第三十話 エレクvs魔人
ユアンと魔人が違う場所に移動した。その場はエレクとツノなしの魔人だけになってしまった。
「さて、お前を殺した後にこの結界を破壊して白狼の死体を回収すれば終わりだな。アオのやつがあの小僧に負けるはずがないしな」
どうやらあのツノのある魔人の名前はアオと言うらしい。そんなことよりも早くこの魔人を倒してユアンを助けに行かないといけないエレクは、最速のスピードで魔人に魔法を撃った。
「雷の矢!」
エレクは中級魔法を打ち込んだが魔人には攻撃が当たっていなかった。
「なかなかのスピードだな。このスピード、威力そして魔力量を考えるとただの魔導師ではないな?」
「アウスト王国の賢者ですが、何か問題でもありますか?」
「いや、先ほどの白狼の亜種との戦いを見させてもらったが、あの程度で負けているようではただの魔導師かと思ったが、今の攻撃を見てはっきりした。お前には賢者を名乗る資格はあるらしいな」
「それはお褒めに預かり光栄ですが、お喋りに来たんですか?それなら早く帰ってくれた方が嬉しいのですが」
魔人の挑発に少し乗ってしまうエレクだったが、ペースを乱されないように深呼吸をして落ち着きを取り戻すエレクだった。
「まぁ賢者なら殺してあの方の土産にすれば株も上がるだろう」
「あの方?普通魔人は団体行動をしないんじゃないんですか?」
「喋りに来たのか?と言っておいてお前もそうじゃないか。まぁいい。そうだ普通の魔人は団体行動はしない。普通の魔人ならな」
魔人はになるためには魔物が多くの人や魔物を殺して食べることで進化をして魔人になる。その際魔人になったとしても、魔人の個体は少なく団体行動をする生き物ではないと言われてきた。また、種族が違う魔物同士でも殺し合いがあるため、魔人になったとしてもお互いに行動するとは思えなかった。
「どう言うことですか?」
「我々はある組織で動いている。組織の名前は「カラー」とでも言うべきか」
「まさか...そんなことが....あり得ない」
「あり得ないわけないだろう。今我々は魔物の高個体を生み出す実験をしている。その実験結果がそこの結界の中にいる白狼だ」
エレクは戦慄した。ただでさえ魔物の亜種は賢者が動く仕事なのに、それを人為的に生み出したこと。それがもし魔人となったら今の賢者たちでは太刀打ちができない。
「さて、少々話すのに飽きてきたから、少しは動くか」
「随分と詳しく教えてくれましたね。そちらの情報が漏れることは怖くないんですか?」
「今から死ぬ奴には何話しても問題はない」
「そうですか」
エレクは言葉を言い終わる瞬間、魔人の上から雷が落ちてきた。魔人は直撃し、片膝を地面につけている。
「グッ、これは....」
「上級魔法の雷撃ですよ。私魔法を撃つ速度は誰にも負けたことがないんです」
「なるほどな....これが噂に聞く「最速の魔導師」ってやつか」
エレクは「最速の魔導師」と呼ばれており、魔法を撃つ速度が桁違いに速いことからこの名前で呼ばれることになった。エレクはこの名前を恥ずかしがっており、あまりこの名前で呼ばれることは好きではなかった。
「これでも私を殺すと言えますか?」
「可能だとは思うが、私もただではすまないな」
魔人は魔力を上昇させエレクに向かって風魔法を撃った。
「竜巻」
白狼の亜種とは比べ物にならない威力の風魔法。魔力障壁で防御はしたもののすぐに壊れてしまいエレクは村の結界に激突した。
「ガハッ」
「ほう、この魔法でも結界は壊せないのか。あの小僧たいしたものだな」
エレクはすぐに立ち上がり魔人に向かって雷撃を撃ち放った。魔人は避けることができずに魔法を食らうが、先ほどのインターバルより短く行動できるようになっていた。
「この状態で撃ち合いとは自分で不利な状況を作ってどうするつもりだ?」
「私には奥の手がありますから」
魔人は「ほぅ」とだけ言い同じように撃ち合いを始めた。
エレクは雷撃撃つと見せかけて違う技を発動した。
