第三十四話 ユアンvsケント
「あれ...ここは...?」
一日を終えたケントはベッドに入った途端、再び真っ白な空間へと招かれた。
「よう、ケント。昨日ぶりだな」
「ユアン!?」
声のした方を振り返ると、そこには昨日ぶりのユアンが立っていた。
「なんだよ!また何かめんどくさいよ頼み事か?」
「いや...なーんか俺と戦いたいらしいから呼んだけど...嫌ならいーや」
「待て待て待て待て!その話はマジか!?」
「大マジ。昨日はアイと戦ったからお前とも戦わないと不公平だろ?」
それを聞くとケントは声を出しながら喜んでいた。まるで旅行に行く前の子供のように。
「それじゃあ、すぐにでも...」
「ちょっと待て!」
すぐに始めようとしたところを、驚くことにケントがそれを止めた。
「どうした?何か不満か?」
「いや...どうせならここにアイも呼べるか?」
「ん?呼べないこともないけど...」
呼ぶことはできるが、今アイは自身の夢を見ている最中だ。その夢の中に入りこちらの世界に連れてくるのは少々難しい。
「だったら呼んでくれ。明日この話をしたらあいつの機嫌がどうなるか想像できるだろ」
「あー...」
機嫌が悪い時のアイはとてつもなくめんどくさい。それはこの二人が一番わかっていた。
「じゃあすぐに呼んでくるから待っててくれ」
「早く来いよ」
そう言ってユアンは十分ほどその場を離れ、頬に手痕がついた状態でアイを連れて帰ってきた。
「ど、どうしたんだよ...」
「えーっと...」
ユアンが口を開こうとした瞬間、アイがそれを全力で止める。
「もういいから!お願いだから喋らないで!」
その言葉を聞いていったい何を見たんだ...と気になってしまう。
「アイは危ないから結界で自分の身を守ってくれ」
「うん!頑張ってねユアン!」
「えっ?俺は?」
「負けちゃえ」
「ひでー」
ユアンとケントが正面に立つと、アイは自身で結界を張り準備は整った。
「ルールは死ななきゃOK。とりあえず全力でこいよ」
「ああ...望むところだ!!」
「それじゃあ...二人とも準備はいい?」
「「ああ!!」」
「よーい始め!!」
アイの掛け声と同時に両者は魔力を高めあった。
「いくぜ!!」
ケントは身体強化で一気にユアンに近づき殴りかかった。
ユアンは魔力障壁を三枚出してケントの攻撃を防ぐつもりだったが、ケントは魔力障壁をガラスを破るかのように一気に壊していった。
「ちっ!ガラスみたいに破りやがって!」
ユアンはケントの拳に込められている同等の魔力で防御するが、後方に吹っ飛ばされた。
「おいおい、忘れんなよ!俺のスキル!」
「ああ...確か「豪腕」だったな」
くそっ...やっぱアイの時と一緒とはいかないか...
防御した箇所は少しズキズキと痛むが、動かすのになんの支障もなかった。
「今度はこっちの番な」
ユアンも身体強化をしてケントに近づき、ものすごいスピードでケントの腹部に蹴りを入れる。
「ゔっ!!」
ケントもユアンと同様に後方へと吹っ飛んだ。
「俺の速さ舐めんなよ」
「くそ...痛ってーな!おい」
ケントが立ち上がった瞬間、ユアンは追撃をし、ケントに一切攻撃をさせなかった。
ユアンの激しい攻撃でケントは防御すら愚か、何発も喰らうことが何回もあった。
「ほらほらどうした?」
「くそっ...!」
ケントは反撃をするが、簡単にユアンに避けられる。
「次は右、その次も右、フェイントを入れて左」
「くそっ...くそっ...」
ケントの攻撃はまるで知っているかのように簡単に避けられてしまう。
あのケントがユアンに手も足も出ていないのは初めて見る。
「そんな大ぶりだとガラ空きだぞ!」
再びユアンはケントの腹部に蹴りを入れると、ケントはその場に倒れ込んだ。
「はぁはぁ...くそ!」
「さすがだな。俺がここまで体を動かしたのはいつぶりだろうな」
ユアンはまだ余裕の表情を浮かべている。対してケントはすでに肩で大きく呼吸をしている。
「しょうがないか...」
