第十二話 決闘
決闘の日当日、ユアンはなぜか授業を受けていた。
決闘は昼に行われる。ユアンはそれまで図書館で寝ていようとしていたが、アイ達に捕まり強制的に授業を受けさせられる羽目になった。学園の授業はとてもつまらなかった。この五年間レイン達から教えてもらった内容よりも簡単だった。ユアンは机に教科書を立てて自分の姿が隠れるようにして寝る体制についた。
「ちょっとユアン!何で寝るのよ」
「いや、そもそもなんで授業受けるんだよ。別に受けなくてもいいって言われてるだろ」
隣に座っているアイが周りに聞こえない声で話しかけた。
「それはそうだけど、でもずっと授業受けないのは学生として良くないじゃん」
「でも許可はもらってるけどなぁ......それより俺を注意するよりケントを注意した方がいいんじゃねーの?」
「えっ?」
ケントを見てみると机に教科書を立てずに堂々と寝ていた。アイはそれを見て頭を抱えていた。アイはクレアに視線を送りケントを起こすようにアイコンタクトを送った。
「ケント様起きてください。授業中ですよ」
「むにゃ...あれクレアおはよう。もう決闘の時間?」
「まだですけど、今は授業に集中された方が.....」
ケントの声でクラスにいる人全員がケントに視線を送る。ケントを見てヒソヒソと話し声が聞こえる。
「平民のくせに授業を聞かないってどういう神経してるんだ」
「どうせ負けるのが怖くて最後にこの教室での思い出を作ろうとしてるんだろ」
ヒソヒソと話し声が続き、先生が止めに入った。
「皆さん今は授業中ですよ。授業に関係ない話はしないように。ケント君も体調が悪くて寝ているのであれば医務室で休んでください」
「はーい、わかりました」
ケントは教師に言われたとりに教室を出て行き医務室に向かった。ケントが教室を出るとケントの悪口が聞こえてくる。
「あの平民、体調が悪いっていう理由で今日の決闘を延期にしようとしてるんじゃ....」
「そんなの認められるわけないだろ。仮にあの平民が棄権してもこの教室にいるもう一人の平民が戦えばいいだけの話だろ」
「それもそうだな」
ケントがいなくなってから悪口が止まらない。流石に友達をこれ以上バカにされるとイラついてくる。隣にいるアイを見てみるとアイも切れる寸前だった。ここで問題を起こしては意味がないのでアイを宥めて授業に集中した。
授業が終わって休み時間になる。ユアンとアイはクレアが座っている席に行きあまり心配しないように励ました。
「大丈夫ですよ。ケント様はお昼のために体力を温存しているだけだと思いますから」
「そうだよね。ケントが怯えているわけないもんね」
「まぁ気にすることはないよ。結果は視えてるけど心配することはない」
ユアンの言葉を聞いてクレアは少し安堵する。今は昼まで待つことしかできないから次の授業が終われば楽しい楽しい試合観戦が待っている。貴族達がどんな負け方をするのか楽しみだった。
***
授業が終わり教室にいた人たちは一斉にグラウンドに集まる。教室を出る際、貴族達から嫌味な発言をされた。
「よく逃げなかったな。いや、一人は逃げたのか。あのケントという平民は俺たちの力に怯えて医務室に逃げた臆病者だもんな。時間通りに来なかったらそこの平民が戦えよ。負けるのが怖かったらみんなの前で土下座をすれば許してやらんでもない、はっはははははははは!」
流石にこの言葉にはキレそうになりユアンは持っていた刀の柄に手をかけた。刀を引き抜こうとした瞬間アイに止められた。
「貴族がそんなことを言って許されるんですか?ここには王女殿下もいらっしゃるのに平民を蔑む言動はどうかと思いますが....」
「そんなの知らないね。僕は貴族だ!貴族は何をしても許される。そもそも平民が学園に入ること自体が間違ってるんだ。平民は平民らしく小汚い格好をして外で遊んでいれば良いんだ。この国に平民は必要ない」
この言動を聞いてクレアは激怒した。
「民あっての国ですのにその言い方はなんですか!!民がいなければあなた達貴族は何もできないんですよ!」
「何を怒ってるんですか?平民がいなくても国は動きますよ」
「じゃああなた達は野菜の作り方を知っていますか?」
「知るわけないですよ。そんなのは平民の仕事だ」
「あなたがバカにしている平民はとても立派ですよ。この国で平民がいなくなったら誰が食料を作ることはできるんですか?あなた達貴族にはできませんよね?それもできないのに平民をバカにすることは私が許しません!!!」
貴族は何も言い返せなかった。
激昂するクレアを初めてみたが、今まで平民をバカにしている言動やケントをバカにしている言動が積もり積もって今爆発したんだろう。クレアの言ったことはユアンとアイの言いたかったことを全て代弁してくれたおかげでさっきよりもイラつきはなかった。むしろ爽快感がある。
「そんなことはどうでも良いんですよ!今は平民対貴族の対決です。もし負けたらクレア王女もいただきますよ?」
