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第二十二話 人攫い

 王都全域でお祭りが行われた次の日、ユアンは王都の図書館を訪れていた。机には十冊以上の薬草の本や呪いに関する本が置かれていた。

 ユアンが薬草や呪いに関して調べている理由は、アイにあった。アオと呼ばれる魔人に血を吸われてからアイは高熱を出し苦しんでいた。アイの右手の甲には見たことのない呪印が浮かび上がっていた。ユアンはすぐに宮廷治癒魔道士に見せると、それが呪いだと言うことがわかった。呪いを解く方法は二つある。一つは呪いの効果が切れるまで待つ。二つめは光魔法「浄化」を使って呪いを消す方法がある。二つ目の「浄化」は光魔法を使える人は全員使えるわけではない。教会にいる司教でも使える人が少ないとされている。

 そのため王都にいる司教は「浄化」が使えるが、王都から離れたマトリーヌ領に行っているため、いつ帰ってくるか分からない状況だった。


 「クソ...やっぱり呪いに効く情報は何もないか......」


 ため息を吐きながらユアンは立ち上がった。机に置かれた本をもって一冊一冊元の場所にあったところに本を戻していく。本を戻している最中に誰かに声をかけられる。


 「ユアン。こんなとこにいたのか...陛下が呼んでるぞ」


 声のした方をみるとケントが立っていた。明らかに元気のない様子だった。


 「陛下が?何かあったのか?」

 「分からん。でも、賢者はすぐに集まれっていう命令しか聞いてないからな」


 ユアンは持っていた本をすぐに片し、ケントと一緒に会議室へと向かう。


 「図書館で何調べてたんだ?」

 「呪いに関すること」

 「まだ、アイは目を覚まさないのか?」


 ユアンは静かに首を縦に振る。

 それを見てケントは何も言えなかったようで、そのあとは何も話さず会議室へと着いた。

 部屋に入ると全員が揃っており、引退したソイルまでもが会議に参加していた。


 「全員揃ったな。では会議を始める」


 ユアンとケントが席に着席し、陛下が立ち上がって話を始める。


 「昨日、祭りが行われている最中、わしの部屋に一通の手紙が届いた。手紙の送り主はドレーク領の代官からであった。手紙の内容は......エレク・ファラが死亡したという報告だった」


 全員その場の空気が凍る。そしてその状況を誰も受け入れられなかった。


 「嘘...ですよね?陛下?」

 「冗談はやめてくださいよ。だってあのエレクですよ?そう簡単に死ぬわけが...」


 一番最初に口を開いたのはレインだった。レインはエレクと仲がよくプライベートでも出かけるほどだった。

 二番目に口を開いたアークもエレクが死んだことが理解できていなかった。


 「残念ながらこれは事実だ。エレクは魔人に殺されたと書かれている」

 「魔人?それじゃスタンピートの魔人がドレーク領に流れて...」

 「いや、それはない。ドレーク領には被害が出ておらんし、その魔人は単独で行動していたそうだ」


 単独行動、エレクを殺すほどの力を持つ魔人。この少ない情報だけでもある程度のことは、ここにいる全員はわかっていた。


 「エレクを殺したのはカラーの奴らだってことだよな」

 「ん、私もそう思う」

 「でも、バーンさん。その少ない情報で決めるのはまだ早いんじゃ...」

 「いや、バーンの言うとおり、相手はカラーのアカという魔人らしい。エレクは大怪我でドレーク領の近くで倒れていたところを商人が見つけて、ドレーク領に運んでいる最中に息を引き取ったと書かれている。」


