異世界転生した俺は幼馴染の悪役令嬢にいぢられるのが嫌だから冒険者になって成り上がりを試みるも、ここ乙女ゲー世界だからやばい?
主人公は異世界転生者!お隣に住む幼馴染が大嫌い!
@短編その5
俺は公爵家次男、アルフィー、だった。
爵位をぶん投げて馬車に乗って辺境伯のお爺様の所に逃亡中。
俺はここで産まれた。
4歳のある日、隣の幼馴染で同じ年の女、リィム。こいつと遊んで、いや。
嫌がる俺を引き摺って、川縁に連れて行き、どん!!
押された勢いで、俺は川に落ちた。
水流が早く、どんどん流されて、必死で踠いて助けを求める俺を・・あのクソ!!
あのくそリィムは、指差しながら大笑いしていたんだ。
「およげないんだ!おとこのくせにー」
俺は呆然とした・・・
こいつ、俺を殺そうとしている・・・いや、殺す気がなかったとして、心配とか、助けを呼ぶとかあるだろう?なんで指差して笑っていられるんだ・・・・嫌いだ。こんな奴、大嫌いだ・・・
気がつくと我が家のベッドに俺は寝ていた。
お母さまが涙を流していて、お父さまも『馬鹿者!』と言っているが、顔をくしゃくしゃにして微笑んでいて・・兄さまもグスグス泣いて『良かった、良かった』って・・・
「しんぱいかけてごめんなさい・・」
俺を愛してくれる家族。
でも、彼らに被るように、別の顔が見えた・・・
シンイチ シンちゃん シン まだ死ぬな、死ぬな・・・
3人が誰かの名前を呼ぶんだ・・・
誰だろう・・懐かしい
あ、彼らは・・・俺の・・・違う世界の家族だった人達だ・・・
そうして俺は、前の世界での記憶を思い出したのだ。
驚いた事に、ここが前の世界で人気のゲームと同じ世界感に似ているのだ。
転生前の『俺』の記憶もぼちぼち憶えていたから、変に混乱しないのでほっとする。
転生をしたからって、いきなり人生は変わることはない。今まだ4歳だから!!
のんびりと人生を過ごしていけば良い。だって公爵家だよ?人生大当たりじゃん?
責任のある長男ではないし、兄さまは超有能だし!!
俺はテクテクと歩いていると、人の話し声に気が付いて、何気無く聞いてみる。
何話してるのかな〜程度の、本当に何気無くだった。
あれ?お父様と、あのくそリィムのお父上、ザデレ侯爵様だ。こんな有能ですっごく良い人に、なんであんなクソが生まれるんだ。なんて思いつつ聞き耳を立てると・・
「どうだ、うちの娘とアルフィー君を婚約、我が家に婿入りしてもらえると良いのだが」
ん、な、何ーーーー!!なんだってーーーー!!!
あのくそリィムとか?冗談じゃねーーー!!!
「ははは、まだ4歳だよ。もう少し大きくなってからで良いんじゃないか?もしかしたらお互い、それぞれ好きな子が出来るかもしれないじゃないか」
わーーー!!お父様!!嬉しいーーー!!嬉しいーーーー!!好きーーー!!
「娘はどうやらアルフィー君を好きみたいなんだよ。考えておいてくれ」
え。
好きな子を川にドボン?そして指差して笑う?ないわー。
これは父さまと母さまに、俺があいつをどれだけ嫌っているかを言っておかなくては!!
そしてリィムのお父上が帰ってすぐさま、俺は両親に激烈にアピールしたのだった。
「あいつきらい!かわにおとしたのあいつだもん!そしてこうして、わらった!きらい!!」
腕をブンブン振って指差す仕草をして。
これを聞いた両親は、顔を顰めた。『わかったわかった』そう言って抱き締めてくれた。
俺はほっとした。これで婚約はないだろう。
だが隣同士だから、あいつはしょっちゅう遊びに、いや襲撃してくる。
なりふり構わず、俺は逃げ回る。なんでこいつこんなにしつこいんだ!嬉しそうにニタニタ笑って!
だが大人達は暢気に『仲良しねー』とか言ってるんだ。
仕方ない。俺はこんなに口が悪くないんだが、こいつなら言って良し。
「くるなブス!!」
こう言うと、クソは更に猛ダッシュで俺に追い付くと、ガシッと首根っこに腕を回してぎゅうぎゅうしてくるのだ!
「やめろ!!このブス!!」
大人は微笑ましいと言った表情で『好きな子には意地悪しちゃうのよねー』とか!!
馬鹿言え!!どうやっても大人には、俺とクソが仲が良いと見えるらしい!!
ああ、やばい。このままでは本当に婚約させられる!
とにかく俺は『ここから逃げよう』、そう決心した。
そうだ!!辺境伯であるお爺様のところに行こう!
将来騎士になりたいとか言えばなんとかなるはずだ!!
やはり転生してるからか、4歳の頭脳じゃないからね!享年は16だった。よし早速実行だ!
こうして俺は次男だし、跡継ぎでないから身軽だし、将来を見据えれば騎士になるのも良い選択。
両親もそれは良いと賛成してくれて、俺はお爺様・・辺境伯のところに騎士修行するために旅立った。
4歳の子供でも厳しく扱かれ、俺は日々成長を感じた。魔術も教わった。
7歳くらいになると、騎士見習いの同い年くらいの子が入ってきて、友達も出来た。
毎日が楽しくて仕方がなかった。
ラッキーな事に、転生者はこの世界の人間よりも物覚えが早く、魔力も元々多めのようだ。
俺は学園に行かなくてもいいように、勉強も魔術も頑張った。
首都の学園だが、この世界があのゲーム世界だったとしたら、主人公であるヒロインや取り巻きのイケメン君達との恋愛騒動に、もしかして運悪く巻き込まれるかもしれないのだ。それ絶対に嫌。
俺は登場人物じゃないから大丈夫かもしれないけど、用心に越した事はない。
それとあのクソが入学する。もっと嫌。
今が一番幸せだから、学園絶対拒否。十五になったら騎士になる。
年に2〜3回両親や兄様と面会するも、実家の公爵領には全く帰らず。クソとも一切会わず。
月日は流れ・・
遂に15歳。俺は騎士としても期待される有望株に成長していた。
人にまず慣れないと言われるドラゴンに乗り、遠征に赴くと、もうみんな大騒ぎ!
