第二十五話 開発?
ギルドの事件から一週間ほど経った。ユアンはまだ雷属性の魔法を覚えていない。ユアンは覚えていない期間を使って新しい魔法を生み出しているところだった。
「やっぱ上手くいかないな....」
自室でこもりながら魔法を開発するユアン。独り言を言いながらも進めていく。
ユアンが開発している魔法は「結界」だ。この世界には防御魔法といったら魔力障壁しかない。この魔法だけだと強い魔法には耐えられない可能性がある。魔力を沢山込めて強くすることは可能だが、それをできるのは賢者か、数人の魔導師しかいない。「結界」があれば敵を一定の時間閉じ込めておく事も出来るし、仲間をサポートすることも可能になる。ただ、欠点としては、魔力がうまく行き渡らないことだ。四つの魔力障壁を立方体の形に組み合わせるという方法をやっているが、組めることは出来るが、魔力が均一には行かずどれか一枚の障壁が薄くなってしまう。
「あぁ、また失敗か....」
かれこれ十時間以上は失敗している。あれだけバーンの魔法は一日で習得できたのに一つの魔法を作るのにこんなに時間がかかるとは思いもしなかった。
「しょうがない。相談してみるか」
ユアンは十時間ぶりに部屋を出てレインのいそうな場所を探した。レインを探している途中でセバスに会ったのでレインの場所を聞いてみると今は会議中だと教えてくれた。一応会議場所を教えてもらい、その場所に行ってみると中からとてつもない魔力を持つ人たちが集まっていることに気づいた。
「もしかして会議って賢者たちのことか......さすがに場違いだから帰るか」
そう思い帰ろうとしたその時、会議室の扉が勢いよく開いた。
「あれ〜ユアン君の魔力の反応がしたんだけど.....あっいた!」
扉を開けたのはレインだった。レインはユアンを見つけた瞬間部屋の中へと引きずり込んだ。
中に入ってみると大きなテーブルに七人の人たちが座っていた。その中にはバーンやアークなど顔見知りの賢者がいた。
「あの....これって....やっぱり」
「そう賢者たちの会議だよ」
錚々たるメンツが揃っていて自分が場違いだってことに気づく。賢者全員がユアンに注目する。バーンなどは笑いながら手を振ってくれているが他の人たちは目つきが怖い。
「あの...じゃあなんで俺をここに?」
「ユアン君、私に用があって来たんじゃないの?」
「そうですけど、こんなところで話す内容じゃないです」
この人たちに自分の開発している魔法を知られたら笑い者にされるかもしれない。しかもこの状況で話していい内容じゃないと思う。
「いいから、いいからこの人たちは無視していいから」
「「「「「「おい」」」」」」
賢者たちは一斉にレインに突っ込んだ。それを見て少し空気が和らいだ。
「えっと結界魔法っていうのを作ってるんですけど.....」
レインに魔法の内容や悩んでいるところを全て話した。話し終わってレインに改善策を聞こうとすると、一人のおじいさんが話しかけて来た。
「実際その魔法をやってみてくれんかの?なに失敗してもいいから。わしはその失敗部分を見てみたいだけじゃから」
そう言われてユアンは結界魔法をやってみたがうまくいかなかった。
「なるほどのぉ。お主結界を作る時一気に形を作っとるんじゃな。まだ魔力制御が完璧とは言えないから、障壁を一枚ずつ作って組み合わせた方がいいんじゃないかのぉ?それか詠唱を入れることじゃな」
「詠唱ですか?」
「そうじゃ。詠唱は魔法を打つときにとても重要なんじゃ。詠唱には魔力の流れを一定に保ってくれる。魔法を打つことに慣れたものは詠唱なしで魔法を打つことは可能だが、初めての場合は詠唱をするのが当たり前じゃ。お前たちは詠唱なしで魔法を撃っていると聞くがそれは多少の魔力制御と強いイメージがあって成り立っていると言える。魔法を作る場合は詠唱を入れてみるのが基本じゃ」
「あの、詠唱ってどんなことを言えばいいんですか?」
