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第二十二話 魔女vsユアン

 「まったく...賢者が四人もいて倒せないとは...」


 呆れた様子のユニバはアイの方をジロッとみる。


 「ほれ、早くこいつを回復してやれ」


 そう言って担いでいたケントをアイの方へと放り投げた。

 あの一瞬、ユアンが鎌を振り上げた瞬間、ユニバはおそらく時を止める魔法を使ってケントを助けてくれたのだろう。


 「待って!私も戦う!」

 「ダメじゃ!お主はそこにいる賢者達を全快にさせることが仕事じゃ!それに...あやつの相手はワシらがする」


 ユニバはユアンを睨みつけると、それに反応してユアンが口を開いた。


 「久しぶりだな!時の魔女!元気にしてたか!」


 それはまるでユアンの口調そっくりで話しかけたため、一瞬ユニバでも動揺するが、すぐにいつものユニバに戻った。


 「黙れ小僧...とっととそれから出ていけ!」

 「なんだよーせっかくの再会だろ...ユアンの口調に似せたのに...悲しいなー」


 ラウレスの発言は火に油を注ぐ発言で、後ろで聞いていたアイは怒りを抑えるので必死だった。


 「ユニバ、ラミファ、私が突っ込むから援護はお願いね」


 そう言って一番最初に仕掛けたのは暴虐の魔女クレーナだった。

 クレーナは高く跳躍すると光のような粒子をユアンめがけて魔法を放った。


 「こんなもの...」


 ユアンは魔力障壁でその攻撃を防ぐ。だが、光の粒子が魔力障壁に当たった瞬間、大爆発が起きる。

 その威力はケントが普通に魔法を放った威力と同じぐらいだった。

 そして追い討ちを見せるかのように、ユアンの上空に大きな影ができる。


 「さぁーてこれはどうするかなー」


 アイは上空を見るとそこには巨大な岩が出現していた。そのまま地面へと落下すれば周りにいる人たちはひとたまりもない。気を失っているケントやバーンさん達を担いで逃げるのは一人では無理だった。

 だがそんな考えも杞憂で終わった。一瞬にして自分のいた場所から遠くの方へと移動していたのだ。


 「これって...」

 「いちいち驚くな!お主らはここで待っておれ!」


 そう言って目の前からユニバが姿を消す。アイの周りには気を失っているバーンやレインの姿もあった。

 数秒後大きな爆音と地響きがアイ達を襲う。前方を確認すると、ラミファが出した大岩がユアンに直撃する。


 「どう?やった?」

 「やるわけないでしょ!気を抜いたら速攻で殺されるわよ」


 クレーナの言葉にラミファは怒り気味で答える。相手は元アウスト王国最強と言われたユアンだ。体はラウレスが乗っ取っているが、能力はそのままだ。ラミファの言う通り、大岩の上にはユアンの姿が確認できた。


