第七話 目論み
ケント達と話をした後、執務室で書類の整理をしているとドアをノックする音が聞こえた。
「入って良い」
「失礼します」
入ってきたのは、先ほどの謁見で野次を飛ばしていた辺境伯のボルドーだった。
「何か急ぎのようか?」
「皇帝陛下!なぜあのような得体もしれない子供にヴィオーネ様との婚約を!私の子供の方が先に婚約をしていたではありませんか!」
「その話ならヴィオーネが正式に断ったはずだ。ヴィオーネの婚約は本人に任せてある。わたしたちが口を出す理由はない」
「しかし...」
「それに、主はケント殿を得体の知れないと言ったか?あの子は神の加護を持った貴重な人材だ。関わりを持つことができれば、アウスト王国との友好関係も築けるし、この国においても安泰が約束されるも同然だ」
皇帝が決めたことにいくら下が口を出しても決定されたことはもう覆ることはない。
ボルドーは苦虫を噛み潰したような表情をしながら部屋を出ていく。
部屋を出たボルドーは、小さな声で「ケントという賢者を今すぐ殺せ」とつぶやくと、ボルドーの影から黒い服装を着た人間が現れ、「御意」と言って姿を消した。
「クックックッ...これであのガキも終わりだな...」
ボルドーの顔には満面の笑みが溢れていた。
***
謁見が終わった次の日、ケント達は帰りに身支度をしていた。帰りたくはないが、ここにいるともっとめんどくさいことが起きそうなので、さっさと帰りたい。帰って報告した際、クレアの反応が予測できないため会うのが正直恐怖でしかない。
「ケントさん、俺たちも準備できました」
「よし!早くここを出るぞ!」
誰にも会わないようにこっそりと部屋を出る。今日帰るとは誰にも言ってない。黙って帰るのは申し訳ないが、これ以上面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だった。
音を立てずに廊下を走り、玄関までたどり着いた。しかし、玄関にはメイドが数人、気絶させることは容易だが、それだと暴力的みたいなのでやめておく。
「どうしますケントさん?」
「うーん...ここは少し出かけてくるって言うしかないな...」
俺たち三人は堂々と玄関を通るために、メイド達の前に姿を見せる。すると、メイド達は予想した通り声をかけてきた。
「あら、どちらに行かれるんですか?」
「少し、街を見学に」
「お気をつけて」
そう言ってメイド達は仕事に戻っていた。
我ながらナイスアイディアだと感心する。玄関の扉を開いてこの国を出ようとした瞬間、扉を開いた先にはヴィオーネが立っていた。なぜかオシャレな姿で......
「其方達、どこへ行くつもりだ?」
「えーっと...ちょっと街を見学に...」
「その大荷物を持ってか?」
ヤバイヤバいヤバい......見つかってはいけない人に見つかってしまった。おかげで背中から出る汗が止まらなくなった。完全に嘘がバレている。
「ここは居づらいから、外で野宿でもしながら修行でもしようかと...」
「ほぅ...なら奇遇だな。私もこれから旅行に行くことになったから、其方達に護衛を頼みたい」
もうすでに嫌な予感がしている。
後ろにいるラグレス達をみても、ヴィオーネの顔を見ずに目線を逸らしている。
「申し訳ないですが、俺たちにも予定が...」
「何気にするな。行き先は同じだからな!」
「えっ...それって...」
冷や汗が止まらない...どうすれば正解だったのか俺にはわからなかった。
そう言ってヴィオーネは魔法袋から一つの手紙を取り出した。
「アウスト王国のな!」
ヴィオーネは満面の笑みで「してやったり!」という表情をしていた。
手紙を持っていると言うことは、皇帝のお許しが出たと言うことだ。
「わ、わかりました...」
力ない声で答える俺に対して、「うむ!よろしく頼むぞ!」と嬉しそうだった。
約一ヶ月間と言う長い旅がここから始まる。
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