第三十一話 その後
あの騒動から三ヶ月は経った。いまだにユアンは目覚めていない。ユアンは毎日宮廷治癒魔導師が交代で看病をしている。右腕を無くしたエレクは順調に回復していき、賢者の仕事に戻って仕事をしている。
アイとケントは毎日ユアンのお見舞いに来てくれている。その他にもレインやバーンなど顔見知りの賢者たちは時間があるときにはお見舞いに来てくれている。
「早く元気になって戻ってきてよ。また一緒に冒険者の仕事を手伝ってよ...」
アイはユアンの手を握って離さなかった。ケントとアイとユアンは前世で死んだ記憶がある。そのせいもあって今回のユアンの生死に関わることで、またあの記憶が蘇り死の恐怖に襲われたのだった。
「大丈夫だよ。ユアンはそう簡単には死なないから」
アイを励ます様にケントはアイの肩に手を置いた。アイはそれを聞いて「そうだよね」と言い流している涙を拭った。
ユアンはある夢を見ていた。見覚えのある真っ白な空間に一人だけポツンと立っていた。
「あれ?もしかして俺また死んだのか?」
ユアンは自分が生きているのか死んでいるのか分かっていなかった。周りを見渡しても誰もいない。この状況はさすがに死んだのかと思えるほどだった。
その時ユアンの目の前に輝かしい光で覆われている人の姿が見えた。眩しい光で顔は見えなかったが人だということがわかった。
「えっと、あなたは誰ですか?」
ユアンの問いかけに反応はなかった。その人は最初に出会った神ではないということは分かった。
「は.....く....ちか....を......いっ........ぜ」
その人が何かを発していたことは分かったがうまく聞き取れなかった。
次の瞬間自分の立っている場所が魔法陣の様な物が現れた。
「また違う世界に転生させられるのか!?」
ユアンは魔法陣から出ようと試みたが足が動かず何処かへ飛ばされてしまった。飛ばされる際、どこからか聞いたことがない声で「また来いよな」とだけ聞こえた。
目が覚めると自分の部屋ではない場所で寝ていた。部屋には見たことがない人が何人かいた。ユアンが目覚めたことを知ると一人は「すぐに報告してきます」と言いその場から立ち去った。その間宮廷治癒魔導師と名乗る人からは、名前や誕生日など教えてくれと頼まれたり、なぜ怪我をしたのかなど質問された。質問が終わる頃には、廊下をバタバタと走る音が聞こえてきた。音が近づくにつれて「何事だ?」と思った瞬間部屋に誰かが飛び込んできた。目が覚めたばかりで目がぼやけている状態だが、よく見てみると涙で目が腫れているアイだった。
アイの状態を見てなんて言えばいいのか分からなくなってしまったが声をかけないといけない気がした。
「えっと.....久しぶり?」
アイはベッドの上に飛び乗ってきて泣き叫んだ。
「ばか!あんなに無茶して死んじゃうところだったんだよ!」
「それは悪かったよ。でもあれは急に未来が変わったせいでもあって......」
「言い訳しない!!」
「ごめん...」
アイの言葉はまるで子供を叱る母親の様なものだった。今回ばかりは結構無茶したなと思いつつもあの場での最善策はあれ以外は考えつかない。あそこで逃げていたとしても、ツノありの魔人は多分追いかけてきたと思う。そうなればどのみち戦うハメにはなっていたと思う。ユアンはベッドから降りて体を伸ばすために軽いストレッチをした。
「ちょっとユアン!急に動いて平気なの!?」
「少しぐらい動かさないと体がおかしくなりそうだからさ」
ユアンが部屋で軽いストレッチをしているとケントとクレアが部屋に入ってきた。
「目が覚めたって聞いてきたけど思ったより元気そうだな」
「ユアン様目が覚めて本当によかったです。先ほどお父様の耳にもユアン様の目が覚めたことが入った様なのでもうすぐ来ると思います」
すると先ほどと同じ様に廊下を走る音が聞こえた。けど、さっきと違うのは複数の足音が聞こえることだった。
「まさか....」
ユアンの予想はあたり、陛下と一緒にレイン、バーン、アーク、ソイル、エレクが一気に部屋に入ってきた。部屋にいた宮廷治癒魔導師はそのメンツに驚いていた。まさか五歳の子供が目を覚ましたぐらいで、国王陛下と賢者五人が来るとは夢にも思わなかっただろう。
「目が覚めたと聞いて飛んできたぞ!身体のほうはもう良いのか?」
「まぁ寝てただけなんで大丈夫ですよ」
