いだ、生きる意志が感じられる」
「褒め言葉はいらないよ、今日は敵同士だ。 言っておくが私はかなり強い。 しかも今は体を戻したばかりで手加減が効かない、死ぬなよ」
「大丈夫だよ。 俺は頑丈だからな、剣聖ブル・エリック全力で行かせてもらう」
「来い!」
エリックは地面を踏みしめると大気が揺れ、顔以外を守る甲冑が金色に輝いた。
「定着!」
ガイアはすぐにケルベロスを呼び出し服が弾け首筋と両腕に噛み跡が浮き出し、雄叫びを上げエリックに向かっていった。
エリックは自分の背丈の倍ほどはある大剣を手に持つと走って迫ってくるガイアに斬りかかる。
エリックの剣の軌道に合わせ体を回転させながら空中に舞い上がり、剣を避けエリックの背後に回った。
息をつく暇もなくエリックの背に拳を打ち込む。 エリックは剣を背中に回し、間一髪の所で拳を弾き返す。
エリックは体を向き直すし2人の間合いが限りなく近くなる。
ガイアは拳はエリックが剣を振りかぶる隙も与えずに岩石が降り注ぐように息をつく暇も無くエリックに殴りかかる。
エリックは剣の持ち手で拳をを弾き返していき、普通なら剣を殴るガイアの拳がボロボロになるはずが拳はさらにスピードと威力を増してエリックに襲いかかる。
「無茶苦茶な手数と次が予測できない獣の様な攻撃、そしてこの威力。 トウヤに傷を負わせただけの事はあるな!」
エリックは片手で持っていた剣を両手で持ち、ガイアの拳を弾いた勢いで自身の体を後方に大きく飛ばした。
「これが4代目剣聖ブル・エリックの奥義だ」
エリックは持っていた剣を自分の真正面に掲げると剣をは次第に風にさらわれる様に消えていきエリックの手には何も残らなかった。
ガイアはその様子を見ていたが剣がエリックの手から消えた瞬間に大地を踏み抜きエリックに襲いかかっていく。
「無剣・朝日」
エリックがそう呟いた瞬間ヴォルトは咄嗟に体の全面を両腕で守ったが骨が軋み折れる音が響き渡りヴォルトは地面に何度もぶつかりながら吹き飛ばされていった。