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入学理由

「堂路くーん。ちょっとー!」


 体育祭の諸々が決まり、完士もとっくに教壇から降りて葛葉先生とバトンタッチし、彼女の軽い報告事項が終わった所でタイミング良く6限が終わった。


 なので、今日は数分早く放課後を迎えた教室で、今日はバイトもないし帰って何をしようか計画を立てようとした所に手招きが入る。


 無視する事も考えたが、流石に可哀想なので素直に先生の所へと歩いて行く。


「はい?」

「今日補習だけど……分かっているよね?」

「ほ……しゅー?」


 言葉の意味が分からなかった。

 いや、その言葉の意味は理解出来ているが、何故俺がそれに妥当するのか検討が付かなかった。


「あ、やっぱり。話聞いて無かったでしょ?」


 呆れた様な、それでも可愛い生徒だから、みたいな感じの笑いをした後に説明してくれる。


「先週も言ったけど……。中間テストで欠点がある人は今、放課後補習を行っているんだよ」

「へぇ。そんな一昔前のスパルタみたいな事を現代の時代の学校でもやっているんですね」

「スパルタって……。救済処置だよ?」

「あー。それに出ると欠点回避的な?」

「うーん。まぁそんな所かな? だから欠点のある人はほとんど参加してるよ」

「なるほど。それと俺が何の関係が?」

「えーっと……。堂路くんは数学0点でしょ? それで今日が数学の日だからね」


 そう言われてポンと手を叩いた。


 そうだ、そうだ。雫のおかげで親父のミッションをクリアしたからすっかり忘れてたけど、そういや名前書き忘れて0点だったな。


「でもさ、先生。名前書き忘れた位で0点て厳しくない? この現代の時代にそんな厳しい学校はそうありゃしやせんぜ?」


 適当な事を言い放つと葛葉先生は苦笑いを浮かべる。


「大学入試や会社の筆記試験でそんな言い訳は通用しないよ?」

「確かに……」

「出といた方が良いよ。このままじゃ折角良い点数取ったのに0点のままなんだから」

「はぁ……。まぁ今日は何にも予定無かったから出ますか」

「うんうん。あ、30分後にB組でやるからねー」


 そう言われて無意識教室の時計を見た。


「30分後ー!?」




♦︎




 中途半端に空いた時間。

 俺の1番嫌いと言っても良い時間かも知れない。


 何かを始めるには時間が無いし、ボーッとするのは短過ぎる時間をただただ無駄に浪費しているかの様な時間。


 いきなり補習と言われて、俺の喋れる人が補習にいるのか分からないし、B組には友達もいないし、その友達がいないクラスの前で1人ポツンと立つのも嫌なので、渡り廊下の自販機にやってきた。


 放課後という事もあり、誰もいないのはありがたく、俺は自販機にお金を入れてジュースでも飲もうかとボタンを押そうとする。


「――スキあーり!」

「――え?」


 ふと後ろから伸びた手が俺の飲もうとしているジュースとは違うジュースのボタンを押した。


「ふっふっふっ。油断大敵じゃよ」


 手の主が俺の横から自販機の取り出し口より、先程押したジュースを取り出す。


「なんだ、紗雪か……。てか、勝手に押すなよ」

「これはバイト代として頂く事にする」

「バイト代?」

「そ、バイト代。メイド代ともいう」


 言いながらジュースのプルタブを開けると、プシュ! っと炭酸が抜ける音がした。


「なるほどな。確かに瑠奈にやたら絡まれてるよな」


 笑いながら言うと紗雪が肩を落とす。


「笑い事じゃないよ。結構大変なんだからね。瑠奈ちゃんからの質問攻めとか。――ん? それにしては安上がりな気が……」

「自分で言っといて疑問に思うなよ……」

「でも実際メイドってどれくらい稼げるの?」

「あー……。さぁな……。そういや雫はどれ位稼いでるのやら……」


 再度お金を入れて自分の好きなジュースを選ぶ。


「雇い主なのに分からないの?」

「実際雇っているのは俺の親父だから、そう言ったお金関係の事は全く分からないな」

「専属メイドなのに?」

「専属だけどさ……。俺も言うてガキだし……。てか、そんな話にならねーからな」

「――それもそっか」


 納得したようで紗雪はグビグビと炭酸ジュースを飲む。


「今から部活だろ? ガブ飲みして大丈夫なのか?」

「大丈夫、大丈夫。逆に飲まないと。水分補給は大事だよ」

「運動前の水分補給は大事だろうけど、圧倒的違う感……」


 しかし、紗雪は運動前なんてお構いなしに、まるで仕事終わりのお父さんよろしく、生ビールを一気に飲むかの様にジュースを飲む。


「――ぷっはぁ! ところで、時人くんはこんな所で何してるの?」

「数学の補習があるらしいんだよ。で、中途半端に時間余ったから適当に時間潰しにな」

「数学欠点だったの? え? 確か50位じゃ無かったっけ?」

「名前書き忘れて0点だとさ」

「1つ0点なのに50位? それって――」

「ふふふ。どうやら俺の凄みが分かったみたいだな」

「間抜けだね」


 紗雪はお腹を抱えて笑ってくる。


「あらら……」


 転けそうになった。


 今のは、凄いね、って言ってくれる所だろう。


「名前書き忘れて0点の人って初めて見たかも」

「俺も初めてだよ。――で? 紗雪は部活行かなくて良いのか?」


 そう尋ねるとスマホを見て「あー……」と苦笑いを浮かべる。


「どうせまだ誰も来てないから良いよ」

「ふぅん。部活というよりサークルに近いな」

「そうだねー。弱小だから……。いや、それよりも下のランクみたいな?」

「でも紗雪はバスケ上手いじゃん。何でこんな弱い所来たの?」


 軽い気持ちで聞いてみると、彼女にとってはそうでは無かったみたいで、珍しく顔を沈ませた。


 しかし、すぐに明るいいつもの顔を見せてくれる。


「実は第1希望の学校はバスケで有名な学校だったんだよー。でも見事に落ちましたとさー」


 明るく笑いながら言ってくる。


「そうだったのか……。滑り止めも強いバスケ部がある所。――とはならなかったのか?」

「あははー。何かね……。私はそこでバスケするビジョンしか無かったんだよね。他でやるってイメージが無くて。だから……。超ゲキ萎えぽよー。みたいな?」


 そう言った後にジュースを一気にあおぎ、空の缶をゴミ箱に捨てる。


「だから、もう良いやってなってね。学校も何処でも良いって自暴自棄になってたんだよねー。でも、この学校に入ってさ、体育館とかでバスケットゴールとか、ボールとか見てると、やりたくなってね。真剣じゃ無くても――プロになれなくても、遊びで良いやって事で部活に入りましたとさ」

「紗雪。それ――」

「――あっと! もうそろそろ行くね! 時人くんも補習頑張って!」


 紗雪は少し無理に話を終えてこの場を駆け足で去って行った。


「――ジュースご馳走さまー!」


 最後に振り返り手を振ってくれたので、俺も振り返して彼女の背中を見つめる。


 紗雪……。あれは誰でも嘘って分かる台詞だったぞ……。


 そう思うのと、彼女の事を少しだけ知れた気がしたのであった。

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