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第十七話 魔人襲撃5

 アオの魔法によって水の底に沈んでいくケント。

 少しずつ、陽の光が遠ざかり暗い水の底へと落ちてく。


 「そっか...死ぬのか...クレアともっと遊べばよかったなぁ」


 ケントはゆっくりと目を閉じた。




 ***




 目を開けると真っ白い空間の真ん中に立っていた。

 ここの光景はどこかで見たことがあった。


 「ここは...」


 ケントは周りを見渡すが、そこには誰一人いなかった。


 「ようやく繋がりましたか」


 声のした方を振り返ると、そこには髪の色は赤色で、白と赤のローブを纏った青年の男性が立っていた。


 「えっと...ここって死後の世界ですか?」

 「いいえ、ここはあの世でもこの世でもありません。ここは精神世界と言われる場所です」


 その答えにすんなりと受け止めることができた。何度かユアンはここにきたことがあった...ようなことを聞いたことがるからだ。そしてその青年は話を進める。


 「私は、君に加護を授けた炎神と呼ばれる存在だ」

 「あなたが!?」

 「そうだ?何か文句でもあるのか?」

 「いえ、そんなことは...」


 ケントのイメージでは炎神は筋肉質の男性に片手に大剣を持った神様を想像していたため、あまりにもイメージと違いすぎて少し戸惑った。


 「それで、俺はなんでここに呼び出されたんです?死んだから最後に会っておこう?ってことですか?」

 「そういうわけじゃない。ただ、君がここで死ぬには惜しいと思ってね、力を貸してあげようとここに呼んだんだ。まぁまだ実力は足りないけど、今回だけの特別サービスさ」


 そう言って炎神はケントの頭に手を置き、力を与えた。ケントの体には感じたことのない魔力が流れてきて自分の体ではないと錯覚してしまう。


 「この力って...」

 「これは本来君が十分な力を得ることができたときに渡す力だよ。今回は一回だけの特別だけどね。さぁ、もう行きなよ。早くあの魔人を倒さないといけないんでしょ?」


 「うん!ありがとう!」

 

 その言葉にケントは大きく頷いた。

 去り際に炎神は何かを言い忘れたようにケントを引き止める。


 「あっ!そうだ、言い忘れてたけどこの力を使うときは口でもいいし心の中で言ってもいいけど「顕現せよ炎神」って言ってくれ。そうすればこの力が使えるようになるから」

 「わかった!じゃあまたくるね!」


 そう言ってケントは精神世界から姿を消した。




 ***




 ケントは水の底に沈んでいる最中に意識が戻った。

 水の温度に体温が奪われているせいで体が思うように動かない。

 ケントは持っている全ての魔力を放出させた。


 ケントの体から大量の魔力が溢れ出る。その魔力量で水が跳ね除け、ケントは水の中から脱出することができた。

 ケントはすぐ近くの建物の上に避難する。


 「はぁはぁ......ゴホッゴホッ......」


 水に飲み込まれた際に大量に飲んでしまった水を全て吐き出す。ケントの口からドバドバと飲み込んだ水が吐き出された。


 「あら〜よくあの魔法から抜け出したわね〜」


 アオは近くの建物の上でケントを見ていた。


 「危うく死ぬところだったけどな......」

 「それで死んでくれれば楽だったんだけどね〜まぁいいわ、またすぐに同じように合わせてあげる」


 水を跳ね除けるために全ての魔力は使い切ったし、水の中にいたため体力がなくなっていた。

 動けないケントを見てアオは巨大な水の槍をつくりケントを串刺しにしようとする。


 「これで終わりよ〜」


 正面から水の槍が飛んでくる。当たる寸前でケントは炎神に言われたことを思い出した。


 「顕現せよ...炎神...」


 ケントの体内から尋常ではない量の魔力で溢れ出す。ケント自身もその魔力量に驚いた。


 「これは...」


 その魔力にアオは絶句する。ケントから溢れ出る魔力は人間と異なった魔力をしていた。

 

 精霊の魔力?いや、神の魔力か!?


