第九話 暗殺者
段々と陽が暮れていき、その日はテントを貼り野宿をすることになった。
兵士たちはさすがと言うべきか、テントを組み立てたり、諸々の準備をするのがとても早かった。
「はぁ〜流石に手慣れてるな〜」
思わずその手つきに感心してしまった。自分でもこんなに早くできないため、今後の参考にしようと思い、馬車を出ようとしたところ、ヴィオーネに止められてしまった。
「どこへ行くのだ?護衛の仕事を放棄して...」
「いや、俺たちも手伝いに行こうかと...」
「そんなことは気にしないでいい。兵士たちは兵士たちの仕事、護衛は護衛の仕事があるから気にするな」
あの兵士たちも護衛なんじゃ...って突っ込みたかったが、その後がめんどくさくなりそうだったのでやめておいた。
「夕食はどうするんですか?」
「魔法袋に入れてある食材を使うが、足りなくなった場合は魔物を狩るか、途中に寄った街で食材を確保するのが基本だ」
「そうなんですね。俺たちはずっと魔物を狩っていたので食材を買うとか考え付かなかったです」
「味は魔物の方がいいしそっちの方がお手軽だしな」
外から段々といい匂いがしてくる。
兵士の呼びかけに全員馬車から降りると、大きな鍋で兵士たちがシチューを作っていた。
「もうすぐ完成しますので、お座りになってお待ちください」
折りたたみ式の椅子を用意され、俺たちはそこに座った。
もう陽は沈み、辺りは暗くなってシチューを作っている火が周りを照らしている。
すると、突然遠くから何かが近づいている音が聞こえてくる。ケントは魔力探知で周囲を探る。
クエント帝国とは別の方向から三十程の魔力がこちらに近づいている。
「みんな迎撃準備を!!ここから西の方角から三十ほどの魔力がこちらに近づいてる!」
兵士たちは、シチューを作るのを止め、武器を持って迎撃準備を整える。
こっちはラグレス達を合わせても十人、相手が何者かがわからないうちは下手に手を出さない方が賢明だ。
「ケントさん!!」
突然リキトが叫ぶと同時に、ケントの背後からナイフを持った男が現れる。
「死ね」
男はナイフを振り下ろすと、ケントはそのまま倒れ、男は姿を消した。
「ケントさん!ケントさん!」
「ケント!ケント!」
リキトとヴィオーネは倒れたケントのそばに駆け寄った。
ラグレスは兵士の近くにいて、ケントが倒れたことに気づいていなかった。
すると、西の方角からうっすらと馬に乗った人影が見えてきた。兵士たちが確認するとどうやら帝国の兵士だったようだ。それも、ボルドー辺境伯の兵士のようだ。
「私たちはボルドー辺境伯の兵士である。我が主人ボルドー様の名によってその男の身柄を拘束する!!」
ボルドー家の兵士が大声で言うと一斉にケントに目を向けられた。それも倒れ込んでいるケントに。
ラグレスは、それを見てケントに近寄るがケントは動かなかった。
「ケントさん!」
「ふん!まぁいい。寝ているのであれば拘束することは容易い。早く捕らえろ」
ケントを捉えようとする兵士にヴィオーネが前に出る。
「なぜ、ケントを捉える必要がある!何も問題は起こしてなかろう!!」
「ヴィオーネ様...これは陛下からの名でもあるんですよ」
「父上の...?」
「ええ、陛下が下した名をボルドー様が動き、今の状況となっているのです。わかっていただけたのであれば、静かに見ていてください」
ボルドー辺境伯の兵士がケントに触れようとした時、ケントはスッと立ち上がった。
「ケントさん!?」
「ああ、俺は平気だよ。あんな攻撃にやられると思ってんのか?」
「いえ...ですけど...どうやってナイフを...」
「んー当たってたんだけど、怪我してないし、ちょうどいいから倒れてみたんだよね。そしたら色々とわかったからもう大丈夫」
それをみて一番驚いていたのがボルドー辺境伯の兵士たちだった。
「ば、馬鹿な!?なぜ!?」
「その反応は辺りだな?」
兵士はすぐにケントから目を逸らす。
「ラグレス、リキト、何かあったらお前らがこいつらを対処しろ。すぐに戻る」
「ちょっと!?ケントさん!?」
そう言うとケントはその場から消えた。
***
「ニンム カンリョウ ケント コロシタ」
血文字で書いた手紙を鳥の足に括り付けてボルドー辺境伯に飛ばす。
暗闇とはいえ、とても簡単に標的を殺すことができた。神の加護を持っているとは聞いていたが、口ほどにもなかった。
「さて...行くか...」
ボルドー辺境伯の元へと帰ろうとした瞬間、背後から声をかけられる。
「へぇ...どこに?」
咄嗟に振り返ると、そこには殺したはずの標的...ケントが立っていた。
「な、なぜ...!?」
「あんなので俺を殺せると思うなよ?お前ボルドー辺境伯と繋がっているんだろ?」
「はっ...なんのことだ?」
「さっきの兵士たちがペラペラと喋ってくれたよ。とても親切にね...」
ケントはとてつもない不気味な笑みをしている。
暗殺者は両手にナイフを持って姿を消す。
「ふっふっふ...俺は「隠密」のスキルを持っている。誰も俺の姿を捉えることはできない」
居場所がバレないように周りに暗殺者の声が響き渡る。
隠密のスキルか...珍しいスキルだけどどうってことはないな
背後からナイフが飛んでくるが、右手で簡単に取ることが出来た。それを見た暗殺者は数本のナイフを投げるが、簡単にケントに避けられるか、取られてしまった。
「なぜだ!?なぜ避けることができる!?俺の投げるナイフは音がしないはずなのに!」
「音がなくても魔力探知には反応するんだよ」
「魔力探知だと!?それがなんだと言うんだ!」
しばらくずっと立っていただけのケントだったが、突然暗殺者の視界からケントの姿が消えた。
「!?」
「ここだよ」
暗殺者の背後にはケントの姿があり、木の上で見ていた暗殺者を叩き落とした。
「ぐっ...!」
「さてと...お前には色々と喋ってもらおうかな」
「はっ!どうせ兵士から全て聞いたんだろ!ボルドー辺境伯がお前を殺すことを命じたことを!」
その言葉を聞いてケントは笑みをこぼす。
「あれ〜兵士たちは一言も喋っていないんだけどなー」
すると、暗殺者は騙されていることに気づいたようで、ケントに罵倒の言葉を投げかけた。
「ふざけるな!よく黙ましたな!」
「騙される方が悪いんだろ?それに...人を殺そうとしたんだからお前もその覚悟ができてんだよな...?」
ケントの殺気に触れ、暗殺者はガタガタと震え上がる。
暗殺者が殺気で気絶すると、ケントは暗殺者を抱えながらラグレス達の元へと急いで戻った。
急いで戻ると、そこには、山積みになったボルドー辺境伯の兵士の姿と満足そうにしているラグレスとリキトの姿があった。
「あっ!ケントさん!」
「お疲れ様です!」
「お〜派手にやったな!」
二人を見たところ、特に怪我を負っている様子はなく、簡単に制圧したことは明白だった。
「ケント...その抱えている者は誰だ?」
「ん?これは俺を暗殺しようとした暗殺者なんですよ。後のことは、こいつらに色々と聞きますよ」
ケントの顔には、今日一番の笑顔が広がっていた。
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