第二十三話 フィリップ
「お前は...」
フィリップの驚く顔を見てタイヨウは不敵に笑う。
そして次の瞬間、フィリップの魔力が一気に高まった。
「えっ!?いやなんでなんで!?」
「俺はお前には会ったことがなんでね」
思いもよらぬ出来事にタイヨウは驚きを隠せなかった。
えっ...どうする...ってか一度あっただけじゃ顔って覚えてくれねーのか...一度体制を立て直すか...
一度部屋を出て体勢を立て直そうと、マルタを抱えた瞬間、マルタはタイヨウの服を軽く引っ張り「タイヨウさんフード取り忘れてる」と言った。その言葉にタイヨウは自分が「宵闇のコート」を着ていることを忘れていた。
すぐさまフードを取り、フィリップに声をかける。
「俺だよ俺!ユアン!」
するとそれを見たフィリップの魔力はさらに跳ね上がる。
「とうとうこの国にも出たか!偽物め!」
「いや、マジで違うって!」
そのやりとりを見てマルタはタイヨウから離れてフィリップに近づく。
「タイヨウさんは悪い人じゃないよ。いじめられている僕を助けてくれたから」
その言葉を聞いてフィリップはマルタの顔をじっと見つめる。数十秒経ったぐらいに、フィリップの魔力は収まり近くにあった椅子に腰をかけた。
「とりあえず、その子の言うことを信じるとしよう。それで?何しにきた?てか、なんで生きてんだよ。死んだはずだろ」
「それに関しては色々とあってね。あとで話すよ。今日来たのは次起きる戦いについて」
「それは四大国連合のことか?」
「そうそう。はっきり言ってこのシーラス王国とクエント帝国は正直言って他の国と比べるとどうしても戦力が低い」
タイヨウの言葉にフィリップは言い返すどころか頭を抱えている。
「そうなんだよな...俺の国は資源や土地は他の国よりも圧倒的に優れているのに戦力だけが...」
「よくそれで戦争にならなかったな」
「俺の国は色々な国に輸出しているから、どこか一つの国が喧嘩を売っても他の国がそれを制圧してるんだ」
つまり、戦争することでシーラス王国の輸出が途絶えると、他の国に大きな損害が出ることの方が大きいため、戦争になる前に話し合いで解決すると言うことか。それに、国王自身が神の加護を得たことで余計に喧嘩を売ってくる国は少なくなってきただろうな。
「でも、魔人たちには通じないだろ」
「そうなんだよ...俺も前よりかは強くはなったけど、国民全員を守る力はまだ...」
神の加護を持っていて神化することができれば大きな戦力ではあるが、クローム王国に攻めてきた魔人クラスになると戦力的にはとても厳しい。
「しゃーないな。魔法陣を渡すから俺の結界をこの国に張るか?」
「いいのか!?」
「ああ、でも、緊急の時にしろよ。常に結界を張るのは大量の魔力が必要だからな」
そう言ってタイヨウはエルフの村で渡した魔法陣をフィリップに渡す。
「これが噂に聞く結界か...」
「これを国境付近の各五箇所に魔法陣を描いて、五箇所の中心部にも同じ魔法陣を描いとく。そうすれば遠隔で魔法陣を起動することができるよ」
それを聞いてフィリップはタイヨウに頭を下げる。
「ありがとう!本当に助かった!」
「でも、この結界も気休めでしかないからな。魔人の情報は共有されてるかもしれないけど、ドラゴンの魔人とかきたら壊されると思ってくれよ」
「それは重々承知している。ただ、俺の考えだと強い魔人たちはこっちにくる可能性はないと思う」
その言葉を聞いてタイヨウも少しは考えていた。強い魔人が戦力の低いクエント帝国やシーラス王国で確実に戦力を削ることは可能性としては大きい。だが、戦力の大きいクローム王国やアウスト王国を相手にするとなると魔人側もそれなりの戦力を投入しないと負ける可能性が大きくなる。
「この国もアウスト王国を見習って強い魔道士集めろよ」
「それができれば苦労しねーって!精霊の力を使える魔道士がどれだけ貴重かわかってんのか!」
「うちには五、六人いるけど」
「それが異常なんだよ!」
精霊の力を使えるだけで、他の魔導士とは一線を異なる。簡単に言うと魔力の量が一気に上がり魔法の威力も大幅に上がる。精霊化も習得すれば人間の力を超える力を手に入れることができる。
「仮にだが、ドラゴンの魔人が襲ってきた場合、ユアンお前は倒せるか?」
その問いにタイヨウは即答する。
「うん。多分勝てると思うよ」
タイヨウ(ユアン)の力は他の神の加護を持った人たちよりも異常と言えるほど強い。圧倒的な魔力コントロールに二つのスキルが組み合わさることで無敵と言っていいほどの力を有している。
「お前がこの国にずっといてくれたら楽なんだけどな...」
「それは無理な相談だな。俺には帰る場所があるから」
フィリップの誘いにタイヨウは笑って断った。
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