第五十五話 再戦 ケントvsハク
マルタの身体強化付与により、こちらの戦力は少しずつ底上げされていた。だが、それでも数では圧倒的に劣っている。
(ここで俺がハクを抑えないと、戦況がさらにややこしくなる…)
「ケント、あのハクって魔人は任せたぞ」
「わかってる! 今ちょうど戦い方を考えてたところだ!」
ラウレスとハクを前にしながらも、ユアンとケントはいつもの調子で言い合う。
「今度はちゃんと倒せよ? また色んなスキルをコピーされるのは面倒だからな」
「だからわかってるって! お前も負けんなよ! 負けたら殺すからな!」
「はいはい、わかってる。…ってか、あの魔人に勝てなかったら俺にも勝てないってことだぞ」
ユアンが笑いながら挑発すると、ケントも怒りと同時に笑みをこぼした。
「上等だ。あいつを倒して、そのあとユアンも倒す!」
「へぇ…じゃあ楽しみにしてるぞ!」
言葉を交わした次の瞬間、全員が一斉に動き出す。ユアンとラウレスは少し離れた場所へ、ケントとハクはその場でぶつかり合った。
ケントは接近戦で攻撃を仕掛けるが、すべてかわされる。
「見えとるよ、何もかも」
「ああ、そうかよ」
それでもケントは攻撃の手を緩めない。
(こいつの能力は…人に触れればスキルをコピー、魔法に触れれば魔法をコピー、ってところか。なら遠距離から魔法を撃っても意味がない。接近戦で潰すしかねぇ)
「ちょっとめんどくさいなぁ」
ハクは攻撃をかわしたあと距離を取ろうとするが、すぐにケントが間合いを詰めてきた。
「逃がすかよ!!」
攻撃は止まらず、ケントのスピードはさらに上がっていく。
(おかしいな…これだけ動き続けてるのに、スピードが落ちるどころか上がってる。こいつのスキル、戦闘では有利やけど殺傷力が皆無や。魔法が撃てん僕にとっては時間稼ぎしかできん)
ハクは冷静に分析していたが、それでもケントの攻撃を避け続ける。ケント自身もこのままでは埒が明かないと感じていた。
(全部避けられるのはやっぱ腹立つな…どうする。時間だけが過ぎちまう。このままじゃ他に応援にも行けねぇ)
考え込んだ末、ケントは一つの方法を思いつく。その様子を見て、ハクは不気味に笑った。
「顕現せよ──プロメテウス!」
ケントの全身に青い炎が立ち昇る。
「それが噂に聞く神化か。なかなかえげつない魔力を纏ってるな」
「お前を倒すには、これくらいやらないとな」
その瞬間、ハクの視界からケントが消える。背後に熱を感じ、咄嗟に魔力障壁を展開した。直後、背中に強烈な衝撃が走る。
「ぐっ…!」
振り返った時にはすでに姿はない。再び背後に熱を感じ、「透過」で攻撃を回避すると、ハクの体をすり抜けてケントが現れる。
(あかん…神化してからの強化は段違いや。けど、熱を感じた瞬間に透過を発動すれば避けられる。今は耐えるしかない。接近戦が効かないと気づかれた瞬間が勝負や)
ケントはすり抜けたあと、一旦距離を取る。
(最初の一撃だけか…あいつに触れたけど、普通にユアンのスキルを使ってる。ってことは特定の場所を触らなきゃいけない…掌が怪しいな)
魔力を集中させるケントを見て、ハクは楽しげに構える。
「灼熱!!」
青い爆炎が放たれ、ハクは笑みを浮かべてその炎に触れる。次の瞬間、同じ炎がケントの正面から放たれた。ケントは炎で相殺し、正面のハクを睨む。
「君はアホなんか? 僕に魔法を撃てばコピーされるってわかってるやろ。なんで撃ったんや? まだ接近戦の方がマシやったと思うけど」
だがケントは勝ち誇ったように笑った。
「お前さ…魔法はコピーできても、特性まではコピーできないだろ」
「なんやて?」
ケントが指差したハクの手は、黒く焦げていた。
「これのどこがおかしいんや?」
「俺の炎は、炎神の力で青く変色した。そのおかげで温度を自在に操れる」
「それがどうした!」
苛立つハクをよそに、ケントは淡々と続ける。
「青い炎に触れた相手の体内温度を、自由に操れるんだ。例えば──」
ハクの全身が灼熱に包まれる。業火の中に投げ込まれたような苦痛に、思わず声を上げた。
「と、透過…」
「無駄だ。透過は外からの攻撃には有効でも、毒や病気のような内側からの作用には効かない」
さらにケントは温度を下げていく。ハクの体は震え、動きが鈍っていく。やがて体表に亀裂が走り、爪の先から崩れ始めた。
「あ、あ…」
「今、お前の体温はマイナス五十度。まだ意識があるのはさすが魔人だな。ここまで下げたのは初めてだ」
ケントの言葉に、ハクはもはや返す気力もなかった。
「もう十分だろ。お前じゃユアンにはなれない」
ケントは動かなくなったハクに近づき、スキル《豪腕》を放つ。
粉々に砕け散った破片が、戦場に散った。