「アルフィー様ー!!きゃあーー!」
これですよ。これ。俺に声援してくれるお嬢さん方ですよ。ここでは人気者なんです。
辺境伯には跡取りがいないので、お爺様が後継に是非と、両親に打診している。
このままこの地に留まり、後を継ぐのも吝かでない。そう思っていた。
だが!!両親は『学院に行くのは貴族なら当然の事』と言う。
仕方がないと、実家に10年ぶりに戻るも・・驚きの事態が待っていた。
なんと・・・いつの間にかクソとの婚約が、勝手に決められていた!!
誰もわかってくれていなかった・・・母上がにこやかに宣った。
「リィムさんが貴方の婚約者になったわよ」
「は?」
「あなた達、仲が良かったもの。それから川の事、悪かったって言ってたわよ」
俺の頭の中が、怒りで煮えたぎる・・・
「あのですね、母上?『言ってた』って。ク・・あいつは俺に直接謝りもしないのに?母上何を勝手に許してるんです?母上は俺が言ってたこと聞いていましたか?俺はあいつが大嫌いだって!!なんでわかってくれなかったんです!!」
「ア、アルフィー?」
俺の言葉に母上は驚いている。驚くって事は、やはり分かってなかったって事か・・
「ここを出ていったのは、あいつが嫌いだったからです!!10年の間ここに一度も帰らなかったのも、あいつを見たくなかったからです!あいつは俺が嫌がっているのに追っかけ回して、首をぎゅうぎゅう締めてきて!!それを仲が良いって!!もう知りません。さようなら!!俺はここを出ていきます!!もう二度と帰りません!!」
俺は外で待たせているドラン(ドラゴンの名前)に飛び乗ると、上空に急上昇して飛び立った。
地上では母上が何か言っているがもう知らない。そして誰かが駆けてくる・・
見るな。
多分クソだ。
二度と見るか、ここを出て行く時誓ったんだ。
キラ・・
14歳の時、偵察用に偽名で作ったギルド証が、首にぶら下がっていて揺れる度に光る。
愛竜ドランは小さなサイズにも変化出来るので、いつもは俺の大型リュックで寝ている。
家を出て1年。
お爺様には時折連絡を入れているが、公爵家には一切不通だ。
母上に裏切られるとは思わなかった・・・未だ俺は根に持ってて、許していない。
母は優しい人だから、お隣の幼馴染で婚姻すれば、すぐそばに子供がいて良いじゃない?
なんて気楽に思ったんだろう。
これなら学園に行かないで、辺境伯にいればよかった。
あれから俺は、フリーの冒険者として旅を続けている。
今日も依頼を受け、森林の奥に進み・・ワームの巣を撲滅。
ドランは第2形態・・馬くらいの大きさになり、俺と共に戦う。
「よし、巣を焼き払うぞ。ドラン下がれ」
ドランは第1形態・・掌よりも少し大きめサイズに変化し、俺の肩に乗る。
火球を巣に打ち込んで完了。
酒場に立ち寄り、カウンターで夕食を食べていると、近くの席の話が耳に入る。
「聖女様が降臨されたって?」
「ああ。今学園で勉学に励んでいるそうだ」
「元庶民だから、大変だろうなぁ」
おお・・遂にヒロイン現る!確かなんて名前だっけ・・忘れた!
俺には関係ないからな。学園でイケメン君達と乳繰り合うが良い。
そう言えばヒロインを虐める悪役令嬢は、なんて名だっけ・・・これも忘れた!!
俺に一切関係ない!!学園通っていないし!!
ドランに肉を渡すと、両手で肉を挟んでカプカプと食べて本当に可愛い。
翌日・・
ギルドに行くと、お爺様の手紙がドラゴン便で届いていた。箆棒に高い送料なのに・・
お爺様にだけ滞在中利用しているギルドを教えているので、こうやって何度かやり取りもしている。
何の用だろう。まさか、お爺様に何かあったのか?俺は慌てて手紙を読む。
『み つ け た』と書かれただけの便箋・・
ブワッ!!
黒い霧が手紙から立ち上り、何本もの腕が伸び、それらが俺を捉えようとする!
「消去!!」
俺は術を解除して、ギルドの外に飛び出る。
闇魔法?珍しい術だな・・でもお爺様の手紙から?
ギルドの床に落ちた便箋を中心にして、魔法陣が現れ・・人影が立ち上がり、それは人に変化した。
「アルフィー!探したわよ!」
「あ?誰だお前」
黒いローブを纏った少女が俺に向かって駆け寄ってくる。
黒髪。濃い琥珀色の瞳・・・まさか。
俺はドランを第3形態にして、さっと飛び乗ると一気の上昇して飛び去った。
下界では少女が何やら叫んでいるが、知った事か。
なんてこった・・
これでお爺様も信用ならなくなった。
それっきり俺はお爺様とも連絡を絶った。
でも・・『み つ け た』って!!恐っ!!やっぱクソは近寄るべからず、だな!
