第二十七話 二度目の戦闘
久しぶりの家の料理は懐かしくとても美味しかった。ユアンたちは家で昼食を終え、次の目的地のプト村に行く準備をしていた。村を出る時は両親や村長が見送りに来てくれた。
「ユアンいつでも帰ってきていいからね。あまり無茶なことはしないでね。エレクさんこんな息子ですがどうぞよろしくお願いします」
「は、はい!責任を持ってお預かりします!」
ユアンたちは別れの言葉をいったすぐにプト村に向かった。向かう途中エレクといろいろなことを話しながら目的地へと向かった。
「ユアン君のご両親は本当にいい人たちでしたね」
「ありがとうございます。家族を褒められるのはなんか嬉しいですけど恥ずかしいです」
「私も家族とあんな風になりたかった....」
「え?エレクさんのご両親は?」
「もういないんだ。私は小さな村で生まれて育った。村は豊かで何も生活に困ることはなかった。あの日が来るまでは」
「あの日?」
エレクは自分の過去を淡々と話し始めた。
「その日は特に何もなく、夕飯の支度を手伝っていると外から悲鳴の声が聞こえてきたの。お母さんが慌ててそとに出て確認しに行ったけど、帰ってきたのはお母さんの死体とそれを持っていた魔人だった。私は怖くて叫ぶこともできずにただ怯えていたの。そいつは私にこういってきたんです」
「ほう。お前は魔力が高いな。今殺すのはもったいないな。もっと成長した時に俺が殺してやる。せいぜい親の仇を打つために頑張ってみろ」
いつもおどおどしているエレクだがこの話をしてる時はいつもとは違う雰囲気だった。殺気が少し漏れていた。
「私はその魔人を倒すために必死に努力して賢者になったんです。そいつを倒すことができるなら死んでもいいと思っています」
「エレクさん....大丈夫ですよ。エレクさんは死んだりしませんよ。俺の「未来予知」でみてもエレクさんが死ぬ未来は...」
「ユアン君どうしたの?私もしかしたら死ぬんですか?」
「いや、死ぬことはないんですが、エレクさんが黒い狼と戦っている未来が見えて」
「黒い狼!?場所はどこですか!?」
エレクはとても驚いていた。ユアンの見た未来では黒い狼がエレクと戦っていたが、黒い狼には見覚えがあった。初めて魔物を倒した白狼にそっくりだったが色が違う。
「場所は見たことないです。けど近くに民家らしき建物が見えました。エレクさん何か知ってるんですか?」
「話は後でお願いします。それよりも今より早くしますが付いて来られますか?」
「はい大丈夫です!」
エレクは先ほどより身体強化に魔力を込めて一気に走り去った。ユアンが本気を出してもその速さには追いつけなかった。
村に着くと魔物に襲われていたり、家が壊されていたりはされていなかった。
「ユアン君この場所で間違いないですか?」
「はい。先ほどの景色と似ているので多分ここで間違い無いです」
「先ほど言っていた黒い狼の正体は白狼で間違い無いですが、その黒い狼の戦闘能力は魔人に匹敵します」
ユアンはそれを聞いて少し納得はできたが疑問が残った。白狼の色は白かったが、未来で見た白狼は色が黒かったのがわからない。
「じゃあ何でその白狼は色が黒いんですか?」
「魔物は周囲の魔力と自然のエネルギーが合わさって魔物が発生します。普通の魔物だったら外見も特に変化はないんですけど、ごく稀に色や形が少し変化した魔物が生まれる時があります。その特殊な魔物たちを亜種と呼んでいます。亜種は生まれたばかりでも高い戦闘能力を持っていて、魔人と同じ戦闘力だと言われています。亜種が発生するとギルドでは対応できないためその場合は賢者が動きます」
「じゃあその亜種がたくさん魔物と人を殺してきたとしたら......」
「その場合はユアン君には王都まで走ってもらって援軍を呼んできてもらいます。私が時間をかけて守りますので」
エレクは唇を噛みしめながら悔しそうな顔をしていた。
ユアンたちは村に入りプト村の村長にこれから起きることを話した。村の人たちには黙っていてもらいユアンたちは魔物の襲撃に備えた。
「じゃあ俺はこの村を結界で覆いますね。村の人たちには被害が出ない様に」
「でもそんなことをしたら魔力が....」
「大丈夫ですよ。あまり減らないですし試したいことがあるので」
ユアンはニヤリと笑って村を覆うほどの結界を出した。エレクは最初に見た結界と変わらない気がしていた。が、その効果はすぐに分かった。ユアンが結界を張った瞬間黒い狼と二十匹ほどの白狼が現れた。ユアンの張った結界の魔力に誘われてやってきた。三匹ほど結界に向かって突撃してきたが、突撃した白狼は燃えて苦しんでいる。
「ユアン君今のは!?」
「結界魔法と火属性魔法を合体させてみたんですよ。今回は結界に触れたら燃える様にしてみたんです」
エレクはバーンとレインが言っていた「天才」という言葉に納得できた。少し前までは魔法を開発していたはずなのに数日で応用までこなしているとはこんな魔導師はみたことがなかった。
「じゃあ俺は群れの方をやるので、エレクさんは亜種の方をお願いします。終わったらそちらに参加しますから」
「わかりました!頼りにしてます」
こうしてユアンの二度目の命がけの戦いが始まった。
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