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第二話 力試し

 馬車の中で三日間を過ごし、ようやくクローム王国に辿り着いた。ユアンが身体強化と雷魔法を纏えば二時間ほどで着くことは可能だが、今回はザルク公爵の護衛として来ているのでそういうわけにもいかなかった。

 国に入るとすぐに城へと案内された。城の大きさはアウスト王国と同じぐらい大きさだった。


 「よく来たな、ザルク公爵」


 出迎えてくれたのは護衛を二人引き連れた背の高い筋肉質な老人だった。


 「これはウェント公爵、お久しぶりです。お元気でしたか?」

 「元気元気。元気すぎて嫌になっちゃうよ。ガハハハハ」


 力強く握手をする二人を見て、アイがこっそりと耳打ちで話しかけてきた。


 「ねぇ、あのおじいさん結構な魔力を持ってるよね?」

 「ああ、アウスト王国(うち)だと宮廷魔導士レベルと同じぐらいだと思う」


 宮廷魔導士とは国に認められた魔道士で宮廷魔導士になるためには膨大の量の勉強や研究などの成果やそれに伴った実力を認められてようやく宮廷魔導士になれる。その頂点に立つ存在が賢者となっている。ユアンとケントはその過程を吹っ飛ばしていきなり賢者になったので最初はユアンとケントの印象は宮廷魔導士の間ではよくなかったが、スタンピートの件などでユアンとケントの魔法の規模を見てからは認めざる負えない状況だった。


 「それで?そこの子供は誰だ?」


 ウェント公爵はザルク公爵横から顔を出しユアン達の方を見た。


 「この子達は僕の護衛です。後ろにいる女の子は回復魔法のスペシャリスト。その隣にいる男の子は史上最年少で選ばれた賢者ですよ」

 「なぁに!?こんな子供が!?」


 見事な驚きっぷりにウェント公爵は一歩後ろに下がった。


 「ユアンと申します」

 「アイと申します」


 二人は軽く自己紹介をして会釈をして挨拶を済ませた。


 「なぁザルクよ。本当にあの子は賢者なのか?わしには全然そうは見えんが...」


 ウェント公爵は少し心配になって来ている様子で耳打ちでザルク公爵と話していた。


 「ふふ、それなら試してはどうですか?気になっているんでしょ?」

 「そうだな。そうしよう!」


 ウェント公爵はニヤリと笑いながらユアンを見つめると「ついて来い!」とだけ言い城へと案内された。

 中に入るとこれまた豪華な作りになっていて、王城で暮らしているユアンとアイはまた違う豪華さで目移りしていた。


 「ここだ!」


 案内されたのは騎士達が訓練をしている訓練場だった。騎士達が一生懸命模擬刀を振っている姿が広がっていた。


 「えーっと...なんでここに?」


 なんとなく状況を察することができるユアンだったが、一応聞いてみることにした。


 「なんでって...ここでワシとお主と戦うからな!」


 やっぱりか...ユアンは心の中で膝下から崩れ落ちた。どの国でも戦闘狂は存在しているようだ。


 「おい兵士ども!試合の邪魔じゃ!場所を開けろ」


 ウェント公爵がそう言うと兵士たちは急いで場所を作り始めた。人がいなくなったグラウンドの中心でウェント公爵とユアンが二人きりで立っている。チラッとザルク公爵の方を見てみると笑いながら手をひらひらと振っているだけだった。


 「試合のルールじゃが、どちらかが降参をするかでいいか?」

 「ええ、構いませんけど...」

 「それじゃあ、お互い本気でな」


 お互い模擬刀を渡され合図を言われるまで両者お互いを睨み合う。本気でな...と言われたのでユアンは少しだけ本気を出してすぐに終わらせようと考える。


 始め!!!


 審判の声がグラウンドに響いた瞬間、ユアンはウェント公爵の後ろに周り模擬刀を首筋に当てる。ウェント公爵は動けない状態で模擬刀の冷たさが首に当たっているのがわかる。


 「どうですか?これでもまだやりますか?」


 ユアンの一言にウェント公爵は模擬刀を捨て両手をあげて降参した。


 「ふぅ、残念じゃ。ワシの負けーー」


 その瞬間、降参の言葉を最後まで言う前に素早くしゃがみ込み捨てたはずの模擬刀を拾いユアンとの一定の距離を空けた。


 「危ない危ない。負けるところじゃった。卑怯とは言わせんぞ」

 「大丈夫ですよ。これが戦争なら卑怯もクソもありませんからね」

 「ほぉよくわかっとるじゃないか。でも、本当の戦争だったらワシはさっきの一撃で死んでいた。じゃからさっきの勝敗はお主の勝ちでいい。けど、これからはお主の剣術を見させてもらうぞ!」


 ウェント公爵は身体強化をしてユアンに高速で剣を振るう。が、ユアンは簡単にそれを流している。


 「このスピードについて来れるか...ならこれはどうじゃ!」


 さらにスピードは速くなりユアンも一歩後ろに下がってしまう。

 驚いたな...スピード重視だと思ったが、パワーもあり基礎もしっかりとされていてまるでお手本のような剣術だった。けれど、驚異的な力を持つユアンにとっては赤子と同じくらい簡単に倒すことができてしまう。