「一時は死ぬか生きるかの境界線を彷徨っていたんだよ!」
陛下の後ろからレインがひょっこりと顔を出した。
「そうなんですか?攻撃を一回食らっただけでダウンするなんて思いませんでしたよ」
ユアンが笑いながらいうとレインはにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ元気になったらまた修行だね〜。それと今回みたいなことが起きない様にしっかりとお勉強をしないとね」
またレインの地獄の修行が決定した。ユアンは力なく「はい...」と答えた。
「まぁ今回はユアン君のおかげで死者は出ることはなかったけど、あまり無茶はしない様に!」
レインの話が終わり一息つこうと思った時エレクが前に出てユアンの前に立った。ユアンはエレクの右手がないことに思わず絶句した。
「エレクさん....それって....」
「はい。あの時魔人にやられた怪我です」
ユアンの未来ではエレクは死ぬ未来も怪我をする未来も見えなかったはずなのに、今のエレクは大怪我をしていた。
ユアンはその場に立っていることができずベッドに腰かけた。
「ユアン大丈夫!?」
アイがそっと寄り添ってくれた。
「気にしないでくださいね。あの時ユアン君が魔人を一人で相手をしてくれたおかげでこれ以上の怪我をすることはなかったんですから。ユアン君あの時はありがとうございました」
エレクは深々とユアンにお辞儀をする。ユアンは自分のせいで怪我をしたにもかかわらずお礼をされ、少し混乱していた。
「あ、頭をあげてください!別に俺は....何もしてないですよ。俺が倒れなければエレクさんが怪我をすることもなかったはずなのにどうしてお礼なんか.....」
「だってユアン君が魔人を相手してなかったら、私は殺されてて白狼の亜種の死体を奪われて、最悪の場合プト村の村人が殺されてたかもしれないんですよ。私の怪我だけで済んだことは大変喜ばしいことですよ」
エレクの怪我を見て自分が責められるかもしれないという恐怖があったはずなのに、責めるどころかお礼を言われてユアンの頬に涙が流れた。
「あれ?どうして」
ユアンは自分の目から流れる涙を不思議に思った。
「ユアンが魔人を倒してくれたおかげで良い実験材料も手に入ったし、重要な情報もな。お前は今回俺らでも難しい任務を達成したことになる。胸を張って誇って良いことだぞ」
畳み掛ける様にバーンの言葉でも涙が溢れる。アークとソイルからは「あまり無茶しない様に」とだけ言われて陛下と賢者五人はユアンの病室を後にした。宮廷治癒魔導師も流れる様に部屋を出て、残ったのは俺たち四人だった。
俺たちは俺が寝ている間のことを話してくれた。自分が三ヶ月間も寝ていたことを知ってとても驚いた。嘘をついてると思ってカレンダーを見てみると本当に三ヶ月間寝ていたことを知った時は気絶しそうだった。
「まさかユアンがこんな大怪我をするとはなぁ〜。アイのあの慌てっぷりはすごかったもんなー」
「ちょっとその話はやめてよ!」
ケントがその話を言おうとするとそれを制しするアイ。それを振り切ってケントが話そうとするとクレアが口を開いた。
「大変でしたよ。ユアン様が緊急手術を受けている時私に抱きついて「ユアンが....ユアンが死んじゃう」ってずっと言っていたものですから途中からユアン様よりアイ様の方が心配になって.....」
「ちょっとクレア様!そのことは言わないって約束でしたよね」
「今のこの話の流れだったらいうべきだと思いまして。それに私のことはクレアと呼び捨てでいいと何度も行った記憶がありますが」
「うっ....だって王女様を呼び捨てって......」
「ケント様はしてくれましたよ」
「だってケントは頭が弱いから.....」
「おい!どういう事だよそれ!」
ケントが勢いよく立ち上がった。その場は笑いに包まれユアンは久しぶりに大声で笑った。
ユアンたちはその後魔道士に必要な知識や経験をつけていき、賢者の修行には本格的にクレアも参加する様になりユアンたち四人は大きく成長していった。
五年後・・・ユアンたちは学園に通える様になり新たな生活が始まろうとしていた。
いつもありがとうございます。今回で一章は完結します。第二章はまだ書き途中ですが近いうちに投稿できるかと思います。皆さんが読んでくれることを楽しみにしています!面白かったらブックマークと評価をお願いします。感想もお待ちしております。