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体育祭②

 2年の団対抗リレーは3位という、なんとも中途半端な結果に終わってしまった。

 体育祭でのリレー競技が3位っていうのは喜んで良いのか、悔しんだら良いのか分からない。なので青団の団員の人達もリアクションに少し戸惑っていた。

 自分的にはちょっと悔しい結果かなと感じる。


 これにより総合順位は4位と、これまた微妙に低い順位である。1位の赤団との差は100pだ。

 100p差なのは分かったが、どの競技で1位を取れば何pなのかは全くの謎である。プログラム表にも書いていないし、誰かに教えてもらえる訳でもない。

 まぁ体育祭だから誰も気にしていないけど。

 そもそも体育祭で1位になったからと言って商品がある訳でもないからそこまで皆も必死こいてはいない。学校行事だし。楽しめたら良いといった感じである。



「しず――星野」


 2年団対抗リレーの後、青団の基地付近で雫が1人になったのと周りに誰もいないのを見計らい声をかける。


「ん? どうしたの?」


 クラスメイトモードの雫が首を傾げてあたかもただのクラスメイトという雰囲気を醸し出してくる。


「これ、あげる」


 俺はリレー後にシレッと自販機で買ってきたスポーツドリンクを渡す。


「――え……?」


 雫はいきなりの俺の差し入れに怪しむ様な表情で俺を見てきた。


「さっきのリレー疲れたろ?」


 怪しんで来たので、俺は出来るだけ優しい声を意識して出す。


「いや、そんなに……」


 確かに……。

 彼女は目立たない様にかなり手を抜いて走っていた。雫が本気で走ったら陸上部が放っておかないだろうからな。

 雫からすればジョギングレベルの走りだったので疲れていないのは当然か。


「ま、まぁまぁ、喉は渇いてるだろ? ほらほら、遠慮せず」


 そんな彼女へ半ば強引に彼女へスポーツドリンクを手渡すと「ど、ども……」と不信感たっぷりに言われる。


「良いって事よ。かっかっかっ」


 周りに人がいる状態で2人っきりで話をしていると、後で雫に怒られてしまうので、それを渡し終えると俺はそそくさと彼女の元を去って行った。


「なんなの?」


 背中から雫の心のそこからの声が聞こえてきた気がした。




♦︎




 2年団対抗綱引き。


 負ければ終わりのトーナメント戦。


 相手は宿敵の強豪――か、どうか分からないが赤団だ。

 赤団には運動部の奴が多いから何となく強いと思うのと、赤色のライバルといえば青色だから何となく意識してしまう。

 それは赤団も思っているのか「絶対勝つぞ!!」「おお!!」みたいな運動部が円陣組んで気合いの声を出しするやつをやっていた。

 それに感化されて青団リーダーの完士も「勝とう!」と声をかけるが「頑張ろーねー」「勝ちたーい」みたいな腑抜けな声が上がる。

 ウチのクラスは運動部に入っているのは少なく、どちらかというとバイトをしている人の方が多い。後男子はヒョロイ。

 やる前から力の差は歴然。名門校と弱小校の戦いみたいなのが今始まる。


「星野。女の子なんだから無理はすんなよ」


 俺の立ち位置は後ろの方で隣に雫がいた。

 一応他の人達に聞こえない様な小さな声で雫に言う。


「え? あ、う、うん」

「俺に任せてくれよ! 星野の分まで俺が力出すからさ! 星野はゆっくりしといてくれよ」


 そう言ってウィンクすると「は、はぁ……」と呆れた様なそうでない様な声が聞こえてくる。


 そんな雫からの微妙な返事を貰うと――


 ――バンッ! 


 スターターピストルが鳴り響き綱引きがスタートする。


 両者一斉に自軍へと綱を引き寄せる。力一杯引き寄せて、何となくこちら側に綱を引き寄せているのではないだろうか。なんて感じた。


 お……。結構良い感じじゃない? 良い戦いじゃない? と思ったのも束の間。


「おわっ!」


 そんな声が青団から聞こえ、青団全員が足元をよろめかした瞬間――。

 

 バンッ! バンッ!


