第三十二話 稽古
「そういえば、ユアンってここで何してるの?」
「んーそうだなー、セレスたちと一緒にみんなのこと見たりとか、体動かすために雷神と組み手やったりとか」
「ねぇ...それってどこまで見えてるの?」
「見ようと思えばプライベートのことなんかは...」
すると、アイは顔を真っ赤にしながらユアンの胸ぐらを掴む。
「ぜっっっったい見ないで!!見たら私が何するかわからないわよ!」
「いや、見ないって!ってか、そもそも見られたくないことすんな!」
「トイレやお風呂のことを言ってんの!それ以外に何があるのよ!」
その考えはユアンの頭から抜けていて、咄嗟にやましいことを考えていた自分が恥ずかしくなる。
「あっ...いや、ごめん」
「何よ...その反応...まさか!?いやらしい事考えてたわけじゃ...」
「違うって!別にいやらしいことを考えてたわけじゃなくて...」
「じゃあ何を考えてたの?」
「うっ...それは...」
アイの返答にユアンは上手く言葉を返すことができずにいた。その様子を見てアイはケラケラと笑っていた。
「あははは!ユアンのそんな反応初めてみたよ。私は別にユアンが少しエッチなことを考えても嫌いにならないよ」
「...悪かったな...」
「やっぱり考えてたんだ」
アイはニヤニヤしながらユアンの顔を覗き込む。
少し不貞腐れたユアンを宥めるかのように、アイはユアンを慰める。
「ごめんね、ユアン。久しぶりに会えたからちょっと意地悪しちゃった」
「別にいいよ、今度またアイに会った時今回のお返しするから」
「それはそれでちょっと楽しみだなぁ...」
「なんでだよ!」
少し会わないうちに性格が少し変わったのか...それともポジティブな考え方になったのかはわからないが、少しだけ昔のままでいてくれたらよかったと思うユアンだった。
「まだ朝まで時間があるな...」
「それならゆっくり話でもしようよ」
「それもいいけど、ちょっとアイの力がどれだけ成長したのか見せてよ」
そう言ってユアンは立ち上がると、アイと距離を取ると魔力を上昇させた。
「えっ!?本気!?」
「当たり前だろ。手加減したって実力わからないだろ」
少し嫌な顔をしているアイにユアンはある提案をした。
「じゃあ、俺が満足したら今度会った時、一回だけ言うこと聞いてやる」
「本当!?じゃあ頑張る!」
お互いの魔力が上昇しぶつかり合う。魔力量だけでいえばアイの方がユアンよりも多い。
「負けても言い訳しないでよね!」
「そんなつまんないことしねーよ」
次の瞬間、身体強化をしたアイが正面から向かってくる。ユアンはアイの攻撃を受け流すが、ユアンが生きていた頃よりも攻撃が鋭くなっている。
「どお?私の身体強化は!」
重い一撃がユアンの腹部にヒットする。ユアンは腹部を抑えながらアイを見る。
あれーアイってこんなに強かったか...修行しているのは知っていたけど、ここまで身体強化を使いこなせてるのは知らなかったぞ。てか、フィリップの時も全然本気じゃなかったってことか...
痛みと嬉しさで少し複雑な気持ちだが、確実にアイが成長していることは確かだった。
「それじゃあ次は俺からいくぞ」
ユアンは身体強化と雷魔法を体に纏わせ、アイに攻撃を仕掛ける。
身体強化よりも早いユアンの攻撃をアイは捌き切ることができずに、何発か喰らってしまった。
「いたた...もう少し手加減してよ」
「それじゃあ意味ないだろ。前のお前だったらこれで終わってたし」
そう言ってユアンは、アイを指差すと、ユアンの指先から雷の光線が出てきた。アイは咄嗟に魔力障壁で防ぐが、そのスピードは驚くべき速さだった。
「驚いた?この魔法光の速度に近い速さなんだ。流石に光には敵わないけど、初見の相手ならこれで倒せる」
「じゃあ、初見でも防げた私はすごいってことだよね」
そう言ってアイは再び魔力を上昇させると、アイの背後に巨大な槍が出現する。
「裁きの槍!」
巨大な槍がユアンに襲いかかる。アイの魔法「裁きの槍」は巨大な魔法陣から何十本の槍が相手に襲う魔法だが、今回の魔法はその数十本を一本にまとめたものだ。数は減るが、威力は増大する。
魔力障壁だけじゃ貫通するし、結界でもおそらく防ぐ事はできない。
裁きの槍の速さは先ほどのユアンの魔法と同等、避けるにも少し苦労するはず...その隙をついて...
ユアンに直撃する瞬間、直撃したはずの魔法がなぜか自分に返ってきた。
咄嗟のことで体が動けなくなり、体が硬直する。思わず目を閉じるが、特に何も起こらなかった。槍が自分を貫通した痛みもない...ゆっくりと目を開けると、そこには裁きの槍を持ったユアンが立っていた。
「ユ、ユアン!?」
「お前なぁ...自分が防げない魔法なんか打つなよ」
「だ、だって...」
「まったく...俺じゃなかったら大怪我してんぞ」
とは言っても、裁きの槍を持っているユアンの手から数滴の血が流れ落ちる。
「ユアン!怪我してる!」
「これくらい平気だよ。それよりも...強くなったな」
ユアンはアイの頭に軽く手をポンと置いた。
「ねぇ...どうして私の魔法が跳ね返ったの?」
「ん?理由はこれだよ」
そう言うとユアンの手には拳サイズの結界があった。
「これは?」
「反転結界だよ。通常だと魔法陣を書かなきゃいけないけど、小さいサイズだったら書かなくても出せるようになったんだ」
「もしかしてそれで...?」
「そうだよ。槍の先がこの結界に触れた瞬間、逆の方向へと移動するから」
それを聞いたアイはその場に座り込んだ。
「どのみち勝てなかったわけだぁ〜」
「それでもアイの成長が感じられたけどね」
少し残念そうにしているアイだが、お別れの時間が来たようだった。
アイの足元が白く輝き出した。
「時間だな。アイ!今日は楽しかったよ。また今度な」
ユアンの言葉を聞いた瞬間、アイは自室で目を覚ました。
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