************************** 実家(公爵家)では
1年前、次男がドラゴンに乗って飛び去って・・
「まさかそこまで嫌っているなんて」
侯爵夫人・・アルフィーの母はさめざめと泣いた。
10年前、4歳の息子が将来の為に、辺境伯の祖父の元に旅立った。
将来は騎士になる為に旅立った、そう思っていた。
やっと帰ってくる息子を驚かそうと、婚約は黙っていた。きっと喜ぶに違いないと。
だが息子は激昂し、出て行ってしまった。『二度と帰らない!』そう言い残して。
まさかそこまで嫌っているとは・・
次男がとなりの侯爵令嬢リィムが大嫌いで、家に帰らなかったのだとようやく理解した。
10年も戻らないのだから、本気で嫌っていたのだろう。
ちっとも息子の気持ちに気付かなかった母親は、すっかり塞ぎ込んでしまった。
父も兄も同じで、全く気付かなかった。
ドラゴンに乗り飛び去って数週間後、息子から手紙が届いた。
『婚約が解消されない限り二度と戻りません』
たった一行の手紙だった。
4歳の時、大人しい次男が両親に言った、あの日を思い出す。
『かわにおとした!ゆびさしてわらった!』
息子は顔を真っ赤にして怒っていたのに・・
それなのに、私達は勝手に婚約してしまった。
その後・・
1年絶っても息子は帰ってこない。
「私、直接謝ってきます!そして婚約、説得して納得してもらってきます!」
リィムが言うので、一縷の望みを託して任せた。
今思えば、なぜ託してしまったのだろう。会って話せば、婚約を解消しないのではないか。
その時は思ってしまったのだ。彼女の熱意で打開出来るのでは、と。
そうしたら・・辺境伯である父が激怒して、公爵領にやって来たのだ。
「お前達のせいで、アルフィーから一切連絡が出来なくなってしまった!!馬鹿者!!なぜ嫌がっているのにその娘を送ったのだ!!」
騎士として、跡取りとして期待した自慢の孫が失踪した理由を知って、辺境伯は大激怒。
「ああ・・こんな事なら、ここに帰らせるのではなかった・・アルフィーは行きたくない、騎士になると言ってくれたのに。あんなに嫌がっていたのに・・騎士として継いで貰えば良かった。儂は残って欲しかったのに・・・」
辺境伯もガックリと肩を落とし、自領へ帰ってしまった。
さて、一方その元凶はというと。
リィムは婚約を解消されたくなかった。だって彼が好きだから。
10年以上会っていない相手だが、ずっと好きでいた。
川に落とすつもりは無かったが、その事をここまで怒っているとは思わなかった。
「いやー、小さい時の悪戯だったなー」
こうやって笑い話になると思っていた。だが彼は違っていた様だ。
「いつまでも怒っているなんて男らしくないわね」
でもちょっとだけ、転移魔法でギルドに行って、10年ぶりに彼を見た。
背が高くなって、長剣を背に背負って、本当に格好良くなっていた。
「私の婿に相応しくなっていたわね」
二人でこの侯爵領で暮らす日が待ち遠しい。
アルフィーの姿を思い出し、うっとりとするのだった。
**************************************************
「学園に通っていたら、今は3年生か」
久しぶりに王都近くの依頼を受け、完了させてギルドに戻る途中だ。
彼は最近Sランク冒険者となり、フリーであちこちの依頼を受けていた。
Sランクともなるとプライベートも厳守してくれる。
たとえ肉親だからと、安易に連絡を受け付けない様にしてくれるのだ。
だからアルフィーは安心してギルドに任せている。
でもギルドが勝手に『あいつら』と連絡などしようものなら・・・
今後一切要望には答えないと伝えている。Sランクと公爵家では、Sランク冒険者の方を優先させる。
アルフィーはこの恩恵を受けたいが為、Sランクになるまで頑張ったのだ。
彼の事情を知る高ランクの冒険者は、彼の気持ちを配慮してくれる。
なんと言ってもフリーでSランクだ。アルフィーも彼らには『お礼』をしている。
依頼の手伝いや、アイテム、資材の提供などだ。
さて、そんなある日。資材鑑定の待ち時間・・
ギルドの待合カウンターでソフトドリンクを飲んでいると、数人の若い冒険者のお喋りが耳に入る。
内容は学園の聖女の事、それと王子の事だ。
さすが王都の学園だ、こんなギルドまで噂が聞けるのだ。
「王子様、聖女にぞっこんなんだって〜」
「でも平民でしょ?聖女なら王子様と結婚出来るのか?」
「昔の聖女で王子と結婚した人いたっけー」
「いたと思う。随分前の聖女だっけ?」
「でも今の聖女って、王子だけじゃないんだそうだ。宰相閣下の子息とか大臣の子息とか」
「えー?それ、節操無い〜。聖女って言うから清純なイメージだったのに〜」
「王子や他の奴の婚約者達がどう出るかな」
「みんな高位貴族様の御令嬢だぞ?婚約者いるのに好きだからって、浮気?どうよ?」
「オレ貴族じゃ無いからわかんなーーい」
「でもなんで高位貴族って側室侍らせるんだ?」
「妃が産めなかった時の予備だってさ」
「元々サイテーじゃん!」
うわ。ゲームのシナリオ通り。聖女って淫乱なのか?
エロのゲームでは無かったけど、ゲームでは恋人でも無いのにキスまでするんだぜ。
まだハグまでなら許すけど、チューはダメでしょ。それも複数人。
全く、逆ハーレムまっしぐらだね。凄いね!
俺は高位貴族だけど側室なんか作る気は無いぜ。
ただ一人で良いもんね。ま、まだ彼女いないけど!
俺は宿屋に戻り、一夜を明かし・・
翌日、宿屋の受付に行くと、受付の女の子が挨拶をする。
「おはようございます!リーフ(アルフィーの偽名)さん。ご出発ですか?」
「ああ。おはよう。精算頼む・・・なんだか騒がしいね、外」
「今日は『聖女の禊祭』です。少し先にある神殿の女神像に、浄めの水を掛けるお祭りなんですよ」
「そうか、もうそんな時期だったか。じゃ、ありがとう」
神殿に行くのも久しぶりだ、ちょっとお祈りくらいのつもりで出かけると、大勢の信者に観光客でごった返していた。出店もあって賑やかである。
「いらっしゃいませー、お守りを販売していますーー。色んな付与が付いていますーー」
へえ、御守りか。しかも付与付き。
おみくじ感覚で買うのか。良い付与がついているといいなぁ。
巫女服の販売員に声を掛けると、彼女はおみくじの箱を手渡す。ガシャガシャ振るヤツだ。
「お一人おひとつになります!この箱を振ってください。番号のお守りをあちらで受け取ってください」
ガシャガシャ、ほい!振ると一本の棒が出てきた。
「はい!えーと・・1番!1番出ました!」
俺はその札を持ち、交換所に向かう。料金とお守りを交換して、中のお守りを拝見。
「お!悪霊退散!なんか嬉しい・・」
クソが近寄りません様に!!リュックに取り付け、少し歩いて神殿に入る。
『お久しぶりです、女神様。あのクソとの縁を!どうかどうか!!切ってください!!お布施弾みますから!!』
10分ほど跪いて、もう真剣に祈りましたとも!
