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第十九話 信じられない出来事

 「ユ、ユアン?」


 ドレーク領の方から大きい魔力を感じ取った際にアイはユアンの名前を呟いた。


 「そんなわけねーだろ!だってユアンは......」


 アイの呟いた言葉にバーンがすぐに反論する。

 全員その魔力を感じた時にユアンの魔力に似ていることはわかっていたが、アイ以外の賢者全員はそれを心の中で否定していた。


 「どうするケント君?」


 レインはケントに視線を移すとケントもわからないといった表情で首を横に振った。


 「とりあえず、陛下に相談してみないかい?これほど大きな魔力だ...魔人だった場合対処するのは僕たちだ」

 「でもこの魔力はーーー」


 アークの言葉を遮るようにしてアイは言葉を最後まで言おうとした瞬間、「アイ!!!」とケントの大きな声で会議室には静寂が流れた。


 「ユアンは死んだんだ...俺たちの目の前で...」

 「でも...」

 「あの夢の中でわかっただろ...もう...ユアンに会うのはあれが最後だったんだよ」


 ケントの言葉にアイの目から涙が溢れる。


 「アークさんの意見を取り入れましょ。ここで話すよりも陛下の指示で現地にいた方が対処はしやすいです」


 賢者達はゾロゾロと会議室を出ていった。アイはその後ろをゆっくりとついていき陛下のいる執務室へと向かう。

 城の廊下を賢者全員で歩くのは良くも悪くも注目が集まる。しかし、今回に限っては賢者達に異様な雰囲気があったため、すれ違った使用人達は何かあったのかと察していた。


 アークが執務室のドアを三回ノックする。陛下の返事にアークがドアを開ける。執務室にゾロゾロと賢者全員が入ってきたことによって陛下は驚きが隠せなかった。


 「な、なんかあったのか!?」

 「実は...」


 アークは先ほど会議室で起きた出来事を陛下に伝えた。周りの賢者の表情は暗く、一番表情が暗かったのはアイとケントだった。アークの話を聞いた陛下はすぐに賢者達に指示を出した。


 「なるほどな...それではアイ、ケント、バーン、レインは巨大な魔力が現れた場所に直行してくれ。シエラ殿とアークは王都で警備についてくれ。他の宮廷魔導士や騎士団にもすぐに警備についてもらえるようにすぐに指示を出そう」

 

 陛下の言葉を聞き終わると、シエラが手をあげた。


 「陛下、ちょっといいか?」

 「シエラ殿、何かご不満ですか?」

 「いや、ケント達のところにラグレス達三人を追加して欲しいと思って」

 「それは構わないが...」


 すると、それを聞いたバーンが反対した。


 「それはちょっと危なすぎるんじゃないか?まだ賢者でもないし...」

 「毎日私の訓練で前よりも格段にレベルが上がってるよ。それに、もし魔人だったらいい経験になると思わない?」


 もし、魔人だったらケントとアイがメインで戦うことになる。そうでないと、精霊化を使う賢者達では荷が重すぎる相手だということがわかる。


 「もう、あの三人で賢者一人分の戦力はあるよ。私が保証するよ」


 シエラがここまでいうのは珍しかった。最初はあの三人を賢者として扱うのは反対していたシエラだったが、あのシエラがここまで推薦するのであれば連れて行くしかなかった。


 「はぁ...しょうがないから連れて行くか」

 「うん...シエラ様がここまで押すのは初めてだもんね。アイちゃん達もそれでいい?」

 「「はい」」


 シエラはラグレス達を呼びに部屋を出た。ドレーク領に向かうケント達は一旦解散して三十分後に王都の門の前に集合することになった。ドレーク領に現れた魔力は一向に動く気配はなかった。


 「ねぇ...ケント...もし、ユアンだったらケントはどうする?」

 「あり得ない話だけど...敵だった場合は倒すしかないだろ...それが俺たちにできる唯一の仕事だろ」


 ケントの表情はとても悲しい表情をしていた。親友を自分の手で殺すというのはなんとも後味が悪すぎる。


 「そう...だよね...」

 「だけど、魔人だった場合は全員で協力してだ。この魔力はちょっときついしな」


 ドレーク領に現れた魔力量は大体ユアンと同等。それが魔人だった場合は、おそらく亜種の魔人だと推測される。


 「とりあえず準備して集合場所に行くぞ」

 「...うん」


 ケントとアイは一度自分の部屋へと戻って自分の準備をした。

 ケントはすぐに部屋に戻ると、自分のベッドへと倒れ込んだ。そして、会議室で言ったアイの言葉を思い出す。


 (でも...この魔力はーーー)


 わかってるよ...わかってるに決まってんだろ!俺らがどれだけユアンと一緒にいたと思ってんだよ!


