第二十八話 最後の別れ
アイをドミノ王国から取り戻した次の日、朝起きると異様に体がだるい。悪寒が背中を走る。どうやら風邪をひいたようだ。
重い体を起こして服に着替える。いつもは普通にできることが、今日は服に着替えるだけで時間がかかる。
今日はエレクさんの葬式だ。風邪で参加できないなんてありえない。
賢者が亡くなると、その葬式は国全体で行われることになる。王都以外の領や村には前もって知らされている。王都に集まることはできないが、全国民が同じ時間に黙祷を捧げることが決まっている。
「なんでこんな大事な時に...」
ユアンは体は弱い方ではないが、「未来予知」を使いすぎると反動で体調を崩すことがよくあった。
「まだ、体が大きく成長していないから、仕方のないことだ」と医者に言われたことを思い出す。
体はだるいが我慢のできるだった。アイに見つかるとうるさく「寝てなさい!」とよく言われる。が、こんな状況で寝ているわけにはいかない。
ゆっくりと食堂に向かう。食堂にはアイとケント、それにクレアもいた。
「あっ!ユアンおはよう」
「どうした?顔色悪いぞ?」
「大丈夫ですか、ユアン様?」
ユアンの異変にケントが気付く。
「寝起きなだけだよ。今さっき起きた」
「そうか...なら良いけど」
ユアンは気付かれないように普通に答える。
だが、ここで一番気をつけるのはアイだ。アイはどんな小さな変化にもすぐに気付く。長時間一緒にいると気付かれる確率が高い。
「今日って何時から葬儀が始まるんだ?」
「父からは九時開始と言われましたが...」
「賢者は全員黒いローブを身につけろって言われたぞ」
黒いローブとは賢者だけが切ることを許された賢者の証とも言えるものだ。賢者のローブは普段から付けていないといけないが、それは本人の自由である。ただし、大事な式典や他国に行くときは必ず着用の義務が生じる。賢者のローブはそれほどまで誉な証なのだ。
「俺たちも出るとしても、民衆の前に出なきゃいけないのか?」
「それはわからないけど、でももしかしたら出るんじゃない?」
朝食を食べながら今後の流れを話していく。
食べ終わると、賢者は一度会議室でこの後の流れの確認を行うため、ユアンとケントは会議室へと向かう。
「ケント...もう少しゆっくり歩いてくれ...」
「おい大丈夫か?ほんとに顔色悪いぞ」
「ちょっと風邪引いただけだよ。多分「未来予知」を使いすぎた反動だと思う」
「なら、葬儀まで休んでいた方がいいじゃないのか?」
「そんなことしたらアイに気付かれるだろ。あいつに気付かれたらまた面倒なことになる」
ケントはため息をついて「わかったよ...」と渋々納得してくれた。
会議室にはユアン達以外全員集まっていた。
「おっ、きたな!それじゃ会議始めるか」
ユアンとケントはすぐに席に着く。今日の進行役はバーンだった。
「今日の流れは、九時に葬儀開始、十時には全国民で黙祷を捧げて葬儀は終了。俺たちはエレクの遺骨を教会へと届けて終了だ。何か質問のあるやつはいるか?」
これと言って特におかしな部分は無く、その流れで今日の予定は決まった。
「さて、もうすぐ時間だ。全員ローブの着用して準備するぞ。ユアンとケントはローブを着用して国民から見えないところで参加してくれ」
「「わかりました」」
そして会議は終わり、全員会議室を後にする。
ユアンとケントはローブを着て三階の大きなベランダのところから葬儀を見下ろす。
賢者達は大きな広場でエレクの葬儀に参加するために広場に集まる。すでに広場には大勢の国民が集まっている。
その中にはアイとクレアの姿があった。
「これより、エレク・ファラの葬式を始める。皆、よく集まってくれた。ここで眠っているエレクもさぞ喜んでいるだろう」
陛下が軽く挨拶をする。
賢者達は国王の後ろで並んで待機をしている。
「では、司教殿よりお言葉をいただこう」
「それでは、エレク様とのお別れの言葉をかけさせていただきます」
そうして司教はエレクにお別れの言葉をかける。それはまるで、キリスト教のような言葉をエレクにかけていた。
「......エレク様、どうか安らかにお眠りください。私からは以上です」
そう言って司教は後ろに下がる。
「それでは、最後に代表者が火を付ける。代表者前へ」
そう言って出てきたのはレインだった。レインの手には火のついた木が握られている。
「エレク......エレクと過ごした日々とても楽しかったよ......一緒にご飯に行く約束したのに...約束破るなんて...エレクらしくないよね...私がそっちに行くまで時間がかかるかもしれないけど、今度は約束守ってよ...」
レインがエレクに対してかける言葉は国民全員がその言葉に涙を流していた。その言葉を言ったレインも例外ではない。そして持っていた火が、エレクが入っている棺桶に火がつき始める。
パチパチと音を立てて燃える棺桶はゆっくりと少しずつ燃えている。
「黙祷!」
国王の言葉に皆が一斉に目を閉じる。そして黙祷の言葉を告げると同時に教会の鐘が鳴り響く。教会の鐘の合図で国民全員が黙祷する時間を教えている。
五分ほどで黙祷が終了する。ここで葬儀は終了したわけだが、国民全員はその場から離れようとはしなかった。まだ燃えているエレクを全員で見届けるまでは誰一人その場から動かないで待っている。
そして、その火がゆっくりと小さくなっていき、十分ほどで完全に火が消えた。
司教が白い箱を手に持って前に出てくる。
「エレク様をここに、できれば賢者様全員で入れてあげてください」
司教がそういうと、バーン達はエレクの骨を白い箱に入れ出した。
その司教の言葉を聞いて、バーン達が立っている広場に向かおうとするユアン。
「ちょっと待てよ。お前が行ったら正体バレるぞ!」
「そんなこと気にしている状況じゃなくなってきてさ、あそこで一緒にやらないと後悔しそうで...」
「お前も行くんなら俺も行くぞ」
そう言ってユアンとケントは王城の三階から身を乗り出す。
そして、バーン達が立っている場所に降り立つ。それを見て民衆は驚いているが、それよりも賢者と陛下が驚いている。
「お前達どうしてここに...?」
「ここで一緒にやらなかったら後悔しそうで」
「俺も同じですよ」
ユアンとケントは前に出てエレクの骨を拾い白い箱に入れる。エレクの骨は全て白い箱に入れ終わり、それを教会へと納めることになっている。
「では、これで解散をする。皆ご苦労であった」
こうしてエレクの葬儀は終わり、ユアン達賢者は全員で教会へと向かう。
教会につくと司教がエレクの骨が入った箱を祭壇へと置き、祈りを捧げる。司教に合わせて、ユアン達賢者も同じように祈りを捧げる。
「これで、終わりです。皆様お疲れ様でした。エレク様も皆に見届けてもらって喜んでいるかと思います。エレク様の分もしっかりと生きてください」
そこでユアン達の仕事も完全に終わりを迎える。
ユアン達賢者は歩いて王城まで向かう途中、ユアンの意識はそこで途切れた。
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