 「やっぱりこれじゃあやられてくれないよねー」

 「今更思うわ...あんた...なんであんな奴の研究なんか手伝ったのよ...」

 「仕方ないでしょ!「洗脳」で覚えてないんだから!」


 魔女二人の言い争いは言葉が鳴り止むことがなかった。それを見ているユアンも会話に入るのに躊躇しているみたいだった。


 「何してるんじゃ!!」


 突然のゲンコツに二人の魔女は頭を抱えた。


 「いったー!何すんのよ!」

 「ユニバ、もうちょっと手加減してもう一回殴って」

 「お主ら緊張感なさすぎじゃ!あと、ラミファお主は黙っとれ」


 三人は大岩の上に乗っているユアンを見上げる。


 「こやつらの攻撃で少しは答えたようじゃな」

 「あぁ...魔女という認識を改める必要があるな。直接戦ってよくわかった。でも...特にやばいのはお前だよ...時の魔女」

 「それは褒めてるととっていいのじゃな?」

 「あぁ...神でも時間に干渉できるのは一人だけ...ヘラやセレスの父親クロノスだけだ。人間が扱える能力じゃねーんだよ」

 「それはそれは...何よりじゃな!」


 ユアンは見下ろしていたはずのユニバの姿を一瞬で見失う。そして、次の瞬間後頭部に強い衝撃と共に地面へと叩きつけられた。


 「ぐっ......」

 「なんじゃ...やはりユアンの身体だけあって頑丈じゃな」


 ユアンが立ちあがろうとしても見えない攻撃によって防ぐことはできない。

 ユニバの使う時の魔術は、この世界で動いているものを三秒間だけ時を止めることができる能力。つまり、この世界では時の魔女の攻撃を避けることは不可能だということになる。

 だがそれでも、ユアンはなんとかスキルを組み合わせることによってユニバの攻撃を交わすことができた。


 「ほぅ...「未来予知」と「透過」か...それがあれば交わすことはできるようじゃが...ワシに攻撃は当たらんぞ!」


 次々と攻撃が来る中、ユアンは避けることで精一杯だった。それでも、死神の力で振り払おうとしても時を止められて仕舞えば、たとえ死神の力でもユニバに攻撃が当たることはなかった。


 「くそっ!」


 攻撃が当たらずユアンはイラつき始めていた。


 「私たちのことも忘れちゃダメよ」


 次の瞬間、クレーナが放つ光の粒子に触れ大爆発が起こる。土煙が舞う一方でその周りを大量の剣が一瞬で現れる。

 ラミファが指をパチンと鳴らすと、土煙の中心にいるユアンに向かって一斉に飛んでいった。金切音があたりに響くが土煙のせいで中の様子が見れなかった。


 「どうじゃ?少しはうまくいったかの」

 「今までで一番手応えがあったねー」

 「これで倒れてくれたら楽なんだけどねぇー」


 クレーナが最後の言葉を言い終わった瞬間、ユアンのいた場所から黒い炎が出現する。

 段々と土煙が薄れていき、ユアンのシルエットが浮かび上がってくる。ユアンの右肩には、ラミファが作り出した剣が刺さっており、体はクレーナの爆弾で上半身の服が弾け飛び、皮膚は火傷を負っていた。


 「なるほどな...死神の力でも時の魔女の攻撃は回避できないか...」


 ぶつぶつとユアンは何かを呟いているが、それよりも魔女達はユアンから出ている黒い炎に視線が集まった。


 「ねぇユニバ...あれはちょっとやばくない?」

 「あぁ...ちょっとまずい状況じゃの...」

 「多分私の爆弾でも時間を稼ぐことしかできないわよ...」


 クレーナの能力は、自身の魔力を込めた光の粒子を相手にぶつけることで爆発が起こる。自身の魔力を火薬として、相手の魔力を信管というイメージを持ってクレーナはこの魔術を生み出した。ただ、相手に魔力がなかった場合は、爆発せず、当たった場所にクレーナの魔力が残るだけだ。

 クレーナはユアンに再度光の粒子を当てようとするが、黒い炎がそれを邪魔する。光の粒子が黒い炎に触れた瞬間大爆発が起こるが、ユアンの周りは無害と言っていいほどダメージはなかった。


 「あちゃーあれは無理よ...」

 「クレーナの魔術でもダメか...」

 「あれって確か黒炎よね?確か...ガルベリオスって魔王が使ってた魔法だったと思うけど...」


 黒炎は触れたものを灰にすると言われている。実際魔女達もその力を生で見たことがあった。ユニバ達三人は数百年前に魔王城に潜入し、全魔王のことを観察していた。そして、運よく魔王が部下を殺す時に見せた黒煙が魔女達三人を震撼させた。黒炎に少しでも触れたものは、悲鳴をあげながら少しずつ灰になっていき、そのまま死亡した。

 それを思い出した魔女達は額から汗が滲み出てくる。


 「まったく...面倒なことばかりしおって...」


 先ほどまで余裕を見せていたユニバだったが、焦りが表情に現れていた。

 

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