貴族が追加で要求してきた。クレアは二つ返事でOKした。
「良いですわ!負けたら私はあなた達のものになりますわ!」
「言質は取りましたよ?」
「構いません。早く始めましょう」
クレアは一人でグラウンドに言ってしまった。ユアンとアイもクレアについていくように教室を出た。一人残された貴族のリーダーは高笑いを上げていた。
「はっははははは。これで王女殿下も手に入る。僕が手に入らないものなんて何もないんだ」
グラウンドに着くとそこには大勢の観客がいた。学園の八割ぐらいだろうか。大勢の人で賑わっていた。土属性を使う教師達は魔法で観客席を作ってそこに生徒を座らせていた。
「なんでこんなに集まってるんだ?」
「私もわからない」
「私もですわ」
グラウンドの中央には十五人ほどだろうか貴族の連中がこちらを睨んでいる。
「もしかしてあれが対戦相手だよな?」
「よく人数集めたわね。それによく見るとクラス全員じゃない?」
「本当ですわ。全員教室で授業を一緒にした人たちですわ」
流石にユアンは言葉が出なかった。未来予知で見た人数は七人から八人ほどだったが、こんなに簡単に未来が変わるとは思っていなかっただろう。
「おっすごい人だな。こんなに集まってるのかよ」
「「ケント!?」」
いきなり現れたケントにユアンとアイは驚く。
「そんなに驚くなよ。てか、何でこんなに人がいるの?」
「さあ?まぁそれをする人物は想像できてるけど....」
「担任のマック先生だね....」
アイも犯人が分かっていたようだ。そんな話をしていると戦う生徒はグラウンド中央に集まる指示が出た。
「よし!じゃあ行ってくるわ!」
「負けんなよー」
「負けないでねー」
「頑張ってください!」
戦う選手がグラウンドの中央に集まる。参加者はケントだけを見て貴族達は余裕をこいている。
「まさか仲間にまで見捨てられるとはかわいそうだな平民」
「さっさと負けを認めて奴隷になった方がお利口なんじゃねーの?」
「うるせーな。くだらないこと言ってないで早く始めようぜ」
ケントの言葉に貴族達がブチ切れる。観客達はその会話を聞いて盛り上がっている。
ユアンは審判に周りに被害が出ないように結界魔法を使っていいか相談した。
「あの、周りに被害がいかないように魔法を使ってもいいですか?」
「魔法?そんな魔法があるのかい?できるならお願いしたい」
審判に許可を得たのでユアンはグラウンドを覆う強大な結界を張った。
規格外の魔法とその広さにグラウンドにいる人たちは全員驚いて静寂が広がった。
「何...この魔法」
「これが...魔法?なのか?」
結界魔法を見たことがない生徒、教師は驚いている。
「これで周りに被害が出ることはありません。思いっきり戦っても大丈夫ですよ」
「わ、分かった。ではこれより決闘を始める。始め!!」
審判の合図で貴族達が魔法を撃つ準備をしている。
「全員自分が撃てる最強の魔法をあの平民に叩き込め!!!!!」
「水よ槍となって貫きたまえ!水槍」
「火球よ弾丸となりて敵を撃ちぬけ!火弾」
「風よ集て敵をなぎはらえ!竜巻」
一斉に詠唱が始まり、十五人全員がケントに魔法を撃ち込む。ケントはただ見ているだけで何も防御しようとはしていなかった。魔法は全て中級魔法を撃ってきたがケントは魔力障壁を展開した。
一斉に攻撃が当たりケントがいた場所は水蒸気などで見えなくなっていた。
「どうだ...俺たちが撃てる最強の魔法を撃ち込んだんだ。これで勝ったも同然だろ....」
「あれじゃあケントっていう子の負けだろ」
「あれだけ一斉に攻撃をくらったらひとたまりもないわ」
観客もケントが負けることを予想している。
貴族達は全員消耗している。全力の魔法を撃ったせいなのかほぼ全員が魔力切れを起こしているのは見て分かった。
水蒸気が消えてケントのシルエットが見えてくる。それを見てグラウンドにいる観客と貴族達は驚く。
「大した威力じゃないな。これならユアンとアイの初級魔法の方が強いぞ」
ケントの魔力障壁は無事で攻撃をくらった様子はなかった。
「バカな....あれだけの攻撃をくらって立っているだと.....」
貴族達は納得できていなかった。そんなことはお構いなしにケントは魔法を撃つ準備をする。
ケントの右手には巨大な火の玉が、左手には風が圧縮された玉が浮かび上がる。
「さて、今度は俺の番だな。防御しないと.....死ぬぞ」
「「「「「「「うああああああああああああ」」」」」」」
ケントは巨大な火の玉を貴族達にぶつける.....つもりだったがギリギリのところで火の玉が当たらないように左手の風の玉で相殺する。貴族達は全員失禁し気を失っている
「勝者ケント!!!」
審判の声がグラウンドに響き渡る。グラウンドにいる観客全員が盛り上がった。
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