第二十六話 アイ奪還4
ユアンは魔力探知で上の階から大きな魔力があるのを確認した。
「そこか!」
上の階に行くために階段を探すユアン。エヒートの魔剣のせいでまだ「透過」のスキルは使えなかった。
城の中を徘徊しているとようやく上に行くための階段を見つける。
大きな魔力をたどって進んでいくと城の中を警備していた兵士と遭遇する。
「貴様か!侵入者は!」
「止まれ!この先は行かせんぞ!」
ユアンは持っていた刀を抜き一瞬で兵士を斬る。
「あんたらに構ってるほど時間はないんでね」
ユアンの後方から続々と兵士がやってくる。全員を相手にしている時間はないので逃げながらアイを探すことにした。兵士は後を追ってくるが、ユアンのスピードには追いつけないでいた。
魔力探知でアイがいる階層にたどり着くと、ドアの前で護衛をしている兵士がいる。
すぐにその場に行き、兵士が騒ぐ前に気絶させる。
ドアを開くとベッドに横たわっているアイとその横で何か魔法を使っている白いローブを着た老人がいた。
「お前何をやっている......」
怒りが抑えられなくなり、咄嗟に刀を抜いてしまう。
「えっ....あ、あの、国王様に呼ばれて...この子の呪いを解いてほしいと言われて今それをやっている最中でして...」
思いもよらない返事でユアンは抜いた刀を鞘に戻す。
「そうだったのか...脅かして申し訳なかった」
「いえ、他の人が見たら驚くのは無理もありません。ところであなたは?」
「俺はアウスト王国の賢者でユアンといいます」
「アウスト王国の人がなんで?」
「今日の午前中そこで寝ているアイが”人攫いのベティ”に攫われて、その場にあった魔力を辿ったらこの国にいることがわかったので連れ戻しに来ました」
「そうだったんですか。私はてっきり国王様が慌てていたので、国王の親戚の子供かと思って...」
「国王が?」
司教と話をしていると勢いよくドアが開いた。
「おい!貴様何をしている!私のアイに触れるんじゃない!!!!」
「国王様!」
司教が国王と呼ぶ人物は想像していたよりも酷い人物だった。見た目は背は低く、小太りで中年、そんな人が十歳のアイに対して「私のアイ」。その言葉にユアンはブチギレていた。
「おい...お前は何様だよ...他国の人を誘拐して、勝手にお前の所有物にしている。お前みたいなゲス野郎に俺のアイを渡すわけねーだろ!!!!!!!」
ユアンは全力の魔力を解放する。
その魔力に恐れたのか国王は尻餅をつき、ガタガタと震えている。
「わ、私は、こ、この国の国王だぞ!な、何をしてもいいんだ!」
「知らねーよ。それはお前の国だけだろ。他国を巻き込んで勝手なことを言ってんじゃねぇ。お前は何だ?アウスト王国と戦争でもしたいの?」
「う、うるさい!兵よ!早くあいつを殺せ!」
ユアンを追いかけてきた兵士がこっちの異常に気づいたのか、十人ほどの兵士がユアンに剣を向ける。
「残念だったな...もう鬼ごっこは終わりだぞ」
兵士全員が一斉にユアンに襲いかかる。が、兵士はその場に倒れ込む。
一瞬にも満たない速度でユアンは十人の兵士を気絶させた。
国王のクルートは一瞬の出来事で何が起こったのか理解できていなかった。
「さて、これでお前を守る兵士はいなくなったな。次はお前だ......」
「ヒィィィ!ク、クレーナよ!ワシを助けろ!!」
国王は部屋に響き渡るような大声で叫び出した。
すると、「あらあら、全く面倒ね」という声が帰ってくる。ユアンもそれには驚き、声が出た場所を探した。
周りを見てもそんな道具はない。国王を見てみると、そこには先程まではいなかった、ウィッチハットを被った黒髪の魔女がいた。
「忙しい時に呼び出さないでくれ......あら、あなたは......」
「誰だあんたは?」
「ああ、紹介はしていなかったわね。私は暴虐の魔女クレーナよ。よろしくね♪」
暴虐の魔女と聞いてユアンは刀を構える。
「そんなに警戒しなくても攻撃なんてしないわよ」
「おい!どういうことだ!早くあいつを殺せ!」
「無理よ。だって本気を出したとしても負ける確率の方が高いんだから。まだ覚醒もしていないのにね」
「覚醒?どういうことだ?」
暴虐の魔女の言葉に疑問を覚える。覚醒?何のことだか分からなかった。
「ああ、まだ知らないのね。でもまだ知る必要はないわ。それじゃあね♪」
「おい!何処に行く!」
「もうこの国を出るわ。あなたのようなゴミみたいな国王に仕えていると、とてもじゃないけどストレスが溜まって爆発しそうよ。だから拠点を移動するために今さっき準備していたの。いい実験材料も揃ったし!」
そう言って暴虐の魔女クレーナは消えてしまった。暴虐の魔女がいなくなって誰も自分を守ってくれる人がいない国王は肩からガックリと落ち込んでいる。
「さぁ、あんたを守る人はいなくなったな」
ユアンは刀を国王の首筋に触れる。国王は首筋に刀の冷たさが伝わり、ガタガタと震え出す。
「金ならいくらでも出す!何なら女!お前のいう通りにするから命だけは!」
「そうか......俺のいう通りにするか」
「ああ!何でもいうことを聞こう!」
「じゃあ、今すぐ死ね」
そう言ってユアンは刀を振り下ろす。
国王に当たる寸前に「待って!」という聞き慣れた声が部屋に響き渡る。
声の下方を振り向くと、そこには寝ているはずのアイが目を覚ましていた。
「ア、アイ...なのか?」
「そうだよ。忘れちゃったの?」
ユアンの目から涙が溢れ出す。
「よかった...本当によかった」
ベッドの近くに行き、そっとアイを抱きしめる。
「ふふ、五年前と逆だね」
アイはいつも通りの笑顔を見せる。
いつもいる人が、いなくなるとこんなにも辛いことは、ユアンは初めて知った。
「しっかり捕まってろよ」
「うん!」
ユアンは国王のことなんかどうでもよくなり、アイをお姫様抱っこして窓から飛び降りる。
降りる直前、外の窓にケントが張り付いていること知った。
ケントは俺らが降りるのを見て、その後にケントも降りた。
「アイ!呪いが解けたんだな!」
「心配かけてごめんね」
「別に平気だよ。でも、これでようやく三人揃ったな」
「だな!よしこのまま走って帰ろうぜ!」
そう言って、ユアン達三人はドミノ王国を後にした。
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