お祈りの所為か、なんだかすっきりした気分で神殿を出て、街道に出る。
この道を右に曲がると・・・お爺様の辺境伯領だ。随分会っていない。
「お爺様には会うか!」
俺はドランに乗り、辺境伯領に飛んだ。
俺の姿を見てお爺様は大変喜んでくれて、俺も爺孝行出来て嬉しい。
結果、婚約者と会う事に加担してしまった事を謝られてしまった。
「お爺様は悪く無いです。あれは勝手にやった人達が悪いんです」
この世界に生まれてきて、一緒にいた時間が一番長いのはお爺様だ。
剣術を教えてくれた俺の師匠でもある。
もう60歳なのにまだまだ現役騎士、しかもかっこいい。俺の大好きな人なんだ。
でもこの前の騒動のせいで、ちょっと痩せてしまったらしいと執事がしょんぼりしている。
お爺様がクソの話・・『お前は嫌がるだろうが聞いて欲しい』と言うので聞く事にする。
婚約は向こう側が申し込んだのだそうで、解消して欲しいと告げるとクソが猛反対したそうだ。
「あれほど嫌っていては、もう無理でしょう。婚約を解消するまでは帰らないと・・もう2年以上帰ってこないのです。このままでは家族がバラバラになってしまうので、申し訳ないが解消して欲しい」
両親が頼み込んだそうだ。それでもクソはダメだと言ったそうだ。
「ではもうお付き合いは出来かねます。こちらも息子が大事なので」
ここまで言って、ようやく侯爵は解消の手続きをしてくれたそうだ。こちらも誠意として賠償金を包んだとの事。今だにクソは納得していないのだそうだ。
「本当にすまなかった、アルフィー・・儂があちらの状況を知っていたら・・」
いつもキリッとしたお爺様が、こんなにしょんぼりして・・赦すまじ!
「いいんです、お爺様は全然悪く無いですから!俺はあちらには帰ろうと思いませんが、お爺様の所はずっと気になっていたんです」
「お前からの手紙が届かないのが、こんなに答えるとは。儂も歳じゃな」
「お爺様!もう手紙は送りませんが、これからはちょいちょい立ち寄ります。でも内密に」
「ああ、ちょいちょいと言わず、どんどんおいで」
辺境伯は『両親にも会ってやってくれ』と言いそうになるが、黙った。孫がヘソを曲げて、ここにまた来なくなったら洒落にならないからだ。
翌日。
久々に騎士団に顔を出すと、みんなが一斉に駆け寄ってきて。
「元気だったか」
「ちゃんと剣を振っているか」
「帰ってこい」
そして揉みくちゃにされた。10年いたのだ、馴染みの騎士達が嬉しい言葉を掛けてくれた。
俺が冒険家になって、ギルド公認のSランクになった事を告げると、
「すげーーーー!!」
みんなが喜んでくれた。
ああ、やっぱりここは良い。
辺境伯地で1週間滞在し、その間騎士団のみんなと剣の訓練、領内のダンジョンに遠征・・
騎士団のみんなと過ごした。お爺様も一緒に遠征に行った。剣を振る姿、やっぱりかっこいい!
こうして月に一度は辺境伯領に行くようにして、ギルドの依頼をこなしながら旅を続けるうちに、卒業シーズンとなった。いよいよ最終イベントが始まる。
「ま!俺には関係ない!俺学園通わなかったし!」
通っていたらどんな事になっていたやら・・・
あのクソが同級生とか。マジ困るわ。
「ゲームって俺はまともにやってない、情報だけなんだよなぁ・・」
タイトルは忘れたが、話題の乙女ゲーだった、と思う。雑誌に特集があって、人気の絵師がキャラクター描いてて。ボイスも人気声優で。
エロが無いと聞いて、俺は買わなかったんだよな。同級生の誰かがプレイしてて、話を聞いた程度。
王子と宰相の息子、天才騎士、魔法オタク、あと・・誰かいたはず。。忘れたけど!
そしてヒロインと悪役令嬢。
確か、卒業試験としてダンジョン探索が実技であるんだったよな。
で、ヒロインとイケメン達が遭遇するのが、キメラドラゴン(頭がドラゴンと山羊)、それを退治する事になる、だったか?
本当はちょっとした魔物を退治する授業だったのに、突然魔獣が現れるんだ。
こんな大変な時に、悪役令嬢が現れ、『ヒロインちょうど良い殺そう』と、いらん事をする。
その時にヒロイン守って怪我するのが、その時一番好感度が高かったイケメン。
だからイマイチ誰を攻略してるのか分からん人には、誰とエンディング迎えられるかが判る。
勿論、強制的に好感度を上げられるアイテムがキメラを倒すと貰えるから、予定の彼でなかった人も安心、だったはず。キメラ倒したら貰えるのが、『傾慕のキャンディ』。5つ分入ってて、これ食わすと高感度爆上がり。卑怯なアイテム。5つとか!!逆ハーレムに強引に出来るのか!!
「恐っ!でもこんな王子や側近で国大丈夫なのか?傾国しない?」
流石にこう考えると、ヒロインひっ捕らえて幽閉した方が良い。
ギルドに行くと、受付のお嬢さんがギルドマスターに会ってくれと言ってきた。
何か依頼されるのかな?なんて暢気だった自分を叱りたい。
「学園のダンジョン訓練に、指導者として行って欲しい。王子と側近候補という事なので、Sランクの君にと王からの依頼だ」
あちゃーー。
遂に関わっちゃったーーーー!!!
