第四話 謁見
今日ユアン達は謁見の日を迎えていた。謁見は午前九時から始まる。その日はいつもの朝とは違っていて、朝食を済ませて部屋に戻ると数人のメイドと謁見ようの服が並んでいた。
「あの、自分で着るので大丈夫です」
ユアンは人に着させて貰うのに少し抵抗があった。そして何より恥ずかしかった。
「いえ、それは出来ません!」
メイドにはキッパリと断られた。服を着させられたり、軽い化粧などで一時間以上準備に時間がかかった。ユアンは準備ですでに疲れ切っていた。準備が終わるとメイド達はすぐに部屋を出て行ったので少し休もうと部屋にあるソファに腰掛けた。すると、ドアがノックする音が聞こえた。
「ユアン様、セバスです。ご準備ができたらお声をかけてください。もうすぐ謁見が始まります」
もうそんな時間か....と思いつつも遅くなっては申し訳ないのですぐに返事をした。
「わかりました。すぐ行きます」
ユアンはドアを開けるとセバスが立っていた。その後ろにはケントも立っていた。
「遅いぞ。何してたんだよ」
「着替えで疲れたんだよ」
「あーそれはわかる。俺も朝飯終わって部屋に入ったらメイドが数人いて「準備しますのでここにお座りください」って言われてそのまま言う通りにしてたけど結構疲れるよな」
どうやらケントも同じ思いをしたらしい。部屋の前で話をしているとセバスから謁見の場所まで案内された。案内されている時にアイの姿が見えなかった。
「てか、アイは?」
「アイならもう謁見のところに行ってるらしいぞ。賢者になるのは俺たちだから、アイは用意されている椅子とかに座らされてるんじゃね?クレアも同じようなこと言ってたし」
「何だよ、王女様もいんのかよ」
「別にいいだろ。クレアが陛下に「ケント様が賢者になる姿を見たい」って言ったらそのまま通ったんだから」
相変わらず陛下は国王っぽくないなと実感する。そんな話をしていると謁見する会場についてしまった。
「では扉が開いたら前までお進みください。絨毯の切れ目まで行きそのまま片膝をついてください。もし何か言われたら「はっ!」など仰っておけば大丈夫です。では頑張ってください」
セバスは説明が終わるとニコッと笑って応援してくれた。その一言でユアン達は緊張が少し軽くなった。
するとすぐに扉が開きユアンとケントはセバスが教えてくれた通りに絨毯の切れ目まで歩いて行った。絨毯を歩いていると大勢の貴族や、賢者の人たちが参列していた。目の前には陛下が座っており、その一番はじに椅子が用意されておりアイが座っていた。クレアの姿は見えなかった。ちらほらと見たことがある貴族もいたが、すぐにわかったのは、以前お世話になったザルク公爵の姿もあった。ユアンは横目でザルク公爵を一目見ると少し違和感を感じた。ユアンはすぐに「未来予知」でザルク公爵を見てみた。するとユアンが見た未来ではザルク公爵がこの場で大暴れする未来が見えた。それもザルク公爵本でない人が。
ユアンはすぐに立ち止まってザルク公爵がいる方向へと歩き出した。会場はざわめき会場にいる全員がユアンに注目する。ユアンはそんな目も気にせず、ザルク公爵の前に立った。
「やあ、ユアン君。どうしたんだい?今は謁見中だよ」
「あなたは誰ですか?初めて見たときと印象が違うんですが」
ザルク公爵は少し戸惑っていた。
「何を言ってるんだい?私はザルク・フォン・ヨハネス・ドレークだよ」
「ああ、言い方が違いましたね。本物のザルク公爵はどこですか?」
ユアンの言葉に会場がざわめく。会場にいるものは皆ザルク公爵本人だと思っていたのに、それを違う人物だと言っているからおかしな話だ。当然その場にいる貴族は信じていなかった。しかしザルク公爵はユアンの言葉を聞いて大笑いを始めた。
「ふふふ....あっははは。よくわかったな。俺が本物のザルク公爵じゃないって」
ザルク公爵だった人物が笑った声はザルク公爵本人の声ではなかった。
「あんたの目だよ。他の人たちは疲れていたり眠そうな目をしてる人がほとんどだけど、あんたの目はまっすぐ俺たちを見てた。それも殺気が少し漏れた目でな」
「それだけでよくわかったな。さすが最年少で賢者になるやつは違うな」
「それとクレア王女殿下がいないってことだな。王女殿下のスキルがあればお前の正体なんてすぐにわかる。だけどこの場にいないってことはお前何かしたんじゃねーのか?」
ユアンが出した推察に陛下とケントは大きく反応した。
「何だと!?本当かユアン!」
「ユアン、それが本当だったらそいつは俺がやる」
ケントの殺気が会場に広がる。怒りでこの場を打ち壊さないで欲しいと思う。
「おいおい、そんなに興奮すんなよ。今回は王女様とザルク公爵はこの城のどこかで眠ってもらっているだけだ。何も殺したりしたわけじゃねーから安心しろよ」
ザルク公爵だった人物はザルク公爵がきていた服や人皮が崩れ落ちた。その姿は魔人だった。皮膚は赤黒く虎のような耳が生えている。魔人の近くにいた貴族は反対側にいた貴族の方に集まっていた。
「さて、俺は帰るわ。いいものも見れたし、面白い奴も見つけられたから満足だわ。お姫様と公爵様のお探し頑張ってねー」