 試合終了の音が鳴り響いた。

 どうやら引いていたのは錯覚で余裕で向こうに引き寄せられて、一気に引かれたみたいだ。


「負けたねー」

「赤団つよー」

「手いたー」


 負けても何の悔しさも感じない腑抜けな声が出る青団。

 それは俺も同じだが、表向きは眉間にシワを寄せて雫に話かける。


「負けた……。すまない星野。俺の力不足だ」

「そ、そうっすか……」

「切り替えて次頑張ろうな!」

「――う、うぃー」


 雫は今までにない位によそよそしい声を出して会話を流してきたのであった。




♦︎




「――気持ち悪いんですけど」

「ぐっふっ……」


 雫に呼び出されて2年F組の教室にやってきた。

 そして彼女がいきなり口を開いたかと思えばプロボクサーの右ストレート並のシンプルかつ強烈な言葉を放たれて、俺の心は開幕からK.O寸前だった。


「なんですか? なんなんですか? 何を企んでいるんですか?」

「いや……別に……」


 俺は視線を逸らして呟く様に答える。


「その態度は明らかに何かある態度じゃないですか」

「別に……。何も……」

「そもそも、何かを企んでいるとしても気持ち悪いのでやめてください」

「そ、そんなにキモい?」


 尋ねると苦虫を噛んだ様な表情で雫が答える。


「いえ、キモいというか……。気持ち悪いんです。何て言うんですか? あの……運動靴で水溜りに入ってしまい、靴の中に水が侵入して靴下がグチョグチョになる様な……」

「あー。それは確かにキモいと言うか、気持ち悪いな」

「それと同じです。無理矢理スポーツドリンク渡して来たと思ったら綱引きで下手くそなウィンクしてくるし……嫌がらせですか?」

「いや、嫌がらせじゃなんかじゃ……」

「もはやセクハラ、パワハラの類ですよ?」

「セクッ……!? パワ……ハラ……」


 俺は雫の言葉にその場で倒れ込んでしまう。


「え? なに?」


 俺の状況に雫が困惑の声を出す。


「雫……。違うんだ……。俺は……。そんなつもりは……。パワハラのつもりは……」

「何の小芝居ですか?」

「俺は……」

「凄く面倒くさいです。面倒くさいですけど――なんなんですか? パワハラがそんなに刺さったのですか?」

「俺は雫に――」

「そんなに? そんなに効いた? ――あーもう! 話が進まないので喋って下さい!」


 雫に若干怒られて、このままウジウジしていたら後が怖いので立ち上がって彼女に事情を話す事にした。


「さっきリレーで完士に雫の扱いが『使用人パワハラ』と言われて……」

「何ですか? そのピンポイントかつ使用頻度の少ないパワハラは?」


 俺と全く同じ台詞が出てきてちょっと嬉しかった。


「その……。先に必ず家にいる事とか、出迎えとかを無理強いさせているんじゃないかと……」

「なるほど。それがパワハラに値するのではと?」

「うん」

「――くっだらね……」


 雫は笑いながら言った。


「だから慣れない意味不明の優しさを私に押し付けてきたんですね」

「あ、うん」

「ま、あれは優しさでもなんでもないですけどね。あれこそがパワハラですよ?」

「そ、そうなのか……。あれがパワハラなのか……」

「どっちかっていうとセクハラかも。下手くそなウィンクとか」


 本日2回目の下手くそなウィンクという言葉をもらい、それがなんやかんや1番きつい言葉かも……。


「ぐ……。そ、そんな……」


 俺がショックを受けていると雫が溜息混じりで言ってくれる。


「時人様。私は別に先に家にいるのも、出迎えも何の苦でもありません。だからパワハラなんて感じた事1度もありませんよ」


 先程まで悪魔的な言葉の羅列で俺を口撃してきたのに、急に優しい女神の様な声で俺を包んでくれた。


「ほ、ほんとか?」

「はい。ほんとです」

「ほんとのほんとか?」

「ほんとのほんとです。パワハラ何てとんでもない。むしろ感謝しかありませんよ」

「感謝しか….…。そ、そうか……」


 雫は自分の言った事が少し恥ずかしくなったのか、教室の窓からグラウンドを眺め出した。


「だ、だから気持ち悪いので、今日みたいな事はしないでください。気持ち悪いので」


 大事な事なので2回言われた。


「分かった」

「――あ、ほら。時人様。もうすぐ二人三脚の時間じゃありませんか?」

「あ、そうだな」

「ほらほら、いつまでもこんな所いていないで戻りますよ」

「あ、ああ」


 雫は少し早足で俺の横を通り抜けて行ったので、俺もそれに続いて教室を後にした。


 良かった。雫の奴は何とも思っていないみたいで。


 ありがた迷惑な行動は今後慎むとしよう。

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