そうだ!ここで手に入るキャンディを奪う!そしたらなんとかなりませんかね?傾国阻止!!
でも俺はガッツリゲームしてないからなぁ・・ま!手に入ったらキープはしよう!
こうして数週間後。
ダンジョン実習の当日となった訳だ。
俺の側には、ヒロイン、王子、宰相の子息、天才騎士、魔法オタク・・あれ?
あと一人、いない・・・?
「えーと・・王子達の班は、これで全員かい?」
俺は皆の顔をぐるっと見渡す。
「はい!全員です!」
ヒロインがニコッと微笑んだ。ふーん・・こんな子が傾国しちゃうの?
胸が大きめではあるが。スタイルも男が好みそうな、ちょっと背が低め。顔は可愛い系。
こんな子よりも、どこぞのギルドの受付嬢の方が好みだなー・・
ま、それは置いといて。
「では、俺はしんがりでついて行く。みんな進んでくれ」
ダンジョンに入ると俺は『光明』を唱える。生徒の『光明』でも良いんだが、俺の方が長持ちで明るいのを出せるからって事で。
「地図を各自確認してくれ。ダンジョン地図の読み方は、もう習ったか?」
「はい!」
「じゃあ大丈夫だな。ポーションを忘れている奴、いたら俺のを貸すぞー」
「ちゃんと用意してます!」
ヒロイン妙にテンション高いな・・でも男共、返事無しで睨んで来る。おっとぉ。
「男子達!!返事くらいしろ!ここが初心者向けのダンジョンとはいえ、油断して怪我したら困る。ポーション大丈夫かー!」
「(ボソ)・・・大丈夫です」
「(ボソ)俺たちと同い年で偉そうに・・」
誰かがぼそっと言った。言ったーーーーーー。
「おー、俺は偉いぞー。お前らと同い年だけど、Sクラスの冒険者だからなー。元公爵だし、騎士でもあるぞー。多分お前ら全員束になって来ても勝てるぞー。不服があるなら、授業後かかって来いやーーー」
「なんだと・・!・・ん?同い年?」
「・・元公爵・・も、もしかして!!お前、リィム嬢の元婚約者!逃亡の騎士か!!」
なになに?その二つ名!!お!元婚約者・・元になってるーーー!!やったーーー!!
「クソなんか『嬢』なんて付けなくて良しー。怖気が立つからクソの名は呼ぶなー」
地を這う低い声で言うから王子達が驚いてる。
「え」
「クソって」
「その、大丈夫か?リィム嬢も今この授業受けているんだぞ。見つかったらどうするんだ」
「授業は受け持つ。依頼だからな。クソが来たら・・麻痺でもかけるか。痛い目あわす」
「睡眠でも良いのでは?」
「気持ちよく寝かせるもんか。ビリビリ苦しませる」
「・・相当恨んでいるな」
「恨むさ・・あいつが隣に住んでいるから、両親と10年も離れて暮らしたんだ」
「うへっ!!」
「でも・・・同情する。あの令嬢は・・鬱陶しい」
ん?
「しつこく言い寄ってくるし、彼女(婚約者)を苛めるし・・」
え?
「『私、婚約解消してフリーだから』とか言って寄ってくる」
あ・・
「もう勘弁して欲しいんだよね。婚約者も怒ってるんだよね」
うわーーー!!あのクソがぁーーー!!
「俺の所為でとばっちりか!!大変申し訳ない!!」
思わず頭下げちゃったよ。本当、あいつは・・高位貴族どころか王子まで・・
「あれじゃ逃げたくなるよねー」
「其方も苦労をしたのだな」
「うんうん、良いって事」
「もう直ぐ卒業だから、それまで我慢さ」
何、このイケメン!良いやつばっかじゃん!!ヒロイン!お前絶対に彼らを幸せにしろよ!!
気を取り直し、俺達は奥に進む。もう少し奥で、キメラドラゴンが出てくるんだよなー。
ん?走るような足音が向こうから・・来た!!!キメラドラゴンより厄介な・・
「アルフィーー!!いたーーー!!」
「麻痺!!!!」
「ぎゃー!!イタ、イタタ、イターー!!」
ゴテン、とクソが倒れ、ヒクヒクしている。イケメンの分も加味しておいた。暫く苦しめ。
「先生(と呼んでもらっている)、良いんですか?」
「良いんだ。授業の邪魔だ」
そろそろ来る頃だ、そう思っていたら。
「もーー!!アルフィーの馬鹿ーーーー!!」
ブシュルン・・
クソの体からなんか黒い霧みたいなモノが湧き出して、どんどん湧き出して・・・黒い大きな影になって・・シュッと黒い霧が晴れたら、いた。キメラドラゴン!!
「お前が出すのか!この厄介なクソが!!」
こんなクソなんか構ってられん。俺達は剣を抜き、術を練り、体勢を整える。
「行くぞ!!王子と宰相!お前ら右だ!残りは左!!」
「はいっ!!!」
「魔法使い!!火球を3発、体に打ち込め!!次に氷華を3発!その後騎士で叩き割れ!!」
「は、はいっ!!」
「聖女!お前は怪我した奴を順次回復しろ!」
「はいー!!」
「王子と宰相は後ろの足を各個撃破!!足一本をまず潰せ!!」
「足をなぜ「逃さないためだ!!それが潰れたら、今度は前足!そして横倒しにする!!」
「はい!!」
「俺は頭を潰す!」
キメラドラゴンは、よってたかって殴ったので、さっさと倒したのだった。
「ついでだ、解体を教えるぞー」
「えーーー(男共)」
「えー?(聖女)」
「こら男子ー、ビビるんじゃないわよー(裏声)」
「ははっ!先生ったら面白い!」
「行くぞー!為になる解体術!!まず、頭を落とす!」
ス、パーーーン!!
