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第三十二話 指導

 「初等部Sクラスのユアン君前に出てきて下さい!」


 女性職員に名指しで指名される。

 クラスのみんなからはユアンに注目の視線が集まる。

 グラウンドでは初等部の生徒や高等部の生徒がざわめいている。



 「ほら、いってきなさいよ」


 後ろに並んでいるアイに肘で小突かれる。


 「やだよ、それに俺教えたことないし」

 「でも、ガルさんの指名でしょ。行かないとここにいるみんなに迷惑かかっちゃうよ」


 確かにアイのいう通りだったが、ここで行ったら賢者とばれてしまう可能性がある。


 「えーっと、ユアン君いませんか?」


 女性職員はユアンが出てこないことに戸惑っている。


 「はーい!ここにいますよ!」


 アイは立ち上がって前にいるユアンを指さす。


 「では、ユアン君前に出てきて下さい!」

 

 女性職員に前に出るように促される。

 ユアンはアイを睨みつつ、渋々前に出る。


 「ユアン君、ガルムさんからの手紙には「ユアンの好きなようにしていい」と書かれているので、好きなようにやっちゃって下さい」


 そんな横暴なと思いつつ、ユアンはマイクを持つ。

 

 「えーっと、急に呼ばれてよく意味がわからないんですけど、剣術は特に教えることはないです。その場での臨機応変な動きができればいいと思います。なので、二人組になって試合形式でもしていて下さい。以上です」


 ユアンの指示を聞いて誰も動こうとはしなかった。それどころか、高等部の人たちはユアンに対して怒りの声をあげていた。


 「ふざけんなよ!そんなことをやるためにここに集められたわけじゃないぞ!」

 「そうよ!それになんであんたなんか出てきてんのよ!」

 「初等部に教えてもらう必要なんかないぞ!」


 グラウンドに集まっている生徒はユアンに対してブチギレていた。

 その答えに対してユアンはめんどくさそうにしながら高等部の生徒に質問をした。


 「じゃあ、あんたらは何を学びたいの?」

 「剣術の型とかに決まってるじゃない!」

 「それ以外に何があるんだよ!!」


 ユアンはそれを聞いてため息を吐いた。


 「じゃあ、あんたらは正しい型を覚えて強くなれんのか?魔物と戦う時に正しい型だけが必要なのか?」

 「だって、剣術って言ったらそれしかないだろうが!」


 それを聞いてまたもユアンは呆れたようにため息を吐く。


 「正しい型だけ覚えても意味がないだろうが。戦争が起きてもどんな状況でも正しい方だけで戦うのか?ちがうだろ。剣術に正しい型なんてねーんだよ。さっきも言ったけどその場で臨機応変な行動ができないと死ぬぞ。剣術の型を学びたいんなら勝手に素振りでもしてろ。それだけやってればなんとかなる」


