第六話 婚約
突然の発表に貴族達は驚き、誰も声を発していなかった。その中で声を発していたのは、驚きを隠せなかったケント達だった。
「ちょっと、それはあまりにも急すぎませんか...?」
「しかし、本人の希望でな...急ではあるが、娘の意思を尊重するしかない」
「俺の意志は!?」
ケントは皇帝相手に躊躇なくツッコミを入れる。
相手は皇帝だ。何か不敬があれば簡単に罰することができる存在だ。ケントはそれを臆することなく、ツッコミを入れた。
「はっはははは!余相手に堂々と話すか。面白い!」
そう入って皇帝は、ケントの肩を掴み「娘をよろしく頼む」と言った。
「ちょっと待ってください!俺、アウスト王国の王女と婚約しているんです!なので...ヴィオーネ様との婚約はできません!」
すると、皇帝の目つきが急変する。
「それは誠か?嘘だったら虚偽罪でお主を裁くことになるが...」
「本当ですよ。なんなら国王でもなんでも確認とってください」
「わかった...それについてはヴィオーネとも話をしなければなるまいな」
そう言って謁見は終了した。
皇帝が去った後、ケントも出ていく際、一人の貴族からものすごい目つきで睨みつけられた。
謁見が終了し、ケント達は部屋に戻った。
「はぁ〜もうやだ...」
「元気出してくださいよ」
「そうですよ。いいじゃないですか!皇女様と婚約なんて」
簡単に言うラグレスを殴りたい気持ちだったが、そこはグッと堪える。
「本当に婚約することになったら、クレアがどんな行動に出るか想像できない...」
「クレア王女ですか...クレア王女はケントさんにゾッコンですもんね」
「ケントさんって王女様に好かれる確率高いですよね。もしかして王女キラーとか...?」
冗談とも言えない言葉に思わず笑いが込み上げてくる。
「そもそもクレア王女と婚約する経緯ってどんな感じだったんですか?」
ラグレスは素朴な疑問をケントに問いかける。
「んーあれは俺たちが五歳で王都に来た時に...陛下とユアンが勝手に決めたからかな?」
「それ本当ですか!?」
「ああ、最初はユアンに声をかけてたつもりらしいんだけど、ユアンが断って俺に来たって感じだな」
「そんな早くに...」
「それだけ俺たちの力が強大だったってことだろ。神の加護持ちなんて滅多に現れることなんてないし、それに自分の子供と同じ年だったら仲良くさせるか結婚させるかのどれかにしないと、自国に留まってくれないだろうし」
今思うと、クレアとの婚約はほぼユアンの手によって仕組まれたものだと思うと少しむかついてきた。別にクレアが嫌だってわけではない。むしろ一緒にいて楽しいし、可愛らしい一面もある。俺には勿体無い人だ。しかし、ユアンのスキル未来予知でそうなる未来がわかっていたとなると少しむかつく。いや、結構むかつく。
ラグレス達と色々と話をしている最中に、部屋のドアが勢いよく開いた。
そこにはヴィオーネと皇帝の姿があった。
ケント達は咄嗟に片膝を突いた。
「す、すまない。娘を抑えることができなかった...」
皇帝は少ししょんぼりとしている。
皇帝の後ろからヴィオーネが早足でケントの方へと移動する。
「其方、私との婚約は不満か...」
そこには、目を真っ赤に張った状態のヴィオーネが立っていた。
「い、いえ!そのようなことではなくて...俺...私には、アウスト王国に婚約者がおりまして...」
「私とは婚約してくれないのか...」
「で、ですから...婚約者が...」
「アウスト王国やクエント帝国は一夫多妻制じゃ!問題なかろう!」
ヴィオーネの目から涙がこぼれる。それを見て「嫌だ」とは言えない雰囲気になってしまった。
「わ、私一人では決めることができないので、とりあえず帰ったら陛下に聞いてみます......」
「本当か!?約束してくれるか!?」
「は、はい...」
「いい報告を楽しみにしておるぞ!」
そう言って足取りが軽くなったヴィオーネは一人部屋を去っていった。
残された俺たちに向かって陛下は「すまない」と一言だけ呟いた。それに続けて、
「ヴィオーネは昔から聞き分けのいい子供だったが、初めて反抗されて驚いた...」
「それだけ、ケントさんと婚約したかったってことですよ」
皇帝の顔はやつれていて、初めての反抗期に少しショックを受けている様子だった。
はぁ...また何か嫌な予感がするなぁ〜
何かを察知したケントだった。
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