第十四話 話し合い
クレアと話したあと、アイは自室に戻ってベッドに寝っ転がった。そして、眼から一筋の細い涙が流れた。
「...ユアンのバカ...」
ケントとクレアを見ていると、自分だけ場違いのように感じる。お互い好き同士なのに、どうして私のような部外者がいるんだろう...
ユアンが死んだあと、それについてずっと考えていた。もしかしたら、自分の居場所はだんだんとなくなってきているのでは...と。
それに今回、ケントが新たな婚約者を連れてきたのが追い討ちとなり、自分でもどうすればいいのかわからなくなってきている。もちろん、ケント達には幸せになってほしい...けれど、最愛の人がいない自分にとってどうすればいいのかわからない。
今でもたまに、ユアンと一緒に死にたかったと思う時が時々ある...
すると、「コンコン」とドアをノックする音が聞こえた。
「セバスです。ヴィオーネ様がアイ様とお話をしたいとおっしゃっているのですが...」
「わ、わかりました!すぐに行きます!」
アイは涙を拭いて、急いで客室へと向かう。
客室に着くと、ドアは空いており、中にはヴィオーネがお茶を入れて待っていた。
「お待ちしておりました。どうぞ」
部屋へと招かれて、椅子に座ると、ヴィオーネが入れたお茶が出てきた。
「あっ、い、いただきます」
思わず緊張して、手が震える。他国の王族と話すのはこれで二回目だが、クローム王国のルーカス王よりもなぜ、こんなにも緊張するのか。
お茶を口にすると、その緊張が吹き飛んだ。
「あっ、美味しい」
「その茶葉は、我が国クエント帝国の茶葉で、人の手で丁寧に作られたものです。じっくりと低温で乾燥させているのがポイントです」
「だからこんなにもまろやかでフルーティーなんだ!...ってすみません、タメ口で話してしまって...」
「気にしないで。私は仲良くしたい人との敬語は好まないの...いつも通りケントと話すようでいいわ」
「えっ...でも...」
「まぁ、話しやすい方でいいわ。そっちの方が楽ならそれでいいわ」
「それで...話ってなんですか...?」
アイは恐る恐る呼び出した要件を聞くと、突然、ヴィオーネは深々とアイに頭を下げた。
流石のアイも状況が全く理解できなくて、戸惑っていた。
「えっ!?ちょっと待ってください!何をしてるんですか!?」
「アイ...其方には私のせいで傷つけてしまい申し訳ないと思っている」
「わ、私は別に...」
「...嘘だな...其方、私がケントの婚約者と言った時、驚きの表情よりも悲しい表情をしていたが、私の間違いか?」
アイは何も言えなくなり、黙ることしかできなかった。
その様子を見て、ヴィオーネは話を続ける。
「その様子だと図星のようだな...もう一度言うが、本当に申し訳ないことをした」
再度、ヴィオーネは頭を下げた。
「そんな、頭を上げてください!」
「其方は優しいな...道中でケントが其方を心配していた理由がよくわかった」
「えっ?ケントがですか?」
「ええ、ずっと「ユアンの件もあるのに、俺だけ婚約者が増えていいのか...アイに合わせる顔がない」と言っていた」
その言葉を聞いて、ケントが帰ってきた時の言葉を思い出した。ケントがはっきりとしない言葉を話していたのは覚えているが、私はその時には、ユアンのことで頭がいっぱいになっていたんだろう。
なんとなくケントが私のことを気遣ってくれているのは気づいてたけど...
「そっか...ケントがそんなことを...」
先ほどまで自分の居場所はないんじゃないかと思っていたが、ケントがこんなにも自分を思ってくれていると思うと少し嬉しくなった。
「ヴィオーネ様、ありがとうございました!私...色々考えてたのが馬鹿馬鹿しく思えてきました」
アイは先ほどの緊張した様子から、いつも通りの普段のアイに戻っていた。
その姿を見て、ヴィオーネも笑顔を見せた。
「ようやく其方の笑顔が見れた」
「...え?」
「先ほどまでは、緊張と何やら考え事のせいで本性が見えなかったけど、今はもう大丈夫ね」
その後、軽い世間話をした後、自室に戻って再びベッドに寝っ転がった。
時刻は夕刻でそろそろ夕食の時間だ。今回は、ヴィオーネ皇女が来ていることで、城中が軽くパニックになっており、メイド達が廊下を走っている様子がよく見られた。
今日の夕食では、ヴィオーネ皇女と一緒にする予定だったが、クレアが部屋に閉じこもったことで、会食は延期となり、今回は自由に...とのことだ。夕食と風呂を終わらせると、時刻は九時になり、ベッドに横になった。
今日は色々あったせいで、疲れが溜まっていて、眠気が強い。ベッドに入った途端、意識はなくなりすぐに眠ることができた。
目を開くと、そこは真っ白な空間にただ一人ポツンと立っていた。
「よう、久しぶりだな」
聞き覚えのある声、ずっと待っていた声の下方を向くと、そこにはユアンの姿があった。
「ユアン!」
ユアンの姿を確認すると、思わずユアンに飛びついた。
「おっと...!どうした?やけにテンションが高いな」
「そりゃ、好きな人と会ってテンションが低いわけないじゃん」
そう言ってアイはユアンの腹部に顔を埋める。
「あー久しぶりのユアンの匂いだ〜」
「前も似たようなことしてたよな、そんなにいいか?」
「なら、ユアンもやってみれば!」
そう言ってアイはユアンの顔を自分の胸へと押し付けた。
「どうよ?」
「うーん...ちょっと硬い...」
すると、ユアンの頭に激痛が走った。
そしてそこには拳を握ったアイの姿があった。
「匂いのことを聞いてんの!!誰が...その...胸の感想を言えって言ったのよ!」
アイは顔を赤くしてユアンに叫ぶ。
「あはは、ごめんごめん。でも、確かにいい匂いはするな」
「で、でしょ?でも、罰としてもうちょっとこの体制でいさせてね」
再びアイは、ユアンの腹部に顔を埋めた。
そして、この時間を一番アイが楽しんでいた。
いつもありがとうございます。面白かったらブックマークをお願いします。
※誤字報告を教えてくれた方ありがとうございます!!