 感じたことのない魔力にアオは鳥肌が立つ。


 「何かしら〜その魔力は?」

 「教えるわけないだろ」


 ケントはその魔力を使い、炎を自分の身にまとい戦闘を開始する。一発牽制としてケントはアオを直接殴ろうとしたが簡単に避けられ空振りしてしまった。しかし、神の力で強化されたケントの拳は空振りしただけでも強い衝撃波が生まれ周囲の建物を壊していった。


 「ヤッベ!力の加減が難しいな...」


 それを見たアオは背筋がゾッとする。

 あの攻撃を直接喰らえば命はないだろう。魔力増強剤のおかげで魔力はいつもより高くなっているが、あの攻撃を防ぐほどの魔力は持っていない。自身のコンディションが良い時に魔力増強剤を使ってもあの攻撃は防ぐことはできないだろう。初代勇者が女神の加護を使って魔王を倒したことはただのお伽話の存在だと思っていたが、あながち嘘ではないと感じる。


 勝ち目がないと感じたアオは撤退を思いつく。 


 「ん〜逃げよ」


 アオはケントの前から逃亡を図った...がそれを見越したのかケントは王城の周りを炎で囲って逃げられないようにしていた。


 「どこに逃げるんだよ。こっからだろ、戦いは」


 アオは苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。唯一の退路が絶たれたアオに残っているのは援軍がくるか死だけであった。

 ケントは逃げられないアオに正面から近接戦で仕掛けるが、アオには当たらなかった。魔法での攻撃も考えたが、魔法を使った場合制御ができないとさらに王都に被害が出てしまう可能性がある。それを考慮してケントは近接戦で戦うが、魔力は回復したが、体力が戻ってきていないせいで攻撃が当たらない


 少しづつ、アオの魔力は減っていく。魔力増強剤の副作用が効き始めてきた。額から汗が流れ出てくる。


 「どうした?さっきより疲れているように見えるぞ」

 「それはそっちも同じでしょ〜。当たらない攻撃だけ仕掛けて何がしたいの〜?」


 それはアオのいう通りだったが、それでもケントは構わないと思っていた。ここでこの魔人を止めて置くことによって他に被害が出ないようにしているからだ。

 とは言ってもケントも魔力が少しづつ減っている。炎神から分けてもらった魔力が少なくなってきている。


 ここでケントがアオを逃さないために囲っていた炎が消えた。


 「!?」

 「あら〜もう限界なのかしら?」


 アオはその隙に撤退しようとしたが、そこに新たに現れた魔人に引き止められた。


 「なんだなんだ?面白いことやってるな〜って思って見にきたらもう終わってんじゃねーか」


 ケントの目の前に現れたのは髪が緑色をした魔人だった。

 ユアンの報告にあった魔人か...ユアンの情報だとこいつも魔人の組織(カラー)の幹部。今の状況では流石のケントも戦う力は残っていなかった。


 「何しにきたのかしら〜あなたの仕事は終わったの?」

 「ああ、一人賢者を殺してきたぜ」


 その言葉を聞いてケントは耳を疑う。


 「おい、そこの魔人。嘘ついてんじゃねーぞ。賢者がそう簡単に死ぬはずねーだろ」

 「いや、確かに殺したぜ?風を使う賢者だったな」


 それを聞いてケントはヴァントを思い浮かべた。


 「ヴァントさんが簡単に死ぬはずない!」

 「わかんないガキだな。死んだもんは死んだんだ。なんなら死体をここに持ってきてやろうか?」


 ケントは怒りが立ち込め、残っている神の魔力を使い炎を見にまとった。


 「アオあいつ俺がもらっていいか?」

 「ええ、いいわよ〜」


 凄まじいスピードでケントはアオの隣にいたミドリの顔面を殴った。ミドリは勢いよく飛んでいき、建物に衝突した。


 「これ以上お前らの好きにはさせない!」




 




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