第十話 身柄確保
襲ってきた暗殺者とボルドーの兵士たちはロープで拘束した。
「さてと...また少しだけここを離れるわ」
「えっ!?どこに行くんですか!?」
「こいつらを帝国へと送り届けに行くんだよ」
「これからですか!?」
「早い方がいいだろ」
そう言ってケントは暗殺者と兵士たちのロープを掴んで、そのままクエント帝国の方へと向かっていった。
ケントのあまりの速さににラグレス達は開いた口が塞がらなかった。おそらくあれがケントの本気なのだろう。
「俺...身体強化なら少しケントさんに近づけたと思ったけどまだまだだった...」
「俺もだよ...ラグレス...」
軽く絶望感を覚えた瞬間、上空に人影のようなものが現れた。
「おっ、おい...あれはなんだ...?」
「俺に聞くなよ...ただ...やばいってことは確かだろ...」
まずここでやらなきゃいけないことは、ヴィオーネの護衛。
もし、俺らが勝てなくても時間稼ぎになればケントさんが相手をしてくれる。
すると、上空から人影のようなものが降りてくる。すぐに、戦闘態勢に入った瞬間、ラグレスとリキトは意識を失った。
***
キャンプ地から約三十分ほどでクエント帝国へと着いた。暗殺者と兵士たちはあまりの速さで気絶していた。
正門から入らず、直接城へと侵入する。
こっそりと侵入するつもりだったが、簡単にメイドに見つかってしまった。
「ど、どうしたんですか!?何か忘れ物ですか?ってあれ...?」
後ろにいる兵士たちを見て何かを察したのか、すぐに陛下のところへと案内してくれた。
執務室の前へと案内されると、まずメイドがノックして部屋に入った。
「陛下、ケント様がいらしゃっていますが...」
「何!?すぐにお連れしてくれ!」
部屋の外でもわかる声にケントは思わず苦笑いをした。
メイドが出てきて、そのまま部屋へと案内される。
「どうした、ケント殿?今朝、ヴィオーネと出発されたのでは...?」
「はぁ...やっぱりあなたの差し金だったんですね...まぁそれは置いといて、この人たちの処罰を決めてほしいんですけど...」
ケントは捕らえた兵士と暗殺者を陛下の目の前に出した。
「ほぅ...この兵はボルドー辺境伯のものか...」
「わかるんですか?」
「ああ、私の兵には見ない顔だからな」
「もしかして...全員分覚えているんですか?」
「当然だろう。私は皇帝だぞ?それぐらいのことは朝飯前だ」
思わず皇帝の凄さを改めて知った。人の顔は覚えられる方だけど、家臣全員となるとレベルが違う。
「それで、こいつら俺を狙ってボルドー辺境伯に命令されたらしいんですけど...」
「なんだと!?それは本当か!?」
「こいつらが口を揃えて言ってましたけど。それに、兵士たちは陛下の命によってとも言ってましたけど...」
「私はそんな命令は出していない!」
やはり黒幕はボルドー辺境伯のようだ。おそらく、俺がヴィオーネと婚約するのをよく思っていないからか...?
「お、お言葉ですが、本当に皇帝閣下は命令を出していないのですか?」
目覚めた兵士が口を開いた。
「そんな命令を出しても私にはなんの得もない。もしそれが本当にしていたとしても得よりも損する方が大きいからな」
そう言いながら陛下はケントの方をチラッと見る。
「それで、実際どう処罰するんですか?」
「本当なら、全員処刑だが......今回はボルドー辺境伯に虚偽の命令だったため、処刑にはしないが、なんらかの罰は受けてもらうつもりだ」
「暗殺者はどうするんですか?こいつは「隠密」のスキルを持っているらしいですけど」
「ほぅ...それが本当なら処刑は勿体無いな。全員目を覚ますまで牢へと入れておくことにする。その際、処分を言い渡そう」
そう言って陛下が手を叩くと、数人の兵士がやってきた。
「こいつらを牢にでも入れておけ。全員目が覚めたら呼ぶようにな」
「はっ!!」
兵士たちは暗殺者達を連れて行く。それを見て、すぐに出発の準備をする。
「さて、じゃあもう行きますね」
「ああ、すまなかったな。こちらのゴタゴタに巻き込んでしまって...」
「平気ですよ。前の戦いと比べたら全然」
「改めて娘をよろしく頼む」
陛下は深々と頭を下げる。
「頭を上げてくださいよ。まぁできるだけ努力しますよ」
そう言って城を出る。
急いでラグレス達の元に戻らないと、心配されそうだ。
今回は人がいない分、最初よりも早く動ける。先ほどは三十分ほどだったが、今回は十五分でキャンプ地についた。
焚き火の明かりはついているのに、なぜか静かだった。
「おかしいな...なんでこんな静かなんだ...」
周りを見渡してみると、寝ている兵士やラグレス達の姿があった。
「おい!何があった!?」
ラグレスの肩を思いっきり揺さぶるが、目覚めようとはしない。
それと同時にある異変に気づいた。
ヴィオーネがいない!?
急いで魔力探知で周囲を探ると、馬車の中に二つの魔力を感じる。
ゆっくりと近づくと、小さな声で「はぁはぁ」と息遣いの声が聞こえる。
馬車の扉を開けると、そこには必死に抵抗するヴィオーネと襲い掛かろうと興奮している想像の魔女ラミファの姿があった。
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