 心でわかっていても口ではそれを否定した自分のやるせない気持ちでいっぱいだった。

 アイの言う通りこの魔力はユアンに違いない。だけどなんで...俺らに連絡がないんだ。いつもなら夢で教えてくれるのに...

 だが、ユアンとはあの夢での模擬戦以降会えていなかった。それはアイも同じで、俺たちはあれが最後だと思っている。色々と悩んでいると集合時間が迫っていたため、黒いローブを身に纏い集合場所へと向かった。


 「おっせーぞ!ケント!」

 「ごめんごめん、ちょっと時間がかかっちゃって」


 集合場所にはすでに全員が集まっており、その中にはラグレス達三人の姿もあった。


 「さて、これからドレーク領に向かうわけだが、大体ここから身体強化で三時間ってところか」

 「そうだね、現地に着いたらまずはその魔力の正体を突き止めること。そして様子を見ながらケント君とアイちゃんが攻撃を仕掛ける。それで大丈夫?」

 「はい...」


 レインの作戦内容にアイは力無い声で返事をする。


 「ラグレス、リキト、エルク!ここからが賢者の仕事だ!気合い入れてけよ!」

 「「「はい!!!」」」


 アイの返事とは対照的にラグレス達の声は元気でいっぱいだった。


 「それじゃあ行くぞ!」


 先陣を切ってバーンが進んでいく。その後ろにレイン、ケント、アイ、ラグレス達といった順で進んでいく。

 一時間が経過してもバーンはスピードを緩めることなく走っている。ケントは時々後ろを確認する。ラグレスとリキトは平気そうな顔をしているが、エルクは少し辛そうな表情をしていた。いつもなら少し休憩を入れるところだが、状況が状況なため、今は休憩する時間はなかった。


 「アイ、先に前いってもらえるか?少しエルクが辛そうだから後ろでサポートするわ」

 「うん、わかった」


 そう言ってケントは最後尾まで行き、エルクの後ろまで移動した。


 「ラグレス、リキトちょっと先に行け」

 「はい!わかりました!」


 ケントの言葉を聞いたラグレスとリキトは前へと詰めていった。


 「辛そうだな、エルク」

 「は、はい...ちょっと辛いです...」

 「悪いけど今回はちょっと休憩できそうにないから頑張れよ」

 「は、はい!頑張ります!シエラ様の特訓と比べればこれぐらい...」


 一体どんな修行をしたんだと気になることも多いが、それよりも今は全体のスピードを落としたくなかった。


 「今から俺が後ろから風魔法でエルクをアシストするからドレーク領まで頑張れ」


 ケントは目の前にいるエルクに向かって風玉(ウインドボール)で風を送る。

 すると、少し辛そうだったエルクは先ほどよりも楽に走っていた。


 「ケントさん!これすごい楽です!」

 「よし!じゃあこのまま頑張れよ!」

 「はい!」


 そうして三時間走って目的地へと辿り着いた。ケント達はドレーク領に入る前に魔力を極限まで下げて、相手に気づかれないようにして近づいていく。

 レインはドレーク領に入ると少し戸惑いを隠せなかったのか、周りを見渡している。


 「レインさん大丈夫ですか?」

 

 レインを心配したのか、アイがレインに話しかけた。


 「大丈夫だよ...ちょっと思い出しただけだから...」

 「もしかしてエレクさんのことですか?」

 「うん...ここで亡くなったってのは聞いてたからさ...」


 レインの顔は少し寂しそうな表情でドレーク領を見つめていた。

 すると、遠くの方にうっすらとドレーク領の草原に座っている人影が見えた。その人影を見た瞬間、アイはその人影の方へと全力で走り出していた。

 

 誰かがアイの名前を呼ぶ声が聞こえる...だけどそれ以上にあの人影に吸い込まれて行くかのように足が止まらなかった。そして、ようやく止まった瞬間、アイはその人影を見て思考が停止した。


 「よう、アイ」


 そこには、二年前死んだはずのユアンが座っていた。

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