第八話 決断
司教が王都に帰ってから数日がたった。あれから王都から使者はこない。親たちもまだ悩んでいる。
俺たちはいつものように湖の周りで身体強化の練習をしていた。
「ねぇ、結局私たちって王都に行けるのかな?」
アイは心配そうにつぶやく。
「こればかりは親が決めないとダメだろ。なぁユアン?」
「いや、大丈夫だと思うよ。今日決まると思うし」
「何で、そんな事わかるんだよ」
俺の根拠のない言葉でケントは少し向きになって言う。
「だって、俺未来予知のスキルがあるし」
「「!?」」
ケントとアイは俺のスキルを忘れていたようで、俺の発言を聞いて納得していた。
「そっか!!ユアンには未来予知があるんだもんね!じゃあ私たちは王都に行けるの!?」
落ち着きのないアイを見て少しなだめる。
「まぁまぁ、落ち着けって。そろそろ王都からの使者がくるだろうし」
「じゃあはやく戻ろうよ!」
アイは急いで帰る準備をするが俺は試したいことがあった。
「アイもう少し待ってて。試したいことがあるんだ」
「何よ〜はやくしてよ」
アイは頬を膨らませて文句を言っている。
「ケント、今から俺を本気で殴ってくれないか?」
俺の言葉でケントとアイは驚いていた。
「何言ってんだよユアン。ふざけるのもいい加減に」
「いいから、試してみたいって言ったろ。全力でこいよ」
ケントは俺の顔を見ると諦めたようにものすごいスピードで近づき俺の顔面を殴った。
ケントが殴った方向にはものすごい衝撃波が出ていたが俺には効いていなかった。
「ユ、ユアン平気なの?」
アイは心配そうな顔をしてこちらを覗く。
ケントは何か違和感を覚えたらしく不思議そうな顔をしている。
「ああ、平気だよ。やっぱりいい組み合わせだったよ」
「お前、もしかして.....」
ケントはわかったような顔つきになりニヤリとしていた。
「えっ?どう言うこと?」
アイが不思議そうに言う。
「ユアンはまず未来予知で俺が攻撃するところを見てその部分を透過で俺の攻撃が当たらなかった。ってことだろ」
「そう言うこと。さすがケント」
「ねぇ!それより終わったんならはやく戻ろうよ!」
「わかった。わかった」
俺たちは身体強化を使って村へと走った。村に着くと司教が乗ってきた馬車と同じくらい豪華な馬車が村にあった。
とりあえず皆で村長の家に向かった。村長の家のドアを叩くと村長がドアを開けてくれた。
中に入ると俺たちの両親や豪華な服を着た人と鎧を着ている人が二人いた。
「君たちがケント君とユアン君とアイちゃんか。僕はアウスト王国の公爵ザルク・フォン・ヨハネス・ドレークだ。よろしくね」
ザルク公爵は持っていた袋の中から一通の手紙を出した。
「これは国王のエオメル・ヴァン・アウスト陛下が用意した手紙です」
ザルク公爵はその手紙を読み始めた。
その内容は近いうちに王都に行き、謁見をしろという内容だった。つまり命令だ。
国王の命令となれば国民は従うしかない。俺たちの両親も渋々ながらも了承した。
「さて、私はこれから王都に戻りこの事を報告をするので帰らせて頂きます」
ザルク公爵は帰り支度をすると護衛の兵士に自分の荷物を渡し村長の家をでた。家の前には馬車が出発できる準備が出来ていた。ザルク公爵が馬車に乗り込むと、俺は突然ザルク公爵が帰り道に何者かに狙われる光景が見えた。
俺は思わず口に出してしまった。
「あ、あの」
俺の突然声をかけたので驚くザルク公爵。
「どうしたんだい?何か用があるのかい?」
「あの、帰り道に.....何者かに襲われると思うので......今日は村に泊まった方がいいと思います」
突然五歳の子供が変な事を言うものだから周りの大人たちは笑っていた。がザルク公爵だけが笑っていなかった。
「なぜそう思うんだい?」
ザルク公爵は優しく問いかける。
「多分オレ....じゃなくて僕のスキルの未来予知だと思います。僕の未来予知は、見ようとすればいつでも見れるんですけど、いきなり見える事もあって.......」
ザルク公爵はそれを聞いてニッコリと笑ってオレの頭を撫でた。
「そうかい。なら今夜はここに泊まらせてもらうよ。村長さん、空き家はあるかな?貸してもらえるとありがたい」
その言葉に一同が騒然とした。
「空き家はありますが、本当によろしいのですか?ただ子供の言った事を本気になさらなくても」
「いや、いいんだ。多分この子の言って......」
すかさず護衛の騎士は止めにかかる。
「いけませんザルク公爵!このような場所で貴重な時間を使われては」
「じゃあ、君は僕に何者かに襲われろと言うのかい?」
「いえ、ですが子供の戯言を本気にしなくても......」
「この子の言っていることは本当だと思うよ。この子が持っている未来予知というスキルには、少し先の未来が見える能力がある。それなら私はこの子の言っている事を信じようと思う」
ザルク公爵は子供の言った事を本気で信じてくれた。
俺はその事を信じてもらえて本当に嬉しかったし、信頼できると思った。
「では、村長。家を貸して頂きたい。寝れる場所があればどこでもいい」
「分かりました。ですが準備をするのに少々お時間を頂いてもよろしいですか?」
「ああ、構わないよ。準備が終わるまでこの子たち三人と話したいから、村長の家を貸してくれないか?」
「はい。構いません。ゆっくりとお寛ぎください」