男子の方がビクーーンと体を跳ねさせてビビっている。ふふ、可愛いものよ。
さすが聖女は料理もしているのかビビりませんねぇ。
「血抜きをした方が解体しやすいんだけど、時間が無いからそこ飛ばす。腹とこのフチから刃物を入れ、するーーーっと丸くくり抜く。そうすると腹の皮を痛めないから・・・・(以下省略) 」
こうして解体術も終了。
解体をしたのだが、アイテムが出てこなかった。ま、いっか!あんな危ないもんいらん。
「おい、先生。彼女はどうするんだ」
麻痺状態のクソを王子が指差す。
「麻痺は後30分で切れるから、放っておいても大丈夫。触っちゃ駄目だぞー、王子達!汚れちゃうから!じゃみんなー帰るぞーーー」
「はい!」
クソがぎゃあぎゃあ騒いでいるが、もう無視。
あ、そうだ。あいつが闇魔法でキメラドラゴン出した事報告しとかなくちゃな。
帰り道、聖女が俺に話し掛けてくるので、お愛想を振り撒いておいた。
もー、馴れ馴れしくしないでぇー。王子達が睨んでくるからーー!
で。学園に戻ると、聖女が話しかけて来た。なつかれているのか?
「先生!また会ってくれますか?今度は街とか」
「いやー、今回は臨時で受けた任務だから。今度は海外なんだ。当分戻らないと思うから。そうだ、もうすぐ卒業なんだっけ。おい!王子達!!キメラを売った金、分けるぞーー。お小遣いだぞーーー。これで、今から何か食べるぞ!ついて来い!!」
聖女からするりと離れ、俺は王子達に声を掛ける。王子達はあまり庶民的な事をしていないようだから、この辺の美味い飯屋を知っているので連れて行く。同い年の男とあまり関わっていないから、野郎と連みたいんだよ!!ああ、なんか楽しーー!!学園に通っていたら、こんな風に楽しかったんだろうな。
王子や宰相、天才騎士に魔法オタクとは、多分仲良くなったと思うんだよな。
飯食いながら色々お喋りがもう楽しい!!本当、俺的にスッゲー楽しかった!!王子や宰相、天才騎士に魔法オタクと名刺交換しちゃった!!この名刺を家の執事や警備に見せれば、彼らを呼んでもらえるんだぜ!遊びに行けちゃうんだぜ!!
俺も特製名刺を配っちゃったぜ!これはギルドで有効、見せると手紙を俺に送ってくれるんだぜ!
さて。あれからまた日にちが過ぎて・・・
遂に!卒業パーティーだ!なんとおよばれされちゃったよ!!
あの授業の後も、俺達会ってるんだぜ!たまに聖女も混ざるけどね。
この間なんか、お城に招かれちゃったよ!一緒にダンジョンにも天才騎士と巡ったぜ!!
ちょっと分からない呪文があったから、魔法オタクの家にも『突撃隣の晩ご飯』!
豪華弁当を持ってお邪魔しちゃった!!もういつの間にか親友だよ!!
と言うわけで、お祝い抱えてホールにいる訳だ。
聖女と話したけど、彼女は彼らとは恋愛とかではなく、本当に守ってもらっているだけだったのだ。
王子達は好意はあるけど、どうも危なっかしい妹を見守る、みたいなんだよな。
彼女の方もそんな感じで接しているとか。
そっかー。じゃ、あの断罪イベントは無いんだ。よかったよかった。そして傾国も大丈夫、と。
俺は安心して王子の従者、宰相の従者、天騎(もう略する)の従者、魔法オタクの助手にそれぞれお祝いを渡す。ホール中央では、卒業生達が教師や貴賓の話を聞いている。
俺も通っていたらあの中にいたんだなーー・・ちょっとメランコリックな気分。ふぅ・・
しかし、クソは婚約解消してから王子達に迷惑をかけまくっていたとか。
もしかして、悪役令嬢枠?お似合いーーー!!聖女とお前なんか、比べられるかっての!
彼女はお兄ちゃん達(王子達の事だよ)に可愛がられて、聖女を頑張るんだよ。
でもなんで俺が10年も離れていたのに、婚約したんだろうか。
俺のことが好きって、それこそゾッとするぜ・・・怖いわ。
まあ、諦めてくれたので、もうどうでも良いけどな!
・・・・・気になることといえば、ダンジョンの授業にはあとひとりいた筈なんだよな。
確か・・レアな攻略相手、だった様な。そして、キャンディ。
見つける為に、解体までしたのに出てこなかった。
「では、みんな楽しんでくれ!」
学園長の挨拶も終わり、パーティーが始まった。
ファーストダンスも婚約者や恋人と踊る奴も多いな・・チェ、羨ましくなんか無いんだからっ!!
本日俺は正装、辺境伯の騎士服を着てきたのだ。かっこいいんだぜ、この服。
お爺様が着たら更に!!かっこいいーー!!って叫んじゃうくらい!!