「ここから逃げられると思ってるの?ここには賢者全員がいるんだよ」
レインが口を挟む。会場にいた賢者達はいつでも戦闘ができるように準備ができていた。
「そうだよな。普通だったらここにいて見つかっただけで死刑みたいなもんだよな。けどわかってて乗り込むってことは何かしら策があるってことだよな」
魔人は余裕をこいている。今ならすぐにでも魔人を攻撃できると思った瞬間、魔人は掌を前に出した。ユアンは攻撃が来ると思って後ろにいる貴族達を守るために結界で覆った。
「へぇーそんなこともできるんだな。でもこれは攻撃じゃねーよ」
「じゃあ何なんだよ!」
バーンがイラつきながら魔人との会話に入ってきた。
「落ち着けよ。今俺の体にはあるタイマーがセットしてある。その時間内に俺がこの王都を出ないと爆発する仕組みになっている。そして爆発したら確実に二名が死ぬことになる」
「お、おい。その二名ってもしかして」
ケントは気づいた様子だった。ユアンも魔人の言葉を聞いて確信した。
「そうだよ。爆弾の近くには王女様と公爵様が眠っているんだからな。俺を殺しても爆発するようになってるから殺して俺の体を王都の外に捨てるって言うのも無理だぞ。まぁ大人しく返してもらえるならこの国に被害は起きねーよ。爆弾も俺が王都を出れば消滅する仕組みになっている」
ユアンは陛下を見て指示してもらうことにした。
「陛下、どうします?あいつの言ってることを信じますか?」
「し、仕方がない。直ちに王都から出て行ってくれ」
「言われなくても」
魔人は壁に魔法を撃ち、壁に大きな穴があいた。その穴から飛び出して魔人はユアン達の前から消えた。
「急いでクレアとザルクを探せ!!」
魔人が消えると陛下は、魔人が撃った魔法の音で駆けつけた兵士に命令をした。ユアン達と賢者もそれに加わりほぼ全員の兵士や城に仕えてるメイド達と一緒にクレアとザルク公爵を探した。
一時間後、クレアとザルクは見つかった。クレアは自室の部屋のクローゼットの中で眠らされており、ザルク公爵は物置小屋で眠らされていた。
「陛下、お二人とも命に別状はありません」
宮廷治癒魔導師の一言で陛下は安堵する。ユアン達と賢者は陛下に集まるように別室に呼ばれた。
「さて今回、謁見の会場で起こった出来事で何か気になったものはおらぬか?」
ユアン達と賢者が一番気になったものは『魔人がここまでどうやって気づかれずに来れたのか?』と言う疑問だった。最初に出た答えはとしては『地下通路などで近くまで来て入れ替わった』と言う答えが出た。もう一つは『人間の皮膚のようなものを用意し人間になりすまして入ってきた』と言う意見だった。後者の方が一番可能性が高かった。魔人がザルク公爵から自分の姿を見せるときに、人の皮膚のようなもの脱ぎ捨てていた。
「とりあえずあの皮膚のようなものを調べれば何かわかるんじゃないですか?」
「もうすでに解析中じゃ。結果が分かり次第連絡しよう」
陛下は疲れたのかかなりぐったりとしていた。
「陛下大丈夫ですか?」
レインが陛下の近くに寄った。陛下も「大丈夫じゃ」と言ってダルそうな体を起こして部屋を出て行った。部屋を出る際ユアンに対して「ユアン、お主の行動で誰一人怪我をせずに済んだ。ありがとう」そう言って陛下は部屋を出た。
「陛下が素直にお礼を言うなんて何かの予兆なのか?」
「いや、陛下は娘さんのクレア様が事件に巻き込まれたことで相当心にきたんでしょ。それを何事もなく無事だったんだからきっと疲れたんだよ」
「まぁそうですね。じゃあ俺は少し城の中を歩き回って何かしら起きそうにないかスキルで見ておきますね」
ユアンは部屋を出た。ケントは「一緒に行く」と言っていたがユアンは断った。
「お前はクレア様のところに行け。もしかしたらまた来るとも限らないだろ?お前がいた方がクレア様が起きたときに安心するだろ」
そう言ってユアンは部屋を出た。部屋を出ると「私も行く」と言ってアイもついて来た。
その後、「未来予知」で城の中を見ても異常は無く、この日は終わった。次の日、昨日行われなかった謁見が行われ、昨日いなかったクレアとザルク公爵も出席できた。ユアンとケントは賢者の一員になり、エレクとソイルは引退した。
「これで謁見を終了する!そして新たに加わったユアンの申し出により、ユアンとケントの情報を流すことは禁じる。この場にいるものだけの秘密だ!家族であっても教えることは許さん。話した場合罰を与える」
陛下は約束してくれたことを守ってくれた。ユアンは陛下が約束を守ったので、ユアンもそれに従おうと思った。
次は明日の入学試験だ。賢者達と陛下が賭けをしているがユアン達も誰が当てるかを賭けている。
さて、明日の昼飯は何かな?ユアンは勝つことは決まっており、今の状況で誰が当てるかもうすでにわかっている。ユアンは明日の入学試験がとても楽しみになっている。早くケントとアイが悔しがる顔を見たいと思ったユアンだった。
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