第二十一話 魔物の大群
王都を襲撃したアオはアウスト王国から数百キロ離れた廃墟に辿り着いていた。
「おい、もう王都を襲撃したのか?」
声のする方を振り向くと、カラーのメンバー、キイロが腕を組んで立っていた。
「してないわよ〜。私は戦う気はないって言ったじゃな〜い」
「貴様!魔王様の命令に逆らうつもりか!?」
キイロという魔人は激昂する。アオはそれを宥めつつきちんと説明した。
「戦う気はなかったけど〜王都の草原にモンスターボックスを置いたわ〜。まぁ賢者達がいて討伐されるのは時間の問題だけど〜そっちに気を取られている間に三日前から王都に忍ばせている魔人がいるから、そいつが国民を全員殺して逃げるつもりよ〜」
意外にもやる気のないアオにしてはいい計画だなと思ったキイロだった。それを聞き、キイロの激昂は落ち着いた。
「まぁいい。お前が帰ってきたなら会議を始めるぞ。すぐに席についとけ」
そう言って廃墟の中にある小さな部屋に案内される。部屋に入るとカラーのコードネームを持っている幹部達が全員席に座っていた。
「あら〜アカはどうしたの〜?」
「あいつは今日も欠席だぜ」
アオの質問に答えたのはミドリというコードネームを持った魔人だった。
「あらそう〜」
アオはそう言いつつ、自分の席に座った。
「さて、会議を始める」
***
気を失っているアイを抱えて、ケントはユアンのいる結界の上に来ていた。
「ユアン!アイが...」
「わかってる。アイは俺に任せてお前は早くヴァントさん達を助けに行け」
ケントは無言で頷いた。ケントが直ぐに戦場へと向かった。ケントは結界の上から直ぐに消え、行方を追ってみるとすでに最前線のところまで追いついていた。
「頼んだぞ...ケント」
最前線で戦っている賢者四人はものすごい魔法で魔物達を圧倒していた。だが、プト村で戦っていたヴァントの魔力はガス欠寸前だった。
「くそ...もう魔力が...」
「ヴァント無理すんな!もうすぐケントが来る。そん時に後ろに下がって休憩してろ!」
「でも俺がいなくなったら、バーンさん達がキツくなるんじゃ...」
「ん、ヴァントいなくても別に平気。私の魔法で全員動けなくさせるまで」
「そうだよ、ヴァントがいなくても僕たちは平気だからゆっくりしてな」
バーン達に気を使われたことに正直不甲斐ない気持ちでいっぱいだったが、今の自分にはこれが精一杯だった。
「そうっすよ!他の村で戦ってきたのにこっちまで手伝ってくれてるんだ。もう休んでも平気っすよ!ヴァント様!」
「そうだ!そうだ!」
冒険者達からも温かい声をかけられる。ずっとここで戦いたい気持ちだったが、ヴァントの魔力は完全に尽きた。魔力切れでその場に倒れ込む。
「ヴァントもう後ろに下がれ!怪我もしてんのにありがとな!」
ヴァントは手の開いていた宮廷魔道士に担がれ、白いテントに連れてこられた。そこには宮廷治癒魔導師もいて、けが人を治療していた。
「ヴァント様お疲れ様です。今治療しますね」
そう言われてヴァントは治療を受ける。宮廷治癒魔導師は光魔法回復でヴァントを治療する。光魔法で治療をすると、傷口の痛みは無く気持ちよく治療することができるが、ポーションで直すときは患部にポーションをかけるため、とても滲みて痛みが出る。光魔法を使う人は貴重で、直すときも金額が高額になる。
ヴァントは疲労のせいか、治療を受けている途中に眠りについた。
***
ヴァントがいなくなった前線では賢者のほかにAランク冒険者がとても活躍していた。彼らはパーティーを組んでおり、高ランクの魔物に対しても臆することなく連携して魔物を討伐していた。だが、それでも魔物の数は減ることなくずっと増え続けている。これでは魔力が尽きて全員死んでしまう。
「お待たせしました」
上空からケントが降りてきた。冒険者達は「え?子供?」と困惑していたが、賢者達は「やっときたか!」など安心した声が聞こえる。本当にこの少年で大丈夫なのか?と疑問に思う。
「皆さんどれくらい倒しました?」
「わかんねーけど三百匹は倒したんじゃねーか?それよりも、もっとペースを上げてかないとこの周辺魔物で溢れ返るぞ」
まだ箱の中から魔物は出続けている。賢者やAランクの冒険者が最前線で戦っているおかげで被害は最小限に抑えているが、いつまでもつかわからない。
「ん、ユアンも呼んで一気に片付けたほうがいいかも」
「いい案かもね。ユアン君の結界があるなら後ろにいる冒険者達でも守れそうだし」
「でもユアンが来たところでこの数をどうにかできるのか?」
「魔物が出ている箱を全力の魔法で壊すとかかな?」
アークの何気ない一言でその場にいる全員は「それだ!」と同時に言った。
「でもあの箱を壊すともなると相当威力の高い魔法を撃たなきゃだな...」
