第六話 思わぬ出会い
酔っ払った冒険者を返り討ちして、昼飯にありつこうとしたユアン達だったが、窓口の女性に呼び止められる。
「ちょ、ちょっと待ってください!た、タイヨウさん!少しだけお時間ください!」
そう言われて通されたのは、応接室。中へ通されると、小さなテーブルが部屋の中央にあり、その対面に長椅子が用意されていた。
「と、とりあえず、座って待っててください!今すぐギルド長を呼んできますから!」
そう言われてユアンとマルタは椅子に腰掛けギルド長がくるのを待つ。待っている間マルタはユアンの袖を軽く引っ張り話しかけてきた。
「タイヨウさんってなんであんなに強いの?」
何気ない質問にユアンは自分の強さについて話し始めた。
「俺だって最初は弱かった...のかな?周りから見たら強い方だったと思うけど、今みたいにみんなを守れるほどの力はなかったよ」
「え...?じゃなんで...?」
「好きな子がいたってのもあるけど、大事な幼馴染がいたからさ...もう二度と危険な目にあって欲しくなかったんだよ。それで死に物狂いで強くなって...それで...まぁ今に至るって感じかな?」
ユアンは前世での起きた出来事そして一度死んで生き返ったことは伏せて話をした。
「マルタも強くなるよ。これからね。」
そう言ってユアンはマルタの頭にポンと手を置く。
すると、ドタドタと足音がこっちの部屋に段々と近づいていく。勢いよく扉が開くとそこには先程の窓口の女性と髭ズラで髪がボサボサのギルド長らしい男が入ってきた。
「お前か?登録した初日でブラッドベアーを持ってきて、挙句に酔っ払った冒険者を返り討ちにしたってのは」
ギルド長はユアンに対して睨みつけるが、ユアンはそれを物ともしない姿勢で返事を返す。
「俺だよ。何か問題でもある?」
その返答を聞いたギルド長は高笑いを上げながら対面の椅子へと座った。
「いやーすまんすまん。こいつから話を聞いた時は嘘じゃねーかって心配したけど、お前さんを一目見て本当だってことはわかったよ。俺はここのギルド長をしてるガラットだ!よろしくな!昔はAランクのソロ冒険者だったけど二、三年前に引退して、今こうしてギルドの仕事をしてるってわけだ!」
「要件が済んだんならもう解放してくれない?こっちは昼飯がまだなんだけど」
そういうとギルド長は慌てた様子でユアンを静止する。
「まぁ待ってくれ。一つお前さんに頼みがある」
「頼み?」
「あぁ...最近この領にコカトリスって魔物が出現してるんだ。少しずつ被害が出始めていてその中には子供が数人体の一部が石化している状態なんだ」
コカトリス...体は鶏のようだが、尻尾が蛇の凶暴な魔物。爪には猛毒があり、尻尾の蛇に噛まれると石化してしまう恐ろしい魔物だ。ギルドはその凶暴さからAランクの魔物として認定した。
「それで...俺に倒してこいと?」
「あぁ...ブラッドベアーを倒せたんだ。造作もないだろ?」
確かにコカトリスなら一瞬で終わる。なんだったら魔物自体苦戦することなく簡単に倒すことはユアンにとっては朝飯前とも言える。
「そんなに買い被られてもねぇ...」
「いやいや、実際お前さんAランク冒険者以上の実力あるでしょ?ブラッドベアーの死体見たけど、頭を撃ち抜いて外傷なしに討伐する冒険者なんて賢者とかじゃないと無理だって」
賢者と聞いてユアンは内心ビクッとする。今になって思えば、素材を高く買い取ってもらうためだけに外傷をなしで倒したことに少し反省する。
「それにお前さん...あってからもずっとフード被りっぱなしだな。何か秘密でもあんのか?」
その問いにユアンは反応する。
「それは個人のプライバシーだろ。あんたに教える義理はない」
「そりゃそうだ!俺は別にあんたが何者かなんてどうだっていいしな。それで...受けてくれんのか?」
「...わかった。その代わりこっちの要件が終わったらな」
ユアンの提案にガラットは「それでいい」と頷いた。そして、マルタの腹の音が鳴ったことにより今日は解散となった。部屋を出た後、マルタは恥ずかしそうにしながら食堂へと向かった。
ユアンとマルタが食堂の席につくとすぐにウエイトレスが注文を聞きにきた。
「えーっと、飲み物はジュース二つとありったけの肉を」
「はい!かしこまりました!」
元気よく返事をしてウエイトレスは厨房の方へと入っていた。注文を待つこと十五分、ウエイトレスはジュース二つと大量の肉を持って現れた。
「はーい!こちらジュースとブラッドベアーのステーキです!何故か知らないですけど、ギルド長からブラッドベアーを使えって言われたんで使ったんですけど、何かあったんですか?」
「いや、特にないよ」
店員は「そうですか」と少し残念そうな表情をしながら仕事へと戻っていった。マルタを見ると目を輝かせながらステーキを見ている。
「タイヨウさん...これ食べていいんですか?」
「あぁ...思いっきり食べろ!」
二人は「いただきます」と言って大量のステーキにかぶりついた。溢れる肉汁、噛んだ瞬間から肉が解けていく食感がたまらなかった。血抜きの工程を忘れていたため、生臭いと思っていたがそんなことはなかった。むしろ噛むたびに旨みが溢れ出てくる。
「タイヨウさん...美味しいです!」
「どんどん食べろよ!」
「はい!」
ユアンは食べる時もフードをかぶっていた。それなのにどうして振り返ってしまったのか...
「...あれ?ユアン...さん?」
「...え?」
そこにいたのは、冒険者姿をしたエルク、リキト、ラグレスの三人だった。
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