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第四十四話 準備

 ユアンが王都に戻って二週間が経った。ユアンは、アイとの時間を過ごしつつもたまに一人で出掛けては帰ってきたりする生活を送っていた。ラウレス達の動きにもまだ動きはなく、平穏な日々が続いていたが突然、アウスト王国にある人物が尋ねてきた。


 「やあ、ユアンはいるかい?」


 その男は城の門番に身分証代わりのギルドカードを提示した。そのギルドカードに書かれていた名前、ランクを見て門番達は急いでその男を中に入れる。

 男は敷地内に入ると、すぐに足を止める。そして、目の前にいる人物を見て笑みをこぼす。



 「よう、この前の話乗りにきたよ」

 「それは頼もしいね...ジェロンドさん」


 お互いの魔力がバチバチとぶつかり合い、ユアンの魔力には雷がバチバチと音を立てているのに対して、ジェロンドの魔力はビュウビュウと風の音を立てながらユアンの魔力とぶつかっている。

 お互い譲ることなく、両者が動き出そうとした瞬間、「ストーーーーーップ!!」と窓から飛び降りてきたアイに止められる。


 「ちょっと何してるんですか!!見てください!周りがメチャクチャです!!」


 周囲を見渡すと、植えられていた花や枯れ葉などのゴミが周りに散らばってメチャクチャになっている。


 「「・・・・・・・」」


 黙り出したユアンとジェロンドに対してアイは笑顔で「何かいうことは?」と内心笑っていない様子で二人を詰めていた。


 「「す、すみませんでした」」


 謝る二人に対してアイは二人に説教を続ける。説教が終わり、城の中へと入ろうとした時、ユアンの名前を呼ぶ声が後方から聞こえる。


 「おい、ユアン。この状況はなんだ」


 そこには、二人の護衛をつけたシーラス王国国王のフィリップ・ヴァン・シーラスが立っていた。


 「遅かったな、フィリップ。迷子にでもなったか?」

 「馬鹿か、時間通りだろ。それよりなんだ...この有様は?」


 フィリップはぐちゃぐちゃになった敷地内を見て若干引いてる。明らかに人を迎えるような状態じゃないからだ。


 「まぁ...それは置いといて中で少し話そう。共有したいこともあるからさ」


 ユアン達は会議室に集まり、話し合いを始める。会議室にはすでにケントとシエラがいて、そこにユアンとジェロンド、フィリップの三人が加わった。フィリップの護衛は会議室前で待機させられていた。


 「さてと...まずは今回の作戦に協力してくれて本当に感謝してる。俺から言いたいのはただ一つ。死にそうになったら自分の命優先してほしい」


 その言葉にシエラ以外の全員が一斉に否定する。思わずユアンも「なんでだよ!」とつっこむ。


 「その作戦にお前も含まれてんだよな?」

 「そもそも、俺たちは命をかけてこの世界をぶっ壊そうとしてる奴らと戦うんだぜ?」

 「そんなことは百も承知だ。今更何を言ってんだ」


 「いや、でも」とユアンは反論しようとするが、シエラの言葉に遮られてしまう。


 「ユアンもう諦めなって。今ここには国の精鋭が集まった世界最強の小隊なんだよ?そんな人たちが死にそうだから逃げるって...そんなことしたら誰も勝てないよね?」


 シエラの言葉に「それはそうだけど...」とユアンは口にするが続けてシエラは話し続ける。


 「そもそも、もしみんなが逃げたとしてユアンはどうするの?また一人で戦うの?そんなこと許す人がここにいると思う?」


 完全に論破されたユアンはなすすべなく膝から崩れ落ちた。

 前回はユアンだけに戦わせたことや、死なせてしまったことをここにいる全員は後悔している。前回はアウスト王国に集中攻撃されていたが、ラウレスが瀕死状態ではなかったらおそらく次の標的はどこかの国になっていたことは間違いなかった。


 「わかった...じゃあさっきは無しで。でも、ラウレスとヘラだけは手を出さないでほしい。そこだけは譲れない」

 「なんでだ?流石にユアンでも二人はきついだろ」


 ジェロンドの問いにユアンは神から教えてもらったことを話す。


 「そもそも、神同士で戦うと決着がつかないんだって。お互い殺すこともできないんらしいんだけど、死神の力なら神同士でも殺すことは可能らしい。だから神化をしている時だったら死にはしないけど、神化が解ければラウレス達は俺たちを殺すことができるってこと。そうなると、俺が戦った方が効率はいい」