そういうと村長は急いでザルク公爵が泊まる家の準備に取り掛かった。
ザルク公爵は俺たち四人だけとなり、親たちはザルク公爵が泊まる家の準備に行ってしまった。
「さて、ようやく君たちとゆっくり話せるんだけど、まずはステータスを見せてもらえないかな?」
ザルク公爵は机の上で手を組んだ。俺たちはザルク公爵からでる威圧感にゾッとした。
「ああ、怖がらないでいい。ただ単純に興味があるだけなんだ。司教の言っていたことが本当なのか。自分の目で見ないと信じられない主義でね」
ザルク公爵は先ほどの威圧感はなくなっていた。
俺たちは素直にステータスを開いてザルク公爵に見せた。
ザルク公爵は俺たちのステータスを見ると鼻息を立てながら興奮していた。
「おお、本当にみんな二属性持ちなんだね!しかもアイちゃんは貴重な光属性じゃないか!三人とも神の加護を持っているとは、僕も初めて見たよ」
「あの、私たちって王都で謁見をしたら村に帰ることになるんですか?」
アイが口を開いた。
「いや、当分の間は王都にいてもらう。君たちのとてつもない力を制御するには特訓が必要だからね。今王都で君たちにあった師匠を探しているところだよ」
それを聞くとアイとケントは嬉しそうに喜んでいた。
「やったー!しばらくは王都で暮らせるんだ!私いろいろ買い物してみたい!」
「俺は早く魔法を覚えて魔物を倒したい!!」
はしゃぐ二人を尻目に俺はため息をついた。それを見てザルク公爵は
「おや、ユアン君どうしたんだい?ため息なんかついて」
「いえ、別に大したことじゃなくて....」
「じゃあ、大した事じゃないなら聞かせてくれないか?」
ザルク公爵はニッコリとした笑顔をしている。
「ただ、王都での生活が少し不安で....」
俺は王都に行っても安全な暮らしができるのか不安だった。街には冒険者などが沢山いるだろうし怖い人がいないとは限らない。
「大丈夫。君たちがしばらく住む場所は王城だから」
その言葉に俺たち三人は驚いた。
「「「えええええ!!!!」」」
「だってそうだろ。君たちは王都に家を持っていないわけだし、それに今回は国王からの命令だからね。しばらくは王城で暮らすことになるから」
「いや、でもそれだったら宿を取ったりとか」
流石にアイも王城で生活することは考えていなかっただろう。実際俺とケントも考えていなかった。
「君たちは神様の加護を持っているんだよ。流石にそんな子たちを街にある宿に泊まらせて何かあったら大変じゃないか。それに君たちを預かるんだ。これくらいのことはしないとね」
俺たちは思っていた以上に重要な存在だと改めて気づく。
「そうだ!まだ時間があるからよかったら君たちの魔法を見せてくれないか?初級魔法は使えるだろ?」
「え?なんで初級魔法が使えるって知ってるんですか?」
俺たちの魔法のことはリズしか知らない。ザルク公爵がなんで俺たちが使える事を知っているのか。
「ああ、リズから聞いたんだよ。リズは一時期僕の息子の家庭教師をしていてね。この前屋敷に寄ってくれて君たちの魔法のことを聞いたんだよ」
「ザルク公爵とリズさんってそういうご関係だったんですね。納得しました」
「そうかい?で、さっきの話の続きだけど魔法は見せてくれるかい?」
ザルク公爵の願いなら仕方がない。俺たちはいつも魔法を練習している湖に向かった。
「ここがいつも君たちが魔法を練習している場所だね」
「じゃあ、俺から見せますね。火玉」
ケントが出す魔法にザルク公爵は驚いていたが火玉が湖に落ちる瞬間にアイが水玉でケントの出した火玉をかき消した。
「す、すごいね、これほどとは。それに君たちは無詠唱なんだね」
「はい。最初は詠唱して魔法を発動していたけど詠唱しなくても魔法が発動できることを知って、詠唱はしなくなりました」
ケントの説明に腑に落ちないザルク公爵。
「無詠唱で魔法を使えるのは今のところ賢者ぐらいなんだが.....しかも初級魔法でこの威力.....もしかしたら上級魔法の威力と変わらないんじゃ.....ユアン君も火属性が使えるんだよね?見せてくれないか?」
俺も湖に火玉を射った。先ほどと同様に落ちる寸前でアイが水玉でかき消した。
「とんでもないな君たちは.....他の属性は使えないのかい?」
「他の魔法は使ったことがないです。ですが、身体強化は使えますよ」
「なるほど。じゃあ見せてもらえるかな?」
俺とケントはいつものように身体強化をしてお互い攻防戦を繰り広げた。ザルク公爵が見ているのでいつもより張り切って組み手をする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ザルク公爵はお大声を出して組み手を中断した。
「今のやつは身体強化しかやってないんだよね?」
「はい。そうですけど....」
ザルク公爵は何か考えている顔をしている。
「君たちの実力は僕が連れてきている護衛よりも強いことがわかった」
「「ええ!なんでですか!?」」
「たとえ近衛騎士でもここまでの身体強化はできないだろう。それに加えて初級魔法で上級魔法と変わらない威力。そしてスキルが加わるとなると君たちには敵わないだろう」
俺たち三人ははこの言葉を聞いて唖然とした。
一週間に一話という遅い投稿ですみません。やることが落ち着いたら毎日投稿できるように頑張ります。