 やはりそれを聞いても納得はしていない生徒が多い。


 「お前が臨機応変な行動ができるって証拠を見せろよ!」


 ユアンはそれを無視して自分がいた席に戻ろうとしたが、剣術を担当している先生に止められる。


 「ユアン君、みんながこう言ってるんだ。誰かと試合でもして見せてくれないか?」

 「嫌ですよ。やるわけないじゃないですか」


 ユアンは先生の提案を断ると生徒からは挑発の声が聞こえてくる。


 「なんだよ!口だけかよ!」

 「そもそも、初等部となんかじゃ試合にもなんねーよ!」


 挑発と分かっていても効かないようにしていたが、先生からの説得により試合をすることになった。


 「はぁ...なんでこうなるんだろ...」

 「それはお前の言い方が悪いんだろ。自業自得だ」

 「まぁ確かにユアンの言い方は悪かったけど、間違ったことは言ってないけどね」とアイは笑っていた。


 ユアンと戦う生徒は特にユアンに不満があった高等部の生徒三人だった。

 三人の見た目は育ちの良い感じで、貴族のようだった。


 「これで、お前が間違っているて気づかせてやる」

 「今のうちに後悔しておくのね」

 「泣いても知らないからな!」


 ユアンはそれを聞き流していた。

 試合場所は集まっているグラウンドで場所を作り、そこで試合をすることになった。


 高等部の生徒は用意されていた模擬剣を持ち、構えている。

 ユアンも同じように模擬剣を持っているが、構えていなく「いつでも来い」と挑発する。


 「舐めやがって!」


 一人の生徒がユアンに斬りかかるが、ユアンはそれを簡単に回避する。ユアンは背後に周り、首筋に模擬剣をあてる。


 「大口叩いといてそれか?舐めてるのはどっちだよ」


 そう言って首筋から模擬剣を引く。

 襲いかかった生徒は一旦ユアンから距離をとり、仲間の下へと戻る。


 「なに初等部の子にやられてるの!?しっかりしてよ!」

 「ちゃんと身体強化も使ったはずなのに...なんで躱せたんだ?」


 高等部の生徒は驚いている。

 確かに実力では今戦っている三人は学年でも上位に入る実力者だろうが、魔力の扱い方がまだお粗末な状態だ。


 「それはあんたの魔力の使い方がお粗末だからだよ」

 「なんだと!俺のどこがお粗末なんだよ!」


 襲いかかってきた生徒は激昂するが、ユアンは気にせずに話し続ける。


 「身体強化して攻撃したところまではいいけど、斬りかかって終わった瞬間に身体強化を解くな。戦闘中なんだから常に身体強化をしろよ。あんたは、斬りかかって終わってたけど、次の行動もしろよ。考えて行動しろよ」


 正論を言われて、何も言えなくなる。

 さらにユアンは続けて言う。


 「それに、あんたら二人も数がそっちの方が有利なんだから、一斉にかかってこいよ。俺を痛めつけるためにあんたらが立候補したんだろ。なら、本気で来いよ」


 そう言って三人は、一斉にユアンに斬りかかる。

 ユアンは背後に飛び、攻撃を回避する。そして、先ほど指導した一人の生徒は、斬りかかった攻撃で終わらず、回避した後も、すぐにまた斬りかかってきた。

 ユアンはその攻撃を受け止める。生徒達はユアンを囲むようにフォーメーションをとった。


 「そうそう、それでいいんだよ」


 一人の生徒が斬りかかり、受け止めると、次の攻撃を仕掛けてくる。ユアンは斬りかかっている生徒の腹部を蹴り攻撃を回避する。剣を受け止めている生徒にも同じく腹部を蹴って気絶させる。

 

 「さて、残るのは二人か...めんどくさいからすぐに終わらせるか」

 「え?......」


 ユアンは身体強化を使って二人の首に一撃を与え、意識を刈り取った。

 二人ともその場に倒れ込んで、試合は終了となった。


 「これでわかっただろ?剣術の型よりも実践で戦った方がいいってことに。確かに基礎は大事だけど、基礎だけできても実戦ではなんの役にも立たない」


 ユアンは試合を見ていた生徒全員に対して言う。

 あれだけ文句を言っていた生徒は、この試合を見てユアンが言っていたことが正しいと思えたようで、ユアンの話を静かに聞いていた。

 ユアンの話が終わると、ちょうど授業が終わった。生徒達は教室に戻るように指示が出される。

 ユアンも同じように帰ろうとすると、試合を見ていた学園長から感謝の言葉をもらった。


 「ありがとう、ユアン君。急遽剣術の講師の代わりを立てて申し訳なかったが、なんとか成功したようだね」

 「二度とこんなことはしないですからね。次は普通に帰りますからね」

 「分かった、次から気をつけよう。けど、案外教えるのは上手だったね。剣術の指導や攻撃の仕方、まさに現場で戦う人の教え方だったね」

 「そんなことないですよ。ただ、間違ったことだけは教えたくないんで厳しくなっただけですよ」

 「さすが、最年少賢者は言うことが違うね」

 「それ秘密ってこと忘れてます?」

 「おっとこれは失礼」


 学園長は失言だと気づき口元を手で覆った。


 「じゃあ疲れたんで帰りますね」


 ユアンは一人で教室へと戻っていく。

 教室に戻ると、ユアン以外は全員席についていて、ホームルームが始まっていた。


 「ああ、ユアン君さっきはお疲れ様」


 マックがユアンに声を掛ける。

 ユアンは軽く会釈をして自分の席に着く。

 マックの話を五分ほど聞いてホームルームは終了となり、解散となった。


 「あ〜疲れた...」


 ユアンは自分の席でぐったりとなって寝ている。


 「ほら、いつまでもそうしてないで帰るよ」

 「全く、誰のせいだと思ってんだよ... 」

 「名指しで呼ばれた時点でアウトだと思いなさいよ」

 「だからって彼氏売ることはないだろ」

 「ほら、ぐちぐち言ってないで早く帰ろ!」


 重い体を起こしてアイと一緒に正門へと行く。正門には馬車が着いており、中に入るとケントとクレアが先に乗っていた。


 「お疲れユアン」

 「お疲れ様です。ユアン様」

 「ん〜」


 ユアンは二人に対して空返事で返事をした。


 「なんだ?ご機嫌斜めか?」

 「いや、疲れてるだけ。大勢の前で慣れないことをしたから余計に疲れた」

 「でも、そのおかげでちゃんと教えることができてよかったじゃん」

 「まぁね...ふぁ〜...ごめんちょっと寝る」


 そう言ってユアンは馬車の中で眠りについた。


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