第三十五話 心配事
ユアンとの戦いの後、ケントはすぐに目を覚ました。窓からは日差しが入り込んでおり、時間は朝の八時を過ぎていた。
なんだ...この気持ち...
ケントは最後に見たユアンを思い出すと何か引っかかったような気持ちになった。
気のせいだとは思いたいが、それでも自分の心は正直だった。
「朝飯でも行くか...」
ケントはすぐに着替えて食堂へと向かう。朝八時を過ぎていたことから、食堂もケント一人だけで周りには数人しかいなかった。朝いつも食事をとる食堂は二種類あり、貴族用と一般用の食堂で別れている。クレア達と朝食事をするときは、貴族用の食堂に行くが、普段食べている場所は一般用の食堂だ。一般用の方が、作法や人を気にせず気軽に食べることができる。今回ケントが食べている場所も一般用だ。
「いただきます」
ケントは用意された食事をゆっくりと食べすすめていく。ちょうど半分食べ終わったと同時に、一般の食堂にアイが入ってきた。
アイはすぐにケントを見つけると、ケントの前の席に座った。
「おはよう。昨日は満足した?」
「ああ...でも、勝てると思ったんだけどなぁ...」
「それはないよ。でもケントも結構いい線いってたよ」
「何様だよ」
アイの発言に思わず笑ってしまうが、その後の会話があまり進まなかった。
二人とも昨日のユアンについて会話には出さなかった。
「...何も食わねーのか?」
「うん...ちょっと食欲なくて...」
話しかけてもすぐに会話が終わる。
ケントは残りの半分を口に詰め込んですぐに食堂を出た。
「アイ...ちょっと話がある」
「...うん」
アイも何かを察したようで、何も言わずにケントの後を追った。
「さて...ここなら誰にも邪魔されずに話ができるな」
ケントは自分の部屋にアイを招き、ドアの鍵を閉めた。
すると、アイは鋭い目つきでケントを睨み付ける。
「な、なんだよ...」
「まさか...私に変なことする気じゃ...」
「なんでだよ!?何でお前とそんな雰囲気にならなきゃいけないんだ!」
「だってケントが自分の部屋の鍵を閉めるから!」
「邪魔されたくなかっただけだっつーの!ってか!お前に何かしたら次は俺に黒雷が落ちてくるだろうが!」
この会話のせいでユアンの話をするのが少し難しくなった。だが、それは杞憂に終わり、数分もすれば先ほどと同じ空気に戻った。
「ねぇ...ケントは昨日のユアンのことで何か思わなかった?」
やはり、アイが元気なかったのは昨日のユアンが原因だった。
「戦ってるときは何も思わなかったけど、最後、俺たちに言った言葉と手を振るユアンを見て俺も何か違和感があった」
「やっぱり...ケントもそこが気になったんだ」
「お前もか?」
アイは静かに頷く。
アイは何か言おうとするが、すぐにそれをやめてしまった。
「どうした?思い当たる節でもあったのか?」
アイは静かに首を横に振った。
先ほど言おうとした言葉が自分の口から出るのがとても怖かった。
「アイの何か言いたいって気持ちは俺にもわかる。でも...これを言うと本当のことかもしれないって思うとな...」
「やっぱり...ケントも同じこと思ったんだね...」
「ああ...」
そしてまた、沈黙の時間が流れた。
「ねぇ...もう二度とユアンと会えないってことはない...よね?」
アイの言葉を聞いてケントも自分と同じ考えだったことがわかった。
「当たり前だろ!俺はただ、俺たちの本当の力を見たくてやっただけだろ!」
「でも...最後のあの言葉...どう見てももう会えないってことを遠回しに言っているようなもんじゃん!」
アイの目から数滴の涙がこぼれる。
「大丈夫だって!どうせ一月後とかにまた会えるって!」
「本当に...?」
「ああ!今度あったら言ってやろうぜ!紛らわしい言い方すんなって!」
そう言ってアイとの話し合いは終わったが、部屋に一人残ったケントはどうしてもさっきほどのアイの言葉を思い出してしまう。
「もう二度と会えない...か」
あの時は、勢いのまま否定してしまったが、心の中ではもう会えないと割り切っている自分がいた。
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