「そうなると僕らの切り札の精霊化しかないんじゃないかな?」
現在箱から出ているAランク級の魔物は二百匹から三百匹。その後ろに魔物が出続けている箱が存在している。
バーン達賢者は精霊化をして一気に破壊しようとしていたが、それをケントは止めた。
「待ってくださいよ。ここは俺がやりますよ」
「でもこの数はケント君でもキツいんじゃ...」
「大丈夫ですよ。少し本気を出しますから」
そう言ってケントは、賢者達の後ろに下がって膨大な魔力を込め始めた。普段は魔力なんて目には見えないが、今ケントに集まっている魔力は目に見えるほど具現化されていると言っても過言ではない。
「おいおい...あれを撃つのかよ... 」
「ちょっとそれは...」
バーン達が止めようとした声を聞かずにケントは魔法を放ってしまった。
「火爆焼尽!!」
ケントはバーンのオリジナル魔法を魔物と魔物が出ている箱に向けて撃った。激しい轟音と熱を持った熱波が賢者や冒険者、宮廷魔導師を襲う。全員熱波で目をやけないように反射で目をつぶってしまったが、目を開けると焼け野原になっていた。ケントが魔法を打つ前までは、広がる草原と生茂る森が目の前に広がっていたが、跡形もなく焼けている。
「あ、あの...すいません!!」
王都中に響くような声でケントは全員に謝る。ケントの撃った魔法で確かに魔物と箱は消えたが、その後ろの森は全体の五分の一が消しずみとなっている。歴史上こんなことをした人は誰もいない。そう、その歴史にケントという名が刻まれるのは遅くないだろう。
「まぁ魔物と箱も消えたからいいのか......?」
「いや、でも...」
「ん、やりすぎ」
バーン達が精霊化を使ってもこんなにはならないはずだ。精霊化をしてないケントがここまでの威力の魔法を撃てること自体が驚きであった。
「まぁとりあえずは魔物が襲ってくることはなくなった!みんなよくやってくれた!」
アークがみんなに向けて話す。目の前に広がる光景とスタンピートが終わったことで冒険者や宮廷魔道士達は心から喜ぶことができなかった。嬉しさよりも驚きの方が強く、素直に喜べなかったが、とりあえずはスタンピートが終わったことによってその場に座り込む人が後を立たなかった。
けが人は出てはいるが、死者は一人しか出ていない。これは圧倒的に少なく、アウスト王国始まって以来の快挙だった。
「さて、そろそろ王都に戻ろうか」
そう言い、王都に戻ろうとしてもまだユアンの結界は張られたままだった。上にいるユアンに声をかけても返事はなかった。ケントは結界の上に行きユアンに事情を説明しようとしたが、ユアンの姿はなく、アイには結界が張られていた。
「あいつどこ行ったんだよ...」
時は少し戻る。
ケントが森を消しずみにした時、ユアンは王都ないをウロウロしている市民を見つけた。最初はただ、迷っているだけだと思ったが、その市民の未来を見てみたら、市民ではなく人の皮膚を纏った魔人だった。急いでユアンはその魔人に近づいた。
「どうしましたか?」
ユアンは攻撃的な言い方ではなく、初対面に人に話すように丁寧な話し方で話しかけた。
「いや、どうも迷ってしまってどうやって出ればいいのか分からなくて...」
「ああ、なるほど。でも出る必要なないですよ。今ここで死ぬんですから」
ユアンはすぐに戦闘態勢に入った。魔人はそれを感じたのかユアンから一気に距離を離す。
「ヤバイ... なんだあいつは...あんなのがいるって聞いてねーぞ!それよりどうやってあいつを殺すか...」
逃げた魔人は逃げながらユアンを殺す方法を考えていた。
「へぇどうやって殺すの?」
「!!!??!?」
次の瞬間逃げていた魔人の首は地面に落ちていた。首から離れた胴体は、首が離れていても少しは走っていたが、次第に動かなくなった。
「さて、これで本当に終わったな...」
ユアンは「未来予知」で未来を見るが、特に変わったこともなくこれ以上何かが起きるわけでもなかった。ユアンは結界を解き外にいる冒険者や魔道士達を中に入れたり、避難所にいる市民達は夜遅くと言うこともあり、知らせるのは次の日の朝ということになった。
朝になりスタンピートが終わりになったことを知った市民は喜んでいた。陛下も被害がとても少ないことに喜び、賢者や討伐に参加した冒険者や宮廷魔道士達に陛下から特別賞与が渡されることになった。
その日の夜は王都全域でお祭りが行われ、貴族も平民も楽しい時を過ごしていた。
王都がお祭りを行なっている中、陛下の執務室に一通の手紙が届く。
その手紙の内容は、エレク・ファラの訃報を知らせるものだった。
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