俺もいつか、お爺様の様なロマンスグレーのダンディな紳士になりたい。目標です。
「アルフィー!来てくれたんだな!」
「王子、みんな!呼んでくれてありがとう!お祝いは従者に渡してある」
「うわ!それ、辺境伯騎士団の正装じゃないか!かっこいいぞ!」
「お前達もかっこいいぞ!イケメンは何着ても似合うんだから参っちゃうなぁ」
「おい、アルフィーもう勲章を授与してるのか!」
「14の時にブラックドラゴンを倒したんだ」
「ひえ!凄いな!魔法も今度爆破系の!ジャンジャン打ち込みに行かないか?」
「行く行く!!新技この前ギルドの魔術師に習ったんだ!教えるぜ」
男同士でわちゃわちゃしていると、それぞれの婚約者がやってきた。
彼女達も紹介され、丁寧にご挨拶。
「婚約者達をちょくちょく遊びに誘うので、許してくださいね!ああ、そっちの遊びには誘いませんのでご安心を!」
なんて冗談を言って、『まあ、愉快な方!』と好評価。
ファーストダンスの曲が流れてきて・・
みんなは婚約者とファーストダンスを躍るため、フロアの中央へ。
「先生」
見ると可愛いドレスの聖女がそこにいた。ああ、お兄ちゃん達には婚約者がいるもんな。
「ではお嬢様。私に貴方と踊る名誉を与えて下さい」
片膝を折り、彼女の手を取り、手の甲に唇をそっと押し付ける。
俺これでも公爵だったからね。これくらいの事は出来ますって。
「あの・・踊れないんです・・」
「そうか。じゃ、俺の腕に寄りかかって、こっちの手で俺の手を掴んで。さ、右に回るよ」
「あ、キャ!」
「しー。適当にしていろ。俺が操ってやるから」
くるん、くるん。簡単なワルツだから、俺がちゃんとリードしていれば踊っている様に見える。
ちょっとビクビクしていた聖女も、終わり頃には笑顔になっていた。
聖女も楽しむべき。
そしてダンスは終わり、一礼。
「先生、ありがとうございます!」
「良かったな。ダンスは習わなかったのか?」
「・・・殿下や他の方には婚約者様がいるので・・頼みにくくて」
「そうだよな。言ってくれれば、この間会った時に教えてやったのに」
「良かったのですか?」
「うん。気にすんな。今は俺、平民な感じだからね」
「あの、先生」
「ん?」
「名前・・を・・呼んでいいですか?」
俺はまだ聖女に名前呼びを許していない。平民的なんだけど、そこはね?
「・・・先生でいよう」
「・・・はい」
御免な。ゴタゴタがまだ起こりそうだから。今は名前呼びはよそう。
しょんぼりする聖女に苦笑してしまう。なんでそんなにしょんぼりするの?
「あそこにブッフェがあるな。ちょっと摘もう」
「はい」
俺は聖女の手を取って、ブッフェテーブルに向かった。
パクパクと食べていると、聖女がこちらを見て・・
「先生。口に」
紙ナプキンで口の汚れを取ってくれた。
おお、良い嫁になるぞ。でも聖女って結婚出来たっけ。そういえばギルドでのおしゃべりで・・
「アルフィー!!何こんな奴と一緒にいるのよ!!私とは婚約解消したのに!!」
突然の大声で、俺の喉に肉がつかえて咳き込んだ。
ズンズンとものすごい勢いで近付いてくる気配を感じつつ、さてどうしたものかと考える。
すると聖女が俺とクソの間に割り込んだ。
「先生は、パートナーがいない私の相手をしてくれているだけです!」
おや。なんかゲームの聖女と違うね。どの男性も頼っちゃう!で、無自覚に逆ハーレムしたヒロインとはなんか違う。でも悪役令嬢はクソだったのか!ゲームでは王子の婚約者だったのに。
俺なんかと婚約してないで王子としとけよ。
でも王子としなかったから断罪イベントが無いのか。それはそれで良いか。
「私を・・私を・・・馬鹿にして!!アルフィーのくせに!!私のいう事をあなたは聞いてれば良いのよ!!」
そしてまた、体から黒いざらざらとした霧、この間のモノよりも濃い黒い霧が吹き出して、影になって、影が実体化・・蛇の様な魔物が現れる。
「ウロボロス?!」
誰かが叫んだ。そう、それだ。これ、そういう名の魔物だ。でもこれ、ゲームに出たっけ?
ああ・・こんな大勢の人の前で、こんなもの出したら、クソはもう・・幽閉か死刑じゃないか。
何してんだよ。
いつの間にこんなえぐい闇魔法習得してんだよ。クソがまだ戯言を言ってる・・
「なんでアルフィーは私を避けるの?私はアルフィーが好きなのに!なんで?ねえなんで?アルフィーもその女が良いの?みんな私を嫌うの、ねえなんで?」
「俺を殺そうとする奴を好きになる訳が無いだろう?」
「まだ言ってる!しつこい!」
「謝りもしないくせに、誰がお前なんか好きになるか」
「だって」
「川まで引きずって連れて行って、背中をどん!って押して!溺れる俺に、お前は指差して笑ったんだ。忘れたとは言わせねえ!」
「だって!面白かったもの。面白い顔で、パクパクして。でも溺れているとは思わなかったの!」
「・・・溺れているってとこは置いといて。で。なんで俺を川に押した」
「ちょっと驚かそうと思っただけ。でも落ちるとは思わなかったの。落ちるなんてドジだと思ったけど」
この会話は会場にいるみんなが聞いている。ちょっと離れた所で、王子達も聞いている。
もう驚いていて、口が少し開いているが、イケメンはそんな顔もカッコいい。
ここにいる全員が茫然としている。そうだろう?それが普通の反応だ。
俺がこの女から逃げるのが、みんなわかっただろう?こんな奴、怖いだろう?
ウロボロスはクソの後ろでウネウネと動き、ゆっくりと鎌首を起こす。
しまったな。剣を持っていない。でも!
「聖女、光魔法の『眼前閃輝』を!」
「は、はい!!眼前閃輝!!」
煌く光がパパパパ、といくつも瞬いて、黒い霧を弾ける度に消して行き、霧は消えた。
魔物に力を与える黒い霧が消え、ウロボロスのみになる。
俺は聖女の術が発動している隙に、魔物に接近。
「業火絢爛!」
この火魔法は、魔物の表面を包んで焼く。室内とかで使用しても、燃え広がらない便利な術だ。
「うわ!業火絢爛!アルフィー使えるんだ!!教えてーーー!!」
魔法オタクが喜んでいるな。手が空いてるなら手伝え。
「こら!捕縛くらい手伝え!!」
「あ、ごめーん。『捕縛』」
あっさりとクソは術で拘束された。警備の騎士が4人やって来て、連れて行く。
クソが何か喚いていたが王子は無視した。ウロボロスも少し床が焦げただけ、燃焼されて消えた。
「皆の者!騒がせたがもう安心してくれ。何かあったら、彼が・・Sランク冒険者アルフィーが片付ける」
「おいっ!!王子!!依頼金取るぞーーー」
「ははは。ありがとう、アルフィー」
「全く。お前らもなんか手伝え」
「お前に任せてけば安心と思って」
「抜かせ」
「ねえ!業火絢爛!今度教えて!」
男共は笑いながらこっちに寄ってくる。婚約者を放っておくとは・・彼女達をちらりと見ると。
なんだか彼女らは嬉しそうに笑っている。んじゃいいか!