「精霊召喚!」
エレクが叫ぶとエレクの顔の前から小さな羽の生えた子供が降りてきた。
『久しぶりに呼んでくれてありがと〜何か御用?』
「私と一緒に戦ってほしいです」
『お安い御用だよ〜』
「『精霊化」』
精霊とエレクが叫ぶと、精霊はいなくなり代わりにエレクの服装は黄色いローブに変わっていた。
「ほぅそれが噂に聞く「精霊化」か」
エレクの周りには目で見えるほど魔力が溢れていた。魔力量は先ほどの魔力の十倍以上だった。
「この姿になったからにはあなたには勝ち目はありませんよ」
「さて、それはどうかな?」
エレクは右手を空に上げて詠唱をした。
「精霊よ。私に全ての力を授けたまえ!極大雷撃」
雷撃の比ではない雷が魔人の上から落ちてきた。
「があああああああああああ!!」
魔人は先ほどと同じように地面に片足をつける。威力は先ほどの十倍以上の雷が落ちてきた。
「こ、これで...おしまいか?まだ、わ、私は生きているぞ....」
「いいえ、この魔法は私の魔力が尽きるか、相手が死ぬまで攻撃が続きます。ほら、二回目がきますよ」
直後また魔人の上から極大雷撃が落ちてきた。雷の中で魔人はもがいていたが、三回目の雷が落ちてくると静かになっていた。
「これで絶命してくれると助かりますが.....」
エレクは極大雷撃の魔法を解除し魔人の近くに寄ってみた。魔人はぴくりとも動く気配はなく、すぐにユアンの助けに行こうとした瞬間、自分の右手が焼けるような痛みが走った。自分の右手を見てみると、そこには先ほどまであった右手はなく、血だらけの腕だけだった。
「ああああああああああ!」
襲われたことのない痛みで気絶しそうになったが、どこから攻撃を受けたのかを把握しなければならなかった。魔人を見てみると、確実に弱っているがフラフラの状態で立っていた。エレクはそれを見て、なんとか振り絞った魔力で風の刃を作って油断をしているエレクに撃ったものだと推察できた。
「まだ動けたんですね.....」
エレクは傷口を抑えてこれ以上失血しないように強く握りながら言った。
「さすがにお前を倒す魔力は残っていないがな....一泡吹かせることはできたぞ」
その瞬間、森の中から男が叫ぶ声が聞こえた。叫び声が止んだと思ったら、村を覆っていた結界が解けた。
魔人はすぐに白狼の亜種の死体を持って森の中に逃げていった。
「これだけはもらっていくぞ」
そう言って森の中に消えていった。エレクはすぐに森に入り男の声が聞こえたところまで走った。近くまで行くと、火属性魔法で木が燃えていたりするところを見てユアンが近くにいることだけわかった。
数分探しているとユアンとその近くにツノありの魔人が倒れていた。ツノありの魔人を調べてみると、すでに死んでいた。魔人を持ち帰りたかったが右手のない今、ユアンを抱えるのが精一杯だった。
「ユアン君よく頑張りましたね」
エレクは残っている魔力を「精霊化」に使い全速力で王都まで走って行った。
王都につくとすぐに宮廷治癒魔導師にユアンを預けてエレクは簡単な止血をしてもらい、治療は後にして大至急国王と賢者に集まってもらった。今回の魔人が言っていた魔人の組織があることを話したり、ユアンが単独で魔人を撃破したことを報告した。一同驚いていたが、一番驚いていたのはエレクの変わり様だった。最初は失敗を恐れて弱々しい一面が多く見られていたエレクだったがこの一件でとてもたくましくなったと言えた。話し合いが終わるとエレクはその場で倒れてしまい宮廷治癒魔導師のもとに運ばれることになった。ユアンの容体を聞くためにレインやバーンが宮廷治癒魔導師に話を聞くととても危険な状態らしく今夜を越すことができなければ手を尽くすことできないと言われた。
いつもありがとうございます。あと数話で一章が完結します。次章はまだ考え中ですがよろしくお願いします。
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