「そんなもん適当じゃよ。自分で作る魔法ならなおさらじゃな。自分の言いやすい詠唱にすればいいんじゃ」
ユアンはおじいさんに言われたことを試したくなってすぐに部屋を出ようとした。出ようとしたユアンをレインは止めた。
「ユアン君試したい気持ちはわかるけど、私たちの会議に参加して意見を聞かせてくれない?」
「え?」
そう言われてユアンはレインに席を用意してもらいそこに座った。
先ほどまで普通に話していたユアンだが、いざ話し合いに参加するとなるととても緊張する。
「さて、話は終わったようだから続きをしよう」
アークが進行を進める。
「先ほど話していた魔物が多くなっている話だが、単刀直入に言おう。近い将来スタンピートが発生する可能性が高い」
アークの言葉で空気が重くなる。初めて聞くスタンピートという言葉にあまり危機感を感じないユアン。
「あのスタンピートって?」
「スタンピートっていうのは大量の魔物が近くの村や王都に襲撃してくることだ。二、三年の間で起こることなんだが、去年一回起こっているから数年はないはずだが」
バーンが詳しく教えてくれた。
「近くの村にも被害が出るんだけど、実際どこから発生するか分からないから事前の動きができなくて」
「俺の「未来予知」のスキル使えばどこが襲われるかわかるかもしれないですね」
ユアンの発言に驚く賢者たち。
「ユアン君そんなことできるの?」
「まだ期間とかはわからないですが一応見てあるかないかぐらいは確認できるかと。でもあまり期待をしないでください。自分でも扱い切れていないので」
「いや、十分じゃよ。大したもんじゃな」
「そういうことなら早いほうがいいよな」
「そうね遅くても一週間前には出発しないとね。付き添いは賢者一人でいいかしら?」
レインとバーンたちはどんどんと話が進んでいく。
「そうだ。ユアン君まだ雷魔法は覚えてないからエレクに任せるのはどう?」
「わ、私ですか?私にはこんな大きい仕事は無理です」
弱々しい声で答える女性はエレクというそうだ。話を聞く限り雷属性を使う賢者のようだ。
「大丈夫。ユアン君しっかりしてるし、近くの村だったら身体強化をして走ればすぐに終わるからさ。そのついでに魔法を教えればいいだけだからさ」
なんという適当な依頼内容だと思った。間違ったことを言ってはいないが本当に適当だと思った。
「うぅ〜わかりました。けど任務失敗になっても怒らないでくださいね」
そう言ってエレクとユアンの任務は決定したのであった。
「ほっほっほ。初めての任務頑張るんじゃぞ」
「おじいさんもありがとうございました」
おじいさんにお礼を言うと「まだ教えてなかったな」と言った。
「わしは土魔法を使う賢者のソイル・アフじゃ。みんなからはソイ爺と呼ばれておるからお主も気兼ねなく呼んでくれな」
「わかりました!ソイ爺ありがとうございました」
そういってユアンは部屋に戻り結界の続きを行った。
「まさかユアン君の初任務が決まるとはね。大丈夫かな?」
レインがボソリと呟く。それを聞いていたソイルは「大丈夫じゃよ。あの子なら。わしたちが使う魔力障壁よりも強い防御魔法を作ろうとしているんじゃからな。それに一緒に行くのはあのエレクじゃ。最速の魔導師と呼ばれるほどの強者じゃから安心して良いじゃろう」
ソイルの言葉で少し落ち着きを取り戻したレインだった。
一方ユアンは........
「この魔力を使い我が盾となる物を作りだせ!」
ユアンの手には掌サイズの結界ができていた。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!成功だ!」
十時間以上の戦いの末ようやく完成した結界魔法。あとはこれを自由に大きさを変えたりすることができれば完璧だ。ユアンは嬉しさで忘れているだろうが、エレクとの任務でレインが言っていた「身体強化で走っていけば」の意味を思い出すのは出発当日での出来事。
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