 ユアンの話を聞き終えると「わかった」と全員はユアンの作戦を飲んだ。だが、それでもジェロンド達はユアンのことが心配になる。


 「ユアン...それでもキツくなったら頼れよ?」


 ジェロンドの言葉に思わずユアンは笑いを堪えることができなかった。


 「はは、大丈夫だよ。そんなに心配しないでよ。俺は向こうで神様三人と修行してたんだからさ」


 そう言って返すと次にフィリップが嫌味を込めた言葉をユアンに放つ。


 「まぁ、俺としてはお前がまた死んだらアイを俺がもらうがな」


 その言葉にユアンはニヤニヤしながら反論する。


 「へぇー、一度振られたやつがもう一度チャンスあると思ってんの?シーラス王国では国王様に相応しい女性がいなくて残念ですねー」

 「いい度胸だな...ここでお前を倒せば名誉とアイが手に入るのか?」

 「自分の結婚相手ぐらい自分の国で探せよ。そんなんじゃ結婚できないままジジイになるぞ」


 お互い火に油をそそぐ発言を繰り返し、部屋の中はユアンとフィリップの魔力で充満していた。外にいた護衛もフィリップの魔力を感じ取って中に入るが、「外で待っていろ」と殺気の籠った言葉に言われすぐに扉を閉めて外で待機をした。

 部屋の中はケントとジェロンドは笑いながら談笑していてシエラだけが頭を抱えていた。その間にもずっとユアンとフィリップの言い合いは止まらなかったが、またしても会議室の扉が勢いよく開く。二人は扉の方を睨みつけたが、入ってきた人物の顔を見るや否や二人の顔から血の気が引いた。


 「ねぇ...ユアン?あれだけ喧嘩しないでってさっきも言ったよね?なんでジェロンドさんは守れてユアンは守れてないのかな?」


 そこには鬼の形相でユアンの頭を鷲掴みにしているアイだった。


 「いや、これは...」

 「言い訳はなしね。次やったら一ヶ月間私の買い物に全部付き合ってもらうからね?返事は?」

 「は、はい...」


 力ない声で返事をしたユアンはなんとか許してもらいことなきを得た。嵐が去って会議室に残されたメンバーはあんなに怒るアイを見るのは初めてだったに違いなかった。


 「いいか...俺でもアイをコントロールするのは難しいんだ。お前じゃ手に負えねぇよ」


 その言葉を聞いてフィリップも少し納得していた。


 「まさか...あんな一面もあったのは驚きだな」


 その後五人で軽く談笑した後、シエラ以外の四人は外に出る準備を始める。シエラは自分の魔法袋から特製の魔力回復ポーションを全員に十本ずつ渡した。準備ができた四人はゆっくり歩きながら玄関へと向かう。

 外に出て軽く準備体操をしていると、アイが走ってユアン達の後を追いかけてきた。


 「ユアン!」


 声のした方を振り向くと息を切らしながら走ってくるアイの姿があった。その走った勢いでアイはユアンに抱きつくと「ちゃんと帰ってきて!そしたら...またみんなでご飯食べようね!だから...ちゃんと戻ってきて...怪我なら治すから...」


 応援の言葉と同時に心配の言葉もアイの口から溢れでる。


 「大丈夫だよ。それに...この四人で無理だったら誰が行っても無理だから」


 笑いながら言うユアンは、そっとアイを抱きしめて「行ってくる」と呟いた。その言葉にアイも「うん!」と頷いた。

 四人は王都を出ると、ラウレス達のアジトに向けて出発する。全員身体強化だけでものすごいスピードが出ている。


 「おい、ユアン。本当にこの先にラウレス達のアジトあんのか?」


 ケントが思わずユアンに投げかけると「ちゃんと調査したからね」と言って場所は言わなかった。

 三時間ほど走ってその場所に到着した時、三人は絶句する。なんと、その場所は二年前壊滅されたドミノ王国の王都だった。






 


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