第十七話 集落襲撃
タイヨウとマルタはセレスによって生成されたエリクサーを持ってドレークの街を出る。タイヨウは正体がバレないように宵闇のコートを着てエルフの集落に向かう。
エルフの集落はここから少し離れているが、マルタの身体強化の練習にはちょうどいい場所だ。
「よし!じゃあここから身体強化で行くからな!」
「はい!わかりました!」
身体強化ができるようになってからマルタの性格は明るくなった。そして、ちゃんと自分の意見を言えるようになった。ずっとあの村で生きる選択をしていたらこの性格にはならなかったと確信する。
「いいか。今回の修行の目的はいかに身体強化を持続させられるか。これが長いほど戦闘する時間が長くなる。そうなると、自分が生きられる時間が増えるってことになるんだ」
マルタは真剣な表情でタイヨウの話を聞いている。実際身体強化が長く続けば続くほど生存率は上がる。勝てない敵と出会ったときは、確率は低いが逃げることもできるし、応援が来るまで防御に徹することだってできる。攻防どちらもできるため、身体強化が重要だということがわかる。
タイヨウとマルタが身体強化をした瞬間、突然タイヨウのなかにある未来が飛び込んできた。その未来を見たタイヨウは背筋を凍らせると同時に「マジか」と呟いた。
「マルタ、身体強化で行くのはまた今度な。ちょっと急ぐぞ」
タイヨウはマルタをおんぶすると、身体強化と雷の魔力を纏わせる。
「行くぞ、エルフの集落に行くまでに絶対喋るなよ。多分舌を噛むことになるから」
そう言ってタイヨウは驚異的なスピードで森の中を駆けていった。
***
タイヨウとマルタが草原で会話をしている時、エルフの集落で異変が起きた。
それは、集落に貼っていた結界が突然消えたことだった。集落に住んでいる人たちは、結界が壊されたことによって怯えている。
すると突然、謎の二人組が集落の中心部に向かって歩いてくる。
「おいおい...昔の人の言い伝えって本当だったんだな」
「ああ、そのそうだな。こんなにもエルフがたくさん見られるとは、私たちだけではなく他の人にも見せないとバチが当たるというものだろう」
その言葉とは裏腹に二人の魔力は大きく膨れ上がる。
「男は殺して問題ない。女子供は傷をつけるなよ。貴族に奴隷として売りつけるぞ」
「わかってるって!それにエルフって魔法の扱いにたけてるんだろ?なら俺は男の方をやるから、お前は女子供を頼む」
小柄で元気な男性は、男のエルフを見るとワクワクした表情を浮かべている。一方、長髪で糸目の男性は、済ました表情でエルフのことを観察している。
「長引いても時間の無駄だからな。あまり時間をかけるなよ」
「本当は楽しみたいけど...しょうがないか...」
すると突然、小柄な男はエルフたちの前から姿を消した。数人のエルフたちが探していると、突然「後ろ!」と声をかけられるが、反応した瞬間に二人のエルフは小柄な男によって胸を引き裂かれていた。
「なんだよーエルフってすげー強いからこれをかわせると思ったのに、ちょっと拍子抜けだなー」
胸を引き裂かれたエルフはまだ息はあるが、それでもすぐに手当てをしないと死んでしまうような傷だった。小柄な男は手足を魔物の手足のように魔力で変質化しており、攻撃している。
「くそっ!舐めるなよ!」
数人のエルフが風魔法を纏った矢で攻撃をする。しかし、その攻撃は小柄な男の頬を掠めただけだった。
「痛ってー!やったなー!」
小柄な男は矢を放ってきたエルフたちに攻撃を仕掛けるが、ギリギリのところで交わされてしまう。
「なんだ!強いエルフいんじゃん!」
「我々エルフは、いかなる時でも人間には屈しなかった!今こそ我々の力を見せる時だ!」
一人のエルフがそう叫ぶと、周りのエルフたちも同調するように「おおー!」と歓声が響いていた。小柄な男と数人のエルフの戦いが始まった。
糸目の男は女子供をターゲットにしていた。糸目の男の周りにはエルフの子供と女性が数人倒れていた。必死に抵抗をしても、糸目の男の実力が高いことで足止めにもならなかった。
「ふむ...無駄な抵抗をするより大人しく降伏してくれた方がこちらとしてもやりやすいのだが...」
糸目の男が言葉を最後まで言おうとした瞬間、突如正面から強力な魔法が飛んできた。糸目の男は間一髪魔力障壁を出したおかげで無事だったが、少しでも遅かったら戦闘不能になっていた。
「我々に手を出して生きて帰れると思っているのか」
糸目の男の正面に現れたのは、痩せ細ったエルマだった。エルマはこの集落のなかで最も優れた魔道士だったが、魔力欠乏症という病気にかかっていて日に日に魔力が少なくなっていく病気だ。
「なるほど、貴様を殺さない限り女子供を攫うことができないと...」
「ふざけるのも大概にしろよ人間。どうして貴様らは我らのことを奴隷として扱うんだ!」
怒りのこもったエルマの言葉に糸目の男は嘲笑うかのように答える。
「ふっ。当然だろ。エルフは人間ではない。ただ、言葉を話す猛獣となんら変わらない」
その言葉を聞いた瞬間、エルマはキレた。エルマは先ほどと同様の魔法を糸目の男に向けてうとうとした瞬間、エルマの口から血が勢いよく流れ出る。
「ゴフッ」
くそっ!こんな時に...
エルマは魔力欠乏症の症状で突然吐血してしまった。それを見て糸目の男は軽い魔力弾をエルマに向かって放つ。エルマは防御することができず、直撃する。
「がはっ!」
「がっかりだ。少しは骨のあるエルフがいたと思ったらこれか」
糸目の男がエルマにトドメを刺そうと、自分の腰に携帯している剣を引き抜き、エルマに突き刺そうとした瞬間、一瞬にも満たない速度が糸目の男の剣を弾いた。
「な、なに...?」
「あぶねー間に合ってよかった」
エルマの前には、先日村を訪れていたタイヨウとその背中でぐったりとしているマルタの姿があった。
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※無事卒論提出できました!




