第二十四話 緊急報告
一瞬で黒い穴に吸い込まれたエルクは、真っ黒な空間の中でどこに移動しているのかわからなかった。入った瞬間から、途轍もない力で押しつぶされているような圧力が感じる。身体強化で体を強化していなかったらすぐにぺちゃんこになっていた。
目を開けると、見慣れていない部屋の中にいた。先ほどまでの圧力は感じられない。
「もしかしてここは......」
急いで外に出て気がついた。エルクがいた部屋は王城の一室だった。
「私...本当に移動したんだ...」
驚きのあまり思わず口に出たが、今はそれどころではない。
エルクの体は、移動の代償で傷だらけだった。それでも今の状況を他の賢者達に知らせないとシエラが危険だった。
エルクは城中を走り回って賢者を探す。会議室や訓練場を見ても誰一人いない。それでも、足を止めずに走り回っていると、ラグレスとリキトに出会った。二人はエルクの姿を見ると驚いた様子で近づいてきた。
「エルクいつ帰ってきたんだよ!」
「ってか、その傷どうした!?」
切迫した状態のエルクは二人の会話を遮って、賢者達の居場所を聞いた。
「ねぇ!賢者の人たちはどこにいるの!?」
「え?」
「早くして!」
「アイさんなら部屋にいるって言ってたけど...」
ラグレスから居場所を聞くと、エルクはアイの部屋まで走っていった。
その姿をラグレスとリキトはポカンとした表情で見ていた。
「何があったんだ?」
「さぁ?」
エルクはアイの部屋に着くと、扉をドンドンと勢いよく叩いた。
その音を聞いたアイはすぐに扉を開いてくれた。
「はーい?どちら様...ってエルクちゃん!?どうしたのその傷!?」
「そんなことよりも大変なんです!早く他の人たちにも知らせないと!」
「待って!それよりも早く治療をしいないと...」
「急がないと...シエラ様が死んじゃう!」
それを聞いたアイの表情は変わり、すぐに部屋の中へと連れ込まれた。
「シエラさんが危ないってどういうこと!?」
するとエルクは先ほど起きた出来事を全て話し始めた。
全てを話し終えたエルクのめには涙が浮かんでいた。
「わかった...エルクちゃんはとりあえず医務室に行って傷を診てもらって。私はこのことを他の賢者たちに報告するから」
「はい...」
エルクは肩を落としながら医務室に行った。
アイは賢者を探すために、城の中を走り回ったがどこにもいない。どこか部屋にでもいるのか...
賢者の居場所を探すためにアイは魔力探知で魔力を薄く広げ、魔力が多い人だけに絞って探し始めた。
すると、意外なことに先ほどまで苦戦していた賢者探しがあっという間に全員を見つけることができた。
全員見つけたアイは一言だけ「緊急の用があります!急いで会議室へ!」と言って賢者を会議室に集めることができた。
「それで...一体何のようだよ?」
眠そうな表情でバーンが訪ねた。
アイは先ほどエルクから聞いたことを全てを話し始める。
シエラが魔人とバレたこと、現在危険な状態であること、シーラス王国の国王は水神の加護を持っていること
全てを話し終えると、賢者たち全員の表情は暗く、少しの間沈黙が続いた。
すると一番最初に口を開いたのはケントだった。それも驚く内容だった。
「とりあえず...シーラス王国からの連絡を待つしかないんじゃない?」
するとその内容にレインは反発する。
「ちょっとケント君!それじゃあシエラ様が...!」
「わかってますよ...でも、あっちもそう簡単にシエラさんは殺さないでしょ。一応アウスト王国の賢者ということで入国しているわけだし、それでシエラさんを殺したらラウレスよりも先にアウスト王国とシーラス王国が戦争になるでしょ」
ケントの冷静な解答にレインも開いた口が塞がらなかった。
「驚いた...ケント君って冷静な考えができるんだね...」
「ああ、いつもだったら「俺がいく!」って言ってシーラス王国に行こうとするのに」
全員の反応を見るに、ケントの意見が最適という結論が出て、その内容にレインも納得した。
「じゃあ、一応このことは陛下に伝えなきゃだから僕が行ってくるよ」
「そうだな、シーラス王国の連絡は陛下に来るもんな。俺たちはいざという時の為に備えておくからよ」
「とりあえずみんなはここで待機していてくれ!急いで陛下にこのことを伝えてくるから」
「「「「了解」」」」
会議は一時中断となった。
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