第二十話 一人の魔人
ナイル村にいるレイン以外の三人は王都に戻るように、王都に行く道を進んでいた。アイの言う通り魔物の姿が見えなかった。
「やっぱり、アイの言う通り魔物姿がないな」
「スタンピートでこの魔物の数は少ないからな。魔人が言っていたカラーとか言う組織が関わっているなら、何かおかしなことが起きてもおかしくはない」
三人は急いで王都に向かった。
同時刻、王都では異変が起きていた。
ナイル村行くための道から人の姿が見える。
「おい!何か見えるぞ」
前衛にいたAランク冒険者が何かを知らせる。近づいて来るそれを見るとその正体は魔人だった。
「ま、魔人だぁぁぁ!!」
その姿を見てCランクの冒険者が叫んだ。魔人の一言でその場の空気は一気に変わる。
「あら〜別に警戒しなくてもいいわよ〜。私は別に戦うつもりじゃないし〜。ただこの箱を置きにきただけよ〜」
現れた魔人は黒髪で背の高い女性だった。口元には鋭く尖った歯が見える。
「おい、そんなの置くんじゃねぇ!とっととそれ持って帰れよ!」
冒険者が強い口調で魔人に言い放った。
「んー、あなた美しくないわね〜いらないわ...」
「えっ...」
魔人はとてつもない速さで冒険者の背後を取り、冒険者の首筋に噛み付いた。魔人はジュルジュルと音を立てている。噛まれた冒険者は身体中がシワシワになりその場に倒れた。
「ふぅ、ごちそうさま。あまり美味しくなかったわ〜。やっぱり美しくないからかしら〜」
「おい、グラハム返事しろよ!」
近くにいた冒険者はシワシワになったグラハムの近くに行ったが、すでに死んでいた。
「くそ!グラハムの仇!」
仲間が魔人に攻撃しようとした瞬間「待て!!」と後方から声が聞こえた。その声を聞いて攻撃をやめる。
「さて、魔人とは俺らが戦う。今ここにいる冒険者、宮廷魔導師たちは後ろで待機してろ」
後方からバーン、ペトラ、アークが前に出て来る。それを見て魔人はとてつもない笑顔になる。
「あら〜あなた達とても美しいわね〜。ねぇちょっとだけでいいから血を吸わせてくれないかしら〜」
「嫌に決まってんだろ!」
バーンは威嚇程度に火弾を魔人に撃ち放った。
魔人は自身の前に水で作った壁で、バーンの魔法を打ち消していた。
「いきなりレディに魔法を撃つなんて紳士がやることじゃないわ」
「紳士なんて思わないでくれた方がいいぜ。こっちはお前を殺すことしか考えてないからな」
「だからぁ〜私は戦う気はないって言ってるでしょ〜」
そう言って魔人は地面に置いていた箱をまた持ち始めた。
「それは何が入ってるんだい?」
「ん〜コレェ?これは開けて見てからのお楽しみ〜」
魔人が箱を開けようとした時、魔人は背後から攻撃を受けた。
「痛った〜誰よ〜こんなことするの〜」
魔人が後ろを振り返ると、そこにはケント、アイ、ヴァントが立っていた。魔法を撃ったのはケント、魔人に獄炎の矢を撃っていた。
魔人は重症と思いきや、怪我はそこまでしていなかった。
「あなたがこの魔法を撃ったの?坊やにしてはすごい威力ね〜。あなた見た感じすごい魔力を持っているわね。それに隣の子も......」
魔人はケントの隣にいるアイを見て言葉を失った。その瞬間、魔人はその場から消えた。ケントやその場にいる賢者でさえも魔人の姿を捉えることはできなかった。
「あら〜ほんとに可愛いわね〜」
声がした方を見てみると、魔人はアイの背後から抱きついていた。
アイも抱きつかれて、自分がどのような状況か理解した。
「は、離れて!」
アイは背後にいる魔人に光魔法を撃つ。以外にも魔人はあっさりと離れたが、アイの首筋には血を吸われた痕が残っていた。
「ンフフ〜ご馳走さま!おいしいわ〜とってもおいしい!今までこんなにおいしい血は初めてよ〜」
アイの血を吸ってご機嫌な魔人はクネクネと気持ち悪い動きをしている。
血を吸われたアイは、急に片膝を地面につけ、呼吸が荒くなる。
「アイ!大丈夫か!?」
「へ、平気...ちょっと目眩がしただけ......」
口では平気と言っているが明らかに平気には見えなかった。次第にアイはその場に倒れてしまった。
「おい!アイ!お前アイに何をした!?」
「ん?ただ血を吸っただけよ〜。けど私に血を吸われたものはしばらくの間、高熱が出たりするかもしれないわね〜」
ここですぐにでも魔人を倒さないといけなかったが、アイがこの状態では戦うのは危険だった。まずは、アイを安全な場所に避難させなければならなかった。
「ヴァントさん、アイをユアンのところに連れて行きます。その間、ここはお願いします」
「ああ、早く戻ってこいよ。この魔人、今までで一番強いかもな」
ケントはアイを抱き抱え、結界の上にいるユアンのところへと向かう。
ケントがユアンのところへと向かう間、バーン、ペトラ、アーク、ヴァントで魔人を逃さないように囲んでいる。賢者の周りには大勢の冒険者や宮廷魔導師がいて、とても逃げられるような状況ではなかった。
「これで逃げ場はないぜ」
「ん、袋の鼠」
いつでも戦闘が始まってもおかしくない状況で、魔人はその雰囲気を壊すかのように淡々と話す。
「ハァ〜何回も言わせないでよ〜。私は戦う気はないの〜。じゃあ自己紹介だけやって帰ろうかしら〜。私は吸血コウモリの魔人で〜知ってるかわからないけど〜カラーって組織に入ってま〜す」
カラーと聞いてヴァントが反応する。
「カラーだと!?まさか...コードネームは......」
「もちろん持ってるよ〜。コードネームはアオ。以後お見知り置き〜」
そう言って魔人は持っていた箱を開ける。開けた箱は魔人の足下に置いた。何も起きる気配はないが、箱が空いてから十秒後魔人は「バイバ〜イ」と言ってヴァント達に手を振った。次の瞬間、箱の中身からすごい量の魔物が出てきて、近くにいた人達は魔物の攻撃を少し受けてしまった。けれど、さすがは賢者といった凄腕の魔導師達は、攻撃を受けてもその場での最適な動きを見せる。
「くそ!これが狙いだったのか!」
「魔人はどこに行った!?」
「ん、気配はない...魔物を囮にして逃げた」
「じゃあこいつらを倒すしかねーな!」
箱の中からすごい勢いで魔物が溢れ出る。プト村で見た魔物の量とは桁が違う。これがプト村にいた魔人が言っていたことなんだろうとヴァントは確信する。
「ケント...早く戻ってきてくれよ...このままじゃ全員死んじまうぞ!」
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