 再び会議室に沈黙が流れる。


 「俺がエレクさんの未来をちゃんと見てれば.....」

 「ユアン君のせいじゃないよ。エレクが王都を出たのはユアン君達が賢者の就任式が終わってからだから気にすることはないよ」


 正面にいるレインに慰めの言葉をかけられる。


 「エレクが最後に残した言葉がある。聞いて欲しい」


 そう言って陛下はエレクが最後に力を振り絞っていった言葉を読み上げた。


 「あ...のまじ......んは...アカと...名乗っていた...アイツは......私の......村を...襲撃した.....魔人だった」


 エレクが最期に言った言葉を聞いてレインは声を上げて泣いていた。他の賢者もレインにつられて涙を啜る音が聞こえる。


 「悲しい気持ちはわかるけど、今の俺たちにはやるべきことがあるだろ」


 この状況の中で口を開いたのはバーンだった。


 「何よやることって!」


 レインが激昂する。友人のエレクを亡くして悲しい気持ちでいっぱいだったレインはエレクの死を素直に受け止めることができていなかった。


 「俺たちは賢者だ。賢者になったからには危険が伴う。死ぬことだってある。だけど俺たちの仕事は国民が安全に暮らしていけるようにすることだろ!」


 バーンの言葉に先程の暗い空気が一瞬にして変わった。

 自分たちは賢者。それはいつ死んでもおかしくない職業だ。そのため、元賢者であるエレクも覚悟はしていただろう。


 「そうね...今は国民に被害が出ないように私たちがこの国を守らないとね...」

 「うむ、エレクの死は悲しいが、賢者のみんなには魔人の目撃情報がそこにいって討伐してもらいたい。必ず二人以上で行くこと。もし、エレクを殺した魔人が居ったら一人じゃ危険だからの」


 陛下の言葉にみんなが頷く。が、その中に一人だけ納得してない人がいた。


 「陛下、俺とケントの時は一人で充分です。他のところに人を回してください」

 「しかし...エレクを殺した魔人だったらどうするつもりじゃ!」

 「その時は本気でやりますよ」


 その言葉には少し殺気が込められていて誰も言い返すことはできなかった。


 「わかった...じゃが無理はするなよ。お主も大切な国の一人なんじゃから。ケントもそれで良いか?」

 「大丈夫ですよ」

 「みんなよろしく頼ーーーー」


 ドタドタと近くを走る音が聞こえる。その走る音は会議室の前で止まったかと思うと勢いよく扉が開く。


 「会議中申し訳ありません!ただいま城の中を巡回していたところアイ様の病室を警備していた兵士が何者かに気絶させられていて、中を確認したところアイ様の姿がどこにも...」

 「なんだって!?」


 兵士の言葉を聞いてユアンはものすごいスピードで会議室をあとにする。アイが寝ていた病室に着くとアイの姿はどこにもなかった。ベッドのシーツに触れてみるとまだ微かに温かかった。


 「ユアン、ちょっと退いて...」


 いきなり肩を掴まれ、ペトラが前に出てきた。ペトラはベッドの前にある黒い汚れを気にしていた。


 「ちょっと、何して」

 「ん、この黒いのから闇魔法の魔力が微かに残っている。それにこの手口はアレに違いない」


 アレとは一体なんだろうか?ペトラにそれを聞こうとした時、後ろから賢者全員が病室にやってきた。

 ペトラは全員が集まったところで今回の事件で起きたことを推察したことを話してくれた。


 「さっきあった、この黒い汚れは闇魔法の魔力が感じられる。それに手口から考えられることは...人攫いのベティの仕業」


 「「「「「人攫いのベティ!?」」」」」


 ユアンとケント以外はその名前に聞き覚えがあるようだった。


 「なんですか?その...人攫いのベティって」

 「人攫いのベティっていうのは、約十年前から王都を騒がせている人攫いのことなんだけど、当時はものすごい人がさらわれる事件だったんだ。けど、最近は人が攫われることは聞かなかったんだけど......ねぇ?本当にベティの仕業なの?」


 レインが詳しく説明してくれる。ユアンもケントも人攫いのベティという名前は初めて聞く名前だった。


 「ん、確かにそう。人攫いのベティの特徴としては闇魔法の痕跡があること。過去に私もこの魔力を見たことがあるから間違いない」

 「でも、人攫いのベティが犯人だとしてもどこに連れ去られたか分からねーじゃん」

 「ん、この魔力の痕跡を辿ればある程度ならどこにワープしたかわかるよ」

 「ちょっと待ってよ!闇魔法でワープがあるの!?」


 ペトラが言った言葉にケントは反応する。


 「ん、正確には闇魔法じゃない。これは魔道具によるワープ。この魔道具の作り方は知らないけど、知っていることは、使うと闇魔法の痕跡が出ることしかわかっていない。噂では人の命を代償として作られているっていう噂」

