第十五話 魔人襲撃3
「おかーさん。どこー!」
魔物に襲われた王都で、半壊している建物の前で少女は泣きながら母を呼ぶ。
「お嬢ちゃん、ママと逸れちゃったのかな?」
「うん...」
話しかけたのは髪が緑色した一人の魔人だった。少女はまだ幼かったため、それが魔人だということに気づかなかった。
「おじさんがママのところに連れて行ってあげるよ」
「本当に!?」
「ああ、本当だとも。じゃあすぐに連れて行ってあげるよ」
魔人は自分の体の中から剣を出して少女に斬りかかる。その瞬間、何かがものすごいスピードでこちらに向かってくる気配があった。魔人は少女を斬った感触はなく、目の前には少女の姿はなかった。
「危ねぇな。子どもを斬るなんて」
「ママのところに行きたいっていうんだから連れて行ってあげようとしただけだぜ?」
少女を助けたのはヴァントだった。ヴァントは少女を抱えたまま近くにいる兵士のところまで走った。しかし、その魔人はそれを邪魔するように風魔法でヴァントの進行を邪魔する。
「くそ...」
「守ってみろよ。大事なんだろ?この国...いや、国民をよ!」
王城では激しい戦いが繰り広げていた。城の中ではアークが貴族を守りながら魔人の組織の幹部キイロと戦っていて、訓練場ではケントとアオが戦っていた。
「ほぉ...なかなかやるな。さすが、賢者と言ったところか」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、撤退してくれるとありがたいなぁ...」
「ふむ、するわけないだろ」
「光の矢!」
「では、こちらも光の矢」
お互いの魔法はぶつかり合い相殺される。
先ほどから、アークが撃つ魔法に対して全て同じ魔法で撃ち合いをしている。
「光剣の刃」
アークが魔法を撃つとキイロも同じように光剣の刃を繰り出す。
だが、アークは光剣の刃の軌道を少しずらし数発キイロに当たらないように撃った。
「ふん、どこに撃っているんだ」
「君にだよ」
キイロに当たらなかった光剣の刃は軌道が変わり背後から襲ってくるようにアークは仕掛けていた。
「何!?」
キイロは背後に数発光剣の刃をまともに食らってしまう。
「これで倒れてくれると嬉しいんだけど...」
「なかなかいい攻撃だったな。魔力の操作も申し分ない...が私には効かない」
攻撃を喰らったキイロは無傷で現れた。
戦いが面白くなってきたキイロは部屋にある窓目掛けて光剣の刃を撃った。
「やめろー!!」
気づいたアークは一歩遅く、数十発の光の刃が王都に向けて放たれた。キイロの撃つ魔法の威力なら被害がもっと多くなることは間違いなかった。
「くそ!光剣の刃!!」
キイロに向けて魔法を撃つが、全て片手で振り払われてしまった。
「な...に...」
「ふむ、どうやら頭に血が上って冷静さをかけてしまったのが弱点だったようだな」
呆気に取られたアークはキイロの蹴りを顔面に受けてしまう。
「ぐはっ!」
それに畳み掛けるようにキイロは光剣の刃を放つ。
「魔力障壁...」
魔法を喰らわないように魔力障壁も展開したが、キイロに背後に回られ腹部に蹴りをもらってしまう。アークは部屋の壁に叩きつけられた。
「どうした賢者よ?これで終わりか?」
「アーク殿!」
結界で守られている貴族達がアークを心配する。
「こんなゴミどもに心配されるとはお前も可哀想だな」
「この人たちはゴミじゃない...国民のことをしっかりと考えてくれている大事な人たちだ!」
アークの体は既にボロボロであった。にも関わらず貴族を守るためにアークは立ち上がった。
「ほぅ、まだ立つか。ではこれでどうだ?」
キイロが放つ魔法はさっきよりも威力が高く、アークの魔法は押し負けて後ろにある結界に衝突する。
「くっ...」
「賢者の力はそんなものではないだろ?元最強の賢者アーク」
それを聞いてアークはピクリと体が反応する。後ろでは魔人の恐怖に怯えている貴族が心配そうにこちらを見ている。
「別に僕は最強の名なんてどうでもいいんだ。ただ、周りより少し強かったから最強なんて呼ばれていただけ。僕が思う本当の最強はユアン君ただ一人だよ!」
「そうか、では元最強を殺して私の糧にしてやろう」
キイロは先ほどよりも魔力が強くなる。
「さらばだ、元最強」
キイロは最上級魔法の光の光線を放つ。
「...仕方がない...おいで、レム」
その瞬間キイロが放った光の光線が消滅した。
そして、目の前にいたアークの他に黄色い髪をした青年が立っていた。
『アーク、何をやってるの?こんなやつに負けちゃダメだよ?」
「はは、相変わらずレムは厳しいな...」
『それで、この魔人倒すんでしょ?僕だけで倒そうか?』
光の上位精霊レムは目の前にいるキイロを睨みつける。
「いや、僕たち二人で倒そうよ。力を貸してくれるかい?」
『もちろん!十年以上の付き合いだよ!断るわけがないよ』
「精霊化」
アークがその言葉を口にすると、アークから神々しい光が現れる。
「ぐっ......」
キイロはその光に思わず目を瞑った。数秒後に目を開けると、そこには先程とは魔力量が桁違いになったアークの姿があった。
「これは...」
「これが僕の本当の力さ」
キイロはその姿を見て高揚していた。キイロは過去に数回賢者と戦ったことがあるが、精霊化でここまでの力を持ったものに出会ったことがなかった。
「僕としては早く君を倒したいんだけど、もう攻撃してもいいのかな?」
「ああ、いつでもいい。久しぶりだよ。こんなにも戦いが楽しくなるなんて」
精霊化をすれば精霊魔法の極大閃光が撃てるが、それは普通の精霊だけの場合。アークの精霊は上位精霊なだけあってそれ以上の魔法が撃てるようになっている。
「絶極大閃光」
アークがそう唱えるとアークの胸元から拳ほどの光の球が出現した。
一瞬光ったと思った瞬間に目の前にいたキイロの姿はなかった。キイロの後ろにあった壁は跡形もなく消し飛んでいた。
「アーク殿...これは一体?」
「もう終わりましたよ。あの魔人は既に消滅しているでしょう」
先程のダメージのせいか、アークは立つことができなくなっていて、その場に座り込んだ。
『大丈夫?アーク?』
精霊化が解かれ、レムは実体に戻る。
「大丈夫だけど...もう魔力が...」
『じゃあ、ここからは僕が守るからアークは少し休んでていいよ』
「そうかい?じゃあ少しだけ...」
その場でアークは入眠してしまった。
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