第七話 勇者パーティ
ユアンの体をラウレスが乗っ取った事件から数日後、ラグレス達三人は初代賢者シエラの下を訪ねていた。
「どうした?三人揃って...何か用か?」
すると、ラグレスが口を開く。
「シエラさん...すみません!俺たちには賢者として戦うのは難しいです!」
ラグレスの言葉と同時に三人はシエラに頭を下げる。
「理由を聞いてもいい?」
「はい...俺たちはユアンさんが生き返った時、周囲に被害が出ないように避難を呼びかけていましたが、実際にケントさん達が戦っている姿を見たら...自分たちはまだその域に達していないと思いまして...」
その言葉を聞いてシエラは軽く頷いた。
元々シエラは、ラグレス達を賢者として迎え入れるのは反対だった。だが、修行をつけていくことで段々と力をつけていくことに喜びも感じていた。だが、それでも賢者として迎え入れることは今でも反対している。その答えに自分たちで辿り着いただけでもこの修行期間は無駄ではなかった。
「そうか...じゃあこの報告は陛下には私からしておくから、あなた達は推薦してくれたケントやアイちゃんに話でもしてきなさい」
「はい...わかりました」
三人は再び頭を下げて部屋を出て行こうとする。すると、シエラから質問が飛んできた。
「あなた達これからどうするの?」
その答えにリキトが答える。
「俺たちはこれから色々なところを回って冒険者として行こうと思っています。初代勇者パーティみたいに世界中を回ってみようと思ってます」
その言葉を聞いた瞬間、シエラの顔に少しだけ笑みが溢れた。
シエラの頭には四百年前、勇者パーティーとして活動していた時期を思い出す。勇者としてみんなから憧れのまとになっていたラウレス、力が強く攻撃と防御に特化していたグレイ、そして魔法だけに特化していた私...三人で旅をしていた時は退屈しないでとても面白かった。色んな街に行って、色んなものを食べて、魔王軍の強敵と戦って...三人で夢について語り合ったりもした。あの頃は本当に楽しかった...そう断言できる。だから、この子達にも同じように旅をすること自体反対はしない。自分たちで決めたことだから...
「そう...ならちゃんと準備していきなさい。食料は必ず多めに持っていくこと!これは勇者パーティとして一緒に旅をしていた先輩からのアドバイス」
そういうと、三人は笑顔で「はい!」と答えて部屋を出ていった。
「気をつけていってきなさいね...」
部屋に一人になったシエラはポツリと呟いた。
***
そして、現在に戻る。
「ユアン...さん?」
「えっ?」
ユアンはいきなり名前を呼ばれたことで思わず反応してしまう。だが、その声はラグレス達には届いていなかった。
「おい、ユアンさんが生きてるわけないだろ!生きてたとしてもここにいる意味がわからないだろ!」
「そうよ!ユアンさんが生きてたら真っ先にアイさんのところに行くはずでしょ!これで行ってなかったら人としてダメよ!」
ラグレスの言葉にリキトとエルクが否定をするが、その否定した言葉にユアンは心にダメージを受けていた。
ごめん...生きてるんだけど、事情があるんだ...
マルタの方を見てみると、食事を少し中断し、疑いの眼差しでユアンを見ていた。
「タイヨウさんって...死んでたの?」
いや、その質問はダメだ!
急いで大きな声を出して話題を逸らそうとしたが、すでに遅かった。その言葉を聞いたラグレス、リキト、エルクはマルタの周りに集まっていた。
「ねぇ...お嬢ちゃん、今なんて言った?」
「ん?」
マルタは少し危ないとわかったのか、「わからない」と答えた。そうなると、自然と目の前に座っているフードの人物に目が行く。
「どうして、建物の中でもフードをかぶっているんですか?」
唐突にエルクが質問をぶつけてくる。
やばい...この魔道具は姿の認識をずらすことはできるが、声を変えることはできない。
フードの中からちらっとマルタにアイコンタクトを送るが、マルタは食事で気づいてはくれなかった。
ユアンはできる限り、声を変えてエルクの質問に答える。
「か、顔に、火傷があるからです」
低い声を出したつもりが、思ったよりも低い声が出てしまったため、思いっきり咳き込んだ。
ユアンは危険だと判断し、金をテーブルの上に置いてマルタを引っ張って連れ出した。
「た、タイヨウさん?」
「マルタ!ごめんな、飯食ってる時に。また後でなんか買ってやるからちょっと我慢しててくれ!」
そう言って急いで冒険者ギルドから離れるが、後ろからラグレス達の尾行が始まっていた。ユアンは頭の中で色々と考えていた。
このまま逃げてもいいけど、結局この街にいるとなると嫌でも冒険者ギルドに顔を合わせなくちゃならない...そうなると、このまま...
ユアンはある決断をし、路地裏へと入っていく。その様子を見てラグレス達は注意をしながらゆっくりとユアンが入っていた路地裏へと入っていく。慎重に進んでいるにも関わらず、前から人の気配はしない。随分と奥まできたはずなのに全く人の気配がなかった。ラグレス達三人は、そこでハメられたと確信した。すると、三人の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お前ら...いや、違うか。とりあえず...成長したな、お前ら」
背後にいたのは、死んだはずのユアンが立っていた。
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