「先生、すごいです」
聖女も嬉しそうだ。
何、俺、ここの卒業生な気分だよ。
さて・・クソの尻拭いをしてくるか。
「じゃあ、みんなごゆっくり。また連絡する」
男共は俺がどこに行くか分かったようだ。
「何かあったら私の名を使え。いいな?」
4人のイケメンが言ってくれる言葉がありがたい。
「ありがとう。じゃ、事情徴収に行ってくるわ」
「またな」
俺はホールを出て、外で待っている騎士達と向かう。
今回医師が、子供の頃からの彼女を調査した・・・その結果は。
クソは頭がちょっとおかしかった。子供の頃からだ。
変な所で笑ったり、普通の人間ならやらないような事も、相手が『怪我をするかも』という発想が出来ない子だった。
きっと面白いだろう・・楽しいに違いない・・
自分の『面白い』と思う欲求に忠実で、人が怒ると面白くてしょうがない、無邪気な悪魔だった。
そして彼女の楽しいおもちゃが、俺だった。
俺はあの時、溺れた時には転生し、大人の頭だったから危機回避が出来たが、多分前の人格、子供のままだったなら・・数年と待たず殺されていただろう。そしてクソは悪いとは全く思わないのだ。
クソは見た目、ごく普通の子供に見えるのだ。けれども俺にだけ悪魔になる。
俺が逃げたので、いじるおもちゃがいなくなった所為で、彼女はおかしくなった。
残酷な心の『息抜き』が出来なくなったからだ。
そして闇魔法にのめり込んでいったようだ。
会わない10年、ずっと闇魔法を誰にも師事せず。
ちゃんと正しく習っていないから、闇魔法の闇に、心は染まって更におかしくなって・・
聖女に意地悪をするのは、王子達を侍らせてとか勝手に勘違いしていたのもあるが・・
闇魔法は光魔法が苦手だから。それが1番の理由。
今回、そしてダンジョンでの件。魔物を出現する術を使い、学園の生徒達を、そして王子やその側近候補達を危険な目に合わせた事で、終身刑を言い渡された。一度は高位貴族だから、初犯だから、被害は無かったからと許されたが、今回は大勢の生徒達がいる場所での出現、そして二度目だった。
もう許されない。
術を使えない結界が張られた牢獄で、一生を過ごす事になった。
元々悪役令嬢は、牢獄か教会送り、もしくは処刑の末路。
ゲームのエンドと同じ運命となった訳だ。クズの侯爵家は取り潰しにはならず、罰金刑で済んだ。
俺は久しぶりに家に戻り、家族から謝罪を受けた。
まあこんな病人だったとはみんな思わなかったもんなぁ・・・俺もそこまでとは。
で、翌日。学園の卒業式だ。
俺は昨日の今日で、護衛を頼まれたので会場にいたりする。
名前を呼ばれ、卒業証書を受け取る。次々と卒業生が授与されて行く。
何度も思うが、俺も通っていたら、あのおっさんから卒業証書をもらったんだよなー。
なんて思ってたりするのだ。俺もなんか卒業生の気分だ。
式は恙無く進み、最後の礼!卒業生は退場して、教室に戻って行った。
魔法で舞台や椅子を片付ける在校生達。俺の任務もこれで終わりだ。
「先生!」
門をくぐろうとした時、聖女に呼ばれて振り返る。
卒業証書の筒を持っている。ああ、可愛いなぁ。彼女はこれから聖女として頑張るんだな。
「これからも頑張れよ。聖女はお前しか出来ないんだからな」
「・・・先生。また、会ってくれますか?」
「いやあ、お前も忙しいだろ?俺もあちこち」
「前も言った事ですね!・・もういいですよね?先生をやめて、名前で呼んでも」
あれ?目が潤んでいて、俺を熱く見つめてくる。頬も薄紅色に染まって・・
これは?どういう事なんだ?俺、もしかして・・
「先生。私、先生が好きです」
え?俺、モブだっただろ?モ、ブ・・・
「あ!!」
「え?先生?」
そういうことか!
ダンジョンで一人足らないって・・・俺か!俺だったか!!
俺がレアだったのか!!ええー?俺、王子達に比べると、キラキラ感が足りないんですけどー。
・・・まあ、ゲームと同じ進み方はしてない・・・俺の登場はあれで正解だった、のか?
ああ、そういえばレアキャラは、Sクラスの冒険者、だった!
結局俺は家から出て、お爺様の所で騎士の修行をして、ギルドで冒険者になる人生だった訳か。
今ゲーム的には、俺と聖女の笑顔のハッピーエンドのスチルの場面だな。
終わり良ければ全て良し?いいや。
俺の人生は、これからだから。
でも聖女が俺の彼女になるのか?気が重いわーー!!!
おしまい
おまけ>>
アメの行方だが・・
聖女が見つけ、男共と聖女が一粒ずつ食べた。聖女が持ってきた物と男共は思っていた。
それ、拾い食いだよね?さすが平民!!アルフィーにはやらなかったか?
一応彼にもおやつ食べますか?と聞いてるけど、いらんと言ったので。
洒落た小箱に入った飴で、綺麗な粒で、あまりにも美味しそうだったからね。
パクと口に放り込んだとき・・
丁度アルフィーが呼んだので、5人は一斉に彼を見た・・・・・
その瞬間、アルフィーへの好感度がどん!と上がった。
本当のエンド
ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。
どの短編も割と良い感じの話に仕上げてますので、短編、色々読んでみてちょ。
pixivでも変な絵を描いたり話を書いておるのじゃ。
https://www.pixiv.net/users/476191