第二十二話 修行の成果
ガルムと剣術の修行を始めてから三ヶ月が過ぎた。ガルムは朝毎日ユアンの部屋に来ては、兵士と同じ訓練をやらせたあと、追加で素振りを一万回やらせた。一番キツかったのは食事まで兵士と同じ量を食べさせられたことだ。五歳の体で平均年齢二十から三十歳の兵士と同じ量の食事を取ることは拷問に等しかった。
今日は修行の成果を見せるためにガルムと戦うことになっている。三ヶ月前の体術での戦い以来だ。今日の朝はガルムが迎えに来ることはなく、手軽に朝食を済ませて第二訓練場に行った。訓練場には兵士が朝早くから訓練をしておりその風景を眺めていた。
「ユアン様ではないですか。今日も我々と一緒に訓練しますか?」
ユアンを見つけた兵士が話しかけてきた。
「今日はいいですよ。軽く素振りをして調子を整えようかなと思っています」
「そうですね。それに今日は団長と戦う日ですもんね」
この前は剣を使っていないでの戦闘だったため実質初めて戦うに等しい。だけど今日勝てばこの厳しかった修行も終わりになると思っている。「未来予知」で兵士を見て勝敗を見ることもできるがやめておく。この勝負は勝敗をわかっていてはつまらないからである。
「おっ!もう来てんのか?なんだやる気満々だな、おい」
「ガルムさん。おはようございます。そう言うガルムさんも早いですけどね」
「なんたって俺が三ヶ月間しっかりと鍛えてやったんだ。その成果を見ることは師匠としては楽しみなんだよ!」
まぁ大半は兵士と同じ環境だったから個人で教えてもらうことは多くはなかった。それでも他の兵士の人から色々教えてもらっていい勉強になったからそれはそれで良かったと思っている。
「さぁ準備ができてるようだから始めるとするか!楽しい、楽しい戦いを!」
「お手柔らかにお願いしますよ」
ガルムがそう言うと兵士たちはこの前と同じように場所を作ってくれた。その周りには当然大勢の兵士が見ている。ユアンを応援する声もあるが、団長であるガルムを応援する人もいる。その中で戦うことは結構緊張をする。
「さて、今回のルールは何も無しだ!全てありの全力勝負だ」
「剣だけではないんですか?」
「この三ヶ月お前を見ていたけど、いざ戦争となったら卑怯もクソもないからな。模擬戦はなんでもありにしようと考えたんだよ。殺すつもりでかかって来い!俺もお前を敵だと思って倒しに行く!」
ガルムの言葉を聞いて安心した。あまり自分には興味を持っていないんじゃないかと思っていたが、ちゃんと考えてくれていたこと。今日この戦闘で今までの成果を本気でぶつけることができる最初の人。自分もどこかワクワクしているのがわかる。
「じゃあ今回の審判も私でいいよね?」
急に現れたレインに対して訓練場にいた全ての人たちが驚いた。
「レイン!お前来るなら来るって初めから言えよ!驚いたじゃねーか!」
「あはは。ごめんごめん。みんなの驚く顔が見たかったのもあるけど、ユアン君がどれだけ成長したのか見てみたくて」
レインはユアンの頭にポンと手を置いた。
「じゃあ、両者準備できているみたいだから始めるね。初め!」
お互い剣に魔力を込めて身体強化をする。ガルムとユアンは一斉に斬り合う。カァンと剣がぶつかる音が訓練場に響き渡る。何度も何度も剣がぶつかり合う。
「少しは上達したじゃねーか。ここまで成長するとは思わなかったぞ」
「まだ、本気を出したわけじゃないですよ!」
ユアンがガルムの剣を弾き返した。弾き返されたガルムが体勢を立てる間に、ユアンの手には五つの火の玉が浮かんでいた。
「火玉!」
火玉がガルムを襲うが、ガルムは魔法を叩き切った。
「初級にしてはいい威力じゃねーか。でも俺を倒すにはこれくらいじゃ.....」
ガルムはユアンと戦っていたはずなのに目の前にユアンの姿は見当たらなかった。後ろから首に冷たいものが当たって誰かがいるのはわかった。
「お喋りに夢中で隙だらけでしたよ。チェックメイトです。」
後ろを振り返るとガルムの首筋にはユアンの持っている剣が触れておりユアンはニッコリとしてガルムを見ていた。
「お前いつから....」
「ガルムさんが魔法を切った時に少し体制が崩れたのがわかったんっでその隙をついて最速で後ろに回っただけです」
訓練場にいた全員は唖然としていた。騎士団団長が五歳の子供に敗れたことに誰も理解が追いつかなかった。その空気を変えたのがレインだった。
「ユアン君おめでとう!よく三ヶ月でここまでできるようになったね。まさか団長のガルムを倒すとは思わなかったけど」
「皆さんのおかげですよ。周りにいる兵士の皆さんに色々教えてくれたり、レインさんにも身体強化の使い方や「透過」と「未来予知」など訓練してもらえたおかげですよ。
周りにいる兵士たちは「いい子だ」「教えて良かった」など色々な声が聞こえた。レインなんて少し涙目で抱きついてきた。抱きついてきたレインを「透過」ですり抜けるとレインは怒っていた。ガルムがユアンの近くに寄ってきた。
「まさか、三ヶ月で抜かされるとはな.....よくやったよお前は!この俺に勝ったんだ!十分誇っていいぞ」
ユアンの頭をゴシゴシと強く撫でる。「痛い、痛い」と言うユアンに対し「わはは」と笑っている。
「さて、俺に勝ったんだからもう剣を教えることはないな。たまには一緒に訓練しようぜ。いつでも歓迎するからよ」
「ありがとうございます。食事以外だったら参加するようにしますよ」
ユアンの本音が漏れるとまたガルムに同じように頭を強くゴシゴシと撫でられた。
「さて、ユアン君。君は明日から自分の属性魔法を覚えてもらうよ。ユアン君だけ全然覚えてないからさ」
「いや、最初にレインさんがスキルを修業するって言ったんでしょ!俺が覚えないみたいな言い方はやめてください!」
「だってユアン君が剣術ならいたいって言ったから時間を作ったんじゃん」
「今、とは言ってないですよ!それで、今ケントたちは何をしてるんですか?」
剣の修行をしてから三ヶ月間あいつらとは話していない。話そうとしても疲れて話す元気はないし、朝は連れ出されるし相手の状況が全くわかっていなかった。するとレインから衝撃的な言葉を聞いた。
「あの子たちなら、冒険者ギルドで冒険者をしてるけど?」
「は?」
ユアンの思考は一気に低下した。
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