第十一話 話し合い
「君たちには決闘でどちらが正しいか決めてもらいます」
ユアン達三人は「は?」と思った。ケントは戦う気満々で、これっぽちも変だとは気付いていなかった。貴族の子供達もやる気満々で不敵な笑みをこちらに向けていた。
「あの、ルールってあるんですか?」
「そうですね.....そこは自分たちで決めてください。お互いに「勝ったらこれをしてもらう」っていうのもありです。決闘自体は相手を殺さなかったら大体セーフですね」
ユアン達は唖然とした。まさか入学式で言ったケントの一言でここまで早い展開になるとは誰も思っていなかっただろう。しかも賢者であるケントが入学したての子供と戦うとか蟻と象が戦うようなものだ。
「おい平民。俺たち貴族が勝ったらお前達三人は一番下のクラスに落ちてもらう。それで卒業するまで俺たちの奴隷として飼ってやるよ。はっはははは!!」
リーダー格の貴族の子供はいきなりとんでもない要求をしてきた。(まぁケントが戦うから負けるはずもないけど...)
「じゃあ俺たちが勝ったらお前らが一番下に落ちろよ。それと二度と俺たちに近づくな」
ユアンが貴族達に提案する。貴族たちは少し考えた。そしてもう一つ要求した。
「じゃあもう一つ追加だ。そこの女を俺の妾にする。その女は魔力も高いし、顔もそこそこ。俺の家系に来れば将来もっと大きな家になることは間違いなし!今からでも遅くない!そいつらを裏切ってこっちに来れば奴隷のような扱いはしないさ」
大胆な発言でユアン達サイドの空気は固まる。その空気を解いたのはユアンだった。
「は?」
「ヒッ!」
クラス全体にユアンの殺気が溢れる。貴族達はユアンの殺気に当てられて座り込む。貴族達はアイを妾にすると言った。それは結婚を表す。アイは幼馴染として大切な人だ。アイが自分から結婚すると言ったら笑顔で見送るつもりだった。だが、今回の件については話が違う。これはほぼ無理やり結婚すると言っている。ただの賭けでケントが戦えば確実に勝てる試合だ。にもかかわらず、ユアンはとてつもない怒りにさらされている。
「わかった。それでいいよ。けど負けたらほんとに約束を守れよ」
ケントがあっさりと承諾する。ケントの声を聞いて我に帰るユアン。
「ああ、家名に誓って。日時は明日の昼、場所は学園のグラウンドでいいかな?」
「それでいいよ。で、参加人数は?別に決めなくていいよな?」
「ああ、別に構わないよ。でも、今の約束で君たちは確実な負けを得た。せいぜい最後の夜を楽しんでくれ」
貴族達は高笑いをしながら教室を出た。今日学園長が貴族平民関係なしで勉強できると言っていたのに、この様子を見て本当に大丈夫なのかと疑いたくなる。
「ユ、ユアン....?」
後ろから少し震えた声が聞こえた。ゆっくり振り返ると座り込んでるアイとクレアの姿があった。アイとクレアは先程の殺気で座り込んでいた。それを見てユアンは目を逸らした。
「ご、ごめん....その...」
「ううん。別に気にしてないよ。私のために怒ってくれたんでしょ?」
アイはゆっくりとユアンに近づき、ユアンの頬にそっと手を置いた。そしてアイはニッコリと笑っていた。
「怖がらせてごめんな...驚かせるつもりはなかったんだけど...」
「別に怖くないよ。でもちょっと驚いたかな?それでも私のために怒ってくれたこと嬉しかったよ」
満面の笑みでお礼の言葉を口にするアイを見てユアンはまた目を逸らした。先ほどまで怖がらせた本人をなぜそこまで普通に接してくれているのか。色々と悩んでいるとケントの咳払いする声が聞こえた。
「ちょっとそこでイチャイチャするのは後でやってもらって」
「「イチャイチャなんかしてない!」」
ケントが言った言葉にユアンは言い返した。するとアイも同じようにユアンの言葉に重なった。二人に息がぴったりだったことでユアンとアイは顔を赤くした。
「なんだ息ぴったりじゃん。まぁそれより明日の試合はどうする?俺は出るけどユアンは?」