その場で倒れ込んでいるケントはある一言呟いた瞬間魔力が跳ね上がった。
「神化」
その魔力は比にならないと言っていいほどの魔力がその場に溢れ出る。
「おっおい!そこまでやるとは...!」
「本気のお前と戦わないと意味ないだろ!」
そう言ってケントは不気味な笑顔をしながらユアンを見る。
ユアンは頼みの綱として、どうせ見ているであろう神たちに声をかける。
「おい!どうせ見てんだろ!早くケントを止めろ!ここがとんでもないことになるぞ!」
だが、帰ってきた答えは驚くほどひどい返答だった。
『いいよー!この空間は私たちが補強もしてるから好きに戦っていいよ!炎神も久しぶりに魔力が解放できたらしくて喜んでるから』
頼みの綱は消えてしまった...もうこれはお遊びとは言えないものになっている。
「さあ...行くぜ!!」
ケントの周りには青い炎を纏っており、肌がジリジリと焼けるようで痛い。
ケントはその場から動かずに、遠くにいるユアンをその場で殴った。しかし、到底届く距離ではない。ユアンは防御をせずに攻撃に備えていると、正面から途轍もない熱量と衝撃波がユアンを襲った。
衝撃には耐えられたものの、ユアンの肌は少し焼け焦げていた。
「な、なんだ...」
するとケントはニヤリと笑う。
「今、俺の炎に触れたろ」
突如、ユアンの焼け焦げた場所から青い炎が出現した。
「な、なんだ...!くっ...!」
ユアンは熱さにもがき苦しみながら、ケントを睨みつける。
「俺の神化の能力は、俺の炎に一度でも触れた相手を自由自在に温度を変化させることが可能なんだ。例えば...」
すると、ユアンから出ていた青い炎は突如消え、途端にユアンはガタガタと震え出した。
「マジでなんだよ...」
「言っただろ。温度を自由自在に変化させられるって。暑くすることもできるし寒くすることだってできるさ」
厄介な能力を身につけたもんだな...このまま体温が下がれば凍傷になり最悪の場合壊死することもある。一度でも触れたとなれば、大勢が相手でも簡単に倒すことができるな。
ケントの力の前にユアンは思わず笑みをこぼした。
「何笑ってんだよ。そんなにおかしいか?」
「いや...嬉しいんだよ。こんなすごい力をつけてたとはね...」
ユアンはある力を使ってケントの魔法の支配下から抜け出した。
火傷はあるものの、もう温度を変えられたりすることはなかった。
「はっ...?今何した?」
「教えるわけねーだろ」
それを見たケントは再びユアンに青い炎に触れさせるために魔法を解き放った。
「灼熱熱拳!!」
ケントの拳が青い炎を纏ってユアンに飛んでいく。
ユアンは動かずに攻撃が来るまでその場で立っていた。
攻撃がユアンに当たる直前、ユアンの前に魔法陣が出現した。その魔法陣から現れたのはいつも使っている魔力障壁と同じだった。
だが、その瞬間、ケントの攻撃が魔力障壁に当たった瞬間、ケントの攻撃は自分の方へと跳ね返っていった。
「何ぃ!」
ケントはすぐに魔力障壁で防御するが、自分の攻撃の威力が強かったのか相殺しきれずに少しダメージを受けていた。
「さて...この勝負俺の勝ちってことでいいよな」
ケントは不服そうだったが、渋々頷いた様子を見せた。
結界を解いたアイはケントに近寄り、「だから言ったでしょ!ユアンには勝てないって!」とニヤニヤしながらケントに言葉をかけた。
「うるせえな!くそっ...!もうちょっとのところだったのに!」
「まぁ...これでよくわかったよ。俺がいなくてもお前らは十分強いってことが。だから安心して任せられる」
ユアンの言葉を最後にケントたちの足元が光り輝きだす。
ユアンは笑顔で手を振った瞬間、ケントとアイは目を覚ました。あのユアンの言葉と最後の手を振った姿を見て二人は思った。
もう二度と...ユアンに会うことはできないんだろうか...
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