 ユアンは一度距離とりウェント公爵の攻撃を回避する。それを許さないようにウェント公爵は距離を縮めたユアンに対し接近し再度、高速に剣を振る。

 周りの兵士やザルク公爵達が見ているそばである一人の男性が近づいてきた。


 「おっ!やっぱりやってますね〜」


 アイとザルク公爵のそばにやって来た男性は茶髪で顔が整った青年だった。その男性はアイを見ると手を握り出して口説き始めた。


 「可愛いお嬢さんですね。もし、よろしければこの後お茶でも...」

 「えっ...あ、あの...」


 さすがにアイも初対面の男性にナンパされるのは初めてなようで戸惑っていた。それをみてザルク公爵が止めに入った。


 「こらこら、相変わらずそう言うところは変わってないね。ジェロンド君」

 「お久しぶりです。ザルク公爵。遠いところわざわざ申し訳ないです」

 「とんでもない。こちらこそうちの国の援助を頼みに来たんだし、これぐらいお安い御用だよ」


 どうやらザルク公爵はジェロンド?と言う男性と面識があったようだった。たわいもない会話をしていると、ふとジェロンドが試合をしているウェント公爵とユアンの戦いに興味を持ち始めた。


 「あの子は誰ですか?ウェント公爵よりも強い子供ってどんな子供ですか?」

 「ほぉ...君はユアン君の強さをわかるんだね?」

 「当たり前ですよ。あの子ならこの国だと二番目に強いんじゃないんですかね?」


 ジェンロンドの言葉を聞いてアイは驚く。ユアンがこの国で二番目...?アウスト王国でも最強と呼ばれるユアンがクローム王国では二番目とは...一体どれだけ強い魔導士なのかアイは気になった。


 「あの...この国で一番強い魔道士ってだれですか...?ユアンより強い魔道士って知らないんですけど...」


 それを聞くとジェロンドはにっこりと笑ってアイの質問に答えた。


 「俺だよ」

 「えっ?」


 信じられないという表情をするアイを見てジェロンドは面白そうに愛の顔をマジマジと見ている。


 「うーん、君ほんとにいい表情をするね。こっちまで楽しくなってくるよ」


 褒められたアイは少し顔を赤く染める。

 ジェロンドはユアンとウェント公爵の戦いを見て「そろそろだな」と呟いた。

 その同時にユアンがウェント公爵の模擬刀を折って勝負が終わった。


 「参った...ほんとに降参じゃ...」


 息切れをしてその場に座り込むウェント公爵を見てユアンは手を差し伸べた。ウェント公爵はその手に捕まりゆっくりと立ち上がった。


 「俺も面白かったです。とても綺麗な剣術で驚きました」

 「だろ?これでも昔は英雄とまで言われたこともあるんだぞ!」


 ウェント公爵は笑いながら自分の武勇伝を語り始めた。長い話が始まりそうだと予感したユアンだが、拒否することはできずそのまま話を聞こうとしたが、観覧していたジェロンドがウェント公爵の名前を読んだことでそれは回避することができた。


 「ウェント公爵。そろそろお時間ですよ」

 「おお、もうそんな時間か。楽しい時間はあっという間に過ぎていくものだな...じゃあ少年また今度だ!」


 そう言ってウェント公爵はその場から立ち去ってしまった。残ったのは大勢の兵士とザルク公爵とアイだけだった。


 「ハァ〜疲れた...」

 「お疲れ様。はいこれ飲み物」


 アイから渡された飲み物を一気にに身干す。乾いていた喉が一気に潤った。


 「いやー強かったでしょ。あの人この国を救った英雄として公爵に成り上がった人だからね。今でも強い人を見ると戦わずにいられないみたいなんだよね」


 と笑いながら言ってくる。最初からわかっていたなら道中で言ってくれればいいものを知っていて黙っていたような感じがした。


 「まぁいいですよ。それより次の予定はなんですか?」

 「次は陛下との謁見だがそれまでは時間があるからとりあえず部屋で休んでいようか」


 こうしてユアン達はメイド達よって部屋へと案内された。




 ***


 「どうじゃ?お前の目から見てあのユアンという子供は...」

 「そうですね...俺の目から見てもアウスト王国の最高戦力と言っても過言ではないでしょう。それにあなたと戦っている時の余裕そうな戦いぶり...もしかしたら俺と同じかもしれません」

 「なぁに!?それほどのものなのか!?」


 ジェロンドの言葉を聞いてウェント公爵は驚いた。ジェロンドは最近起きた魔物二千体を一人で倒したこの国最強の魔導士だ。それと同等となるとアウスト王国も本気で援助を差し出して欲しいということだろう。


 「それであの子がいたら濃霧の森の異変は解決すると思うか?」

 「ええ、百パーセントするでしょう。俺の直感のスキルがそう言ってますよ」

 「お前のスキルはたまに外れるからな...半分冗談として聞いておいてやる...」


 そう言って苦笑いするジェロンドだった。


 

 


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