「俺はいいかな。ケントに任せるよ」
ユアンは自分が出ないことをケントに伝えた。それを聞いアイは驚いていた。
「ええええ!なんで出ないの?さっきまで戦う雰囲気出してたじゃん!」
「いや、ボコボコにしたいって気持ちは今でもあるけど...あいつらと戦うんだぞ。ケント一人でどうにかなるだろ。入学したばかりの子供と賢者が戦うって俺が出る必要ないだろ。ケントが出る時点でほぼいじめだろ」
「んーそれもそっか〜」と納得するアイ。ケントが一人で戦うことが決定した。
「じゃあ決まりだな。明日はサクッと勝って楽しい学園生活送ろうぜ!」
「ケント様頑張ってくださいね!応援してますよ!」
クレアはケントに声援を送った。ケントはクレアの頭を撫でながら「任せとけ!」と言って笑顔になっていた。その日は帰りの馬車に乗り王城に着くまで馬車の中で軽く睡眠をとった。王城に着くとセバスが出迎えてくれた。
「皆様おかえりなさいませ。入学式お疲れ様でした」
「セバスさん!奥さんの具合は大丈夫なんですか?」
「ええ、大したことなかったですよ。階段から落ちて骨折をしたらしくて、それで急ぎの連絡がきたので見に行ったらただの骨折だと聞いて...」
セバスは少し苦笑いをしている。
「メイドさんからは奥さんの体調が悪くなったと聞いたんですけど...」
「それは早くきてもらうための口実らしくて....うちの妻がお騒がせして申し訳ありません」
セバスは深々とユアン達に頭を下げた。
「別に大丈夫ですよ。奥さんが無事で何よりです」
「ユ,ユアン様。ありがとうございます」
「ああ、それと陛下と少し話したいことがあるので部屋に案内してもらえると助かるんですが」
「もちろん。ユアン様のためなら魔王城や死の森でも案内しますよ」
そんな物騒なところまで案内しなくていいと思いながらもユアン達はセバスについて行った。部屋の前まで案内されると、ユアンはいつも通りにドアを軽くノックして部屋に入った。
「おお、ユアンか。それにみんなでどうした?」
「実は......」
ユアン達は今日起きた貴族の子供について話した。それを聞いて陛下は不機嫌そうな顔をしていた。
「ほう...お主達にそんな言葉を...それに平民貴族関係なく勉強をできる場所でよくそんなことが言えるのう」
「とりあえず、明日ケントが戦うことになったのでその貴族達は一番下のクラスに行くことでしょう」
「じゃが本当にケントだけでいいのか?ユアンとアイも加わったほうが確実に狙えるじゃろ」
「私たちが参戦するといじめみたいな感じになるのかなって...」
アイの言葉を聞いて陛下は少し納得したように頷く。
「確かにアイの言う通りかも知れんが、そんな不届き者には思いっきりやってもいい気がするがのぉ」
「まぁケントが本気で全員倒せばいいだけですよ。なぁ?」
「そうだな。とりあえず相手の手の内を全部見させてもらってからボコボコにしますね」
「相手の心を折る気満々じゃの...恐ろしいわい」
「まぁそう言うことなんで終わった後の貴族達の処理は陛下にお任せしますね。俺は疲れたんで先に部屋で休んでますね」
ユアンは一人だけ部屋を出て行った。残った三人は陛下と軽く話していた。
「そういえば今日のユアンは少しいつもと違っていたな?どうかしたのか?」
「多分貴族達に切れたからじゃないですか?あの時初めてユアンが切れるのを見ましたからね」
「ほう...そんなにすごかったのか」
「私なんか少し殺気に当たっただけで座り込んでしまいました」
「クレアでもそこまでなるのか...」
陛下は少しユアンの危険性がわかったようだった。
「これからユアンが切れることがないように充分注意した方が良いことがわかったな」
三人は頷いた。ユアンの知らないところでユアンが要注意人物だと決まった日だった。
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次回ケントvs貴族の子供達です。お楽しみに!!