 「ペトラさん。お願い早く...」

 「ん、わかってる」


 ペトラはベッドの前にある黒いシミに触れて魔力を流す。十秒ほどするとペトラは立ち上がってワープしたい場所を教えてくれた。


 「ん、わかった...けど、この場所は......」


 場所がわかったはずなのにペトラは言おうとしなかった。


 「なんだよ!早く言えよペトラ!」


 なかなか言わないペトラを見て気に障ったのか、バーンが声を荒げる。


 「ん、ワープした場所は......隣国のドミノ王国だよ」


 ドミノ王国は、アウスト王国の隣国で五年前から戦争が起きてもおかしくないと言われていた。ドミノ王国がアウスト王国のアイを狙ったということは、戦争が始まる予兆でもある。


 「なんで...ドミノ王国なんだ」

 「魔人の件だってあるのに......なんであんな国と関わらなくちゃいけないの!」

 「すぐに兵士たちにこのことを知らせて......」


 様々な意見が飛び交う中、その場を静かにさせたのはユアンだった。


 「ちょっとうるさいですよ。皆さんのいう通りこのまま戦争が起きてもおかしくない状況です。けど今最優先に行うことはアイを取り戻すことでしょ?とりあえず、戦争が起きるかもしれないので皆さんはその準備をしていてください。アイは俺が助けに行きます」


 そう言ってユアンは病室から出て行こうとした。が、他の賢者達に引き止められる。


 「待ってユアン君。君一人じゃ危険だ!ドミノ王国には暴虐の魔女がいる!」


 暴虐の魔女とはドミノ王国に仕えている魔道士で、実力は賢者二人以上だと言われている凄腕の魔道士のことを言う。この世界には暴虐、創造、時の三人の魔女がいる。


 「平気ですよ。それに俺には未来予知と透過のスキルがあります。それを使えば攻撃は当たらないですし、余計な戦闘は避けることができます」


 ユアンの一言一言には殺気が込められており、いつでも戦闘開始ができるほどに魔力が激っている。

 その場にいる人たちは間違いなく思った。


 「「「「「絶対に何かやらかす気だ」」」」」


 先ほどのエレクのことにもつながるが、ユアンが未来予知で見ていれば状況が変わったかもしれない。今日の朝、アイの病室まで行き、未来予知で見ていたならこの状況にはならなかった。ユアンは心の底から怒りが込み上げていた。


 「じゃあ、俺がついて行きますよ。ユアンのストッパーとして」


 ユアンの同行に手をあげたのはケントだった。


 「それに...大事な幼馴染を連れ去ったこと後悔させてやる。なっユアン!」

 「当たり前だろ...国でもぶっ壊すか...」


 ユアンの「国でもぶっ壊すか」はボソッと言ったつもりだったが、全員には聞こえていたようでそれは全力で止められた。


 「でもドミノ王国までは数百キロは離れているよ。馬車で行くとなると一週間はかかるよ」


 レインの問いにユアンは息を吐くように簡単に答える。


 「レインさん、雷の速度はどのくらいかわかりますか?」

 「え?ちょっと分からないな...」

 「平均すると秒速二百キロです。そこまで早くはできませんが、ドミノ王国までなら二時間以内には着くと思います」


 驚愕の速さに全員が驚く。数百キロを二時間以内で移動することはほぼ不可能に近い出来事だ。しかし、相手はユアンだ。その力を見ると本当なのかもしれないと納得するしかなかった。


 「遅かったら置いてくからな」

 「こっちのセリフだよ」


 ユアンとケントは急いで病室から出ていく。みんなからは「こっちは任せて、好きなようにやってこい」とエールをもらった。そのまま王都の門まで走り王都を出て、目的地のドミノ王国まで走る。

 ユアンは自分に身体強化と雷を纏って走っている。ケントも同じように身体強化と風魔法を纏っている。二人が走った場所には強風が吹き周囲の魔物達は怯えて近づいてこなかった。


 「待ってろよ...アイ!」


 心の中でアイの安全を願うユアンだった。


 



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