第五十四話 マルタの実力
眼前には魔神ラウレスとユアンのスキルをコピーした魔人ハクが立っている。それに加えてヘラはラウレスの中で休んでいる最中だ。
(流石に三人相手はきついな。未来予知で未来が見えているとはいえあいつの能力もよくわかってないし...どうすっかな)
「ユアンさーん!!」
突如ユアンの背後から声が聞こえて振り返ると、エルフの里で出会ったマルタがこっちに向かって走ってきた。
「マルタ!こっちは危ないからくるな!」
ユアンの静止を聞かずにマルタは走ってユアンの隣に到着する。
「ユアンさん、アイさん達は無事です。雷魔法が直撃する寸前シエラ様とアイさんが結界で私たちを守ってくれて」
マルタの報告でユアンは少し安堵する。急いで来たせいでマルタの息はつづかず過呼吸気味になっていた。
「マルタ ゆっくりと息を吸え。本当なら今すぐ逃げろって言いたいところだけど...この状況だとな...」
ユアンの目の前には魔神ラウレスと魔人ハクがいる。マルタの目には二人の膨大な魔力で動けずにいた。
「俺がこいつらを足止めするから、あそこに倒れているケントをアイのところに運んでくれないか?結構な深傷っぽくてまだ気絶してんだよね。だから頼む」
ユアンがマルタに指示を出した時、気絶していたはずのケントが目を覚ました。
「おいユアン...誰がバカだって...」
「お前だよ。ってか起きて大丈夫か?」
「舐めんな。これぐらいの傷ポーション飲めばなんとかなる。ってなんでハクがいんだ?」
「お前が取り逃したからだろーが。おかげであいつに俺のスキルコピーされた」
笑いながら話すユアンにケントの顔から正気が抜ける。
「お前それ笑い事じゃねーぞ!」
「この状況でここまでくると笑うしかねーだろうが!!それに...お前がいるおかげでマルタを自由にさせることができる。マルタ、俺やケント、ジェロンドさん以外の人間にアレをできるか?」
ユアンの問いにマルタは自信満々に「はい!」と答える。
「よし!行ってこい!!」
マルタは急いでその場から離れて身体強化で戦場を駆け巡る。そのスピードは騎士団長と同等と言ってもいいだろう。マルタは高い建物に移動して戦場全体を見渡す。
(まずは...僕の魔力を薄く全体に広げて敵と味方を区別する。ユアンさん達以外の魔力を除外して)
「付与身体強化!」
魔物や魔人と戦っていた賢者、騎士団、宮廷魔導士達全員にマルタの身体強化が付与された。自分たちが戦闘時にしている身体強化にマルタの身体強化が付与されたことで通常の倍動くことができる。だが、それはマルタの魔力が尽きるまでの話。
「向こうはみんなに頑張ってもらってこっちはこっちで頑張るか」
ユアンはハクがいる場所へと一気に詰め寄る。
「まずはお前からな」
「未来予知」でハクがすり抜ける場所を予知して攻撃をするがハクに簡単に避けられてしまう。ユアンは続け様に何度も攻撃を仕掛けるが一向に当たる気配はなかった。
「うっぜーな!!なんだよあのスキル!!」
「自分のスキルにキレんな。ってか俺ら全員毎回お前と同じ気持ちになってるからな」
「いやはや、すっごいスキルやねぇ。この能力があれば敵を倒すんのは簡単そうやねぇ」
ハクの言葉にラウレスが反応する。
「注意しろよ。おそらくユアンはまだ余力を残している。油断してたら足元救われるぞ」
「わかってますって。多分僕の相手はケントやろうし...」
ハクは不気味な笑みをこぼしながらユアン達を捉えていた。




