第二話 襲われている馬車
アウスト王国を出て約二週間、クエント帝国の国境に来ていた。馬車で三週間から四週間で到着する距離を約半分の期間でこれたのは驚きだった。もっと時間がかかると思っていたが、二人の成長速度は思ったよりも早いようだ。
現在、国境の兵士に入国許可をとっている。
「何のために、帝国に?」
「皇帝様と謁見するために」
「ふむ...その姿、アウスト王国の賢者か?」
「はい。国王からの手紙もちゃんとあります」
そう言ってケントは国王の手紙を兵士に渡す。
兵士は手紙に王家の印で封をされているのを確認すると、すんなりと通してくれた。
「確認取れました。どうぞお通りください」
「どうも」
初めて正規の手順で他国に入国したケントは新鮮な気持ちだった。初めては、ドミノ王国で力づくで押し通った記憶がある。
「こんなにすんなりと通れるんですね」
「俺もびっくりしました。もっと時間がかかるかと...」
「今回はこの手紙と黒いローブのおかげだよ。王家の印が記された手紙を見せれば大体通れる...多分」
第一関門の国境はクリアした。あとは、皇帝が君臨している都市ベラットまで行ければいい。問題は、皇帝が手紙を読んでどう判断するかだ。
俺はユアンのように「未来予知」はもっていない。だからこの後の未来はどうなるかがわからない。できる限りのことをして、何とか承諾してもらわないと任された意味がない。
「さてと、都市ベラットまで少しあるけど魔力は平気か?」
「俺は大丈夫です」
「俺も平気です」
「よし!それじゃあ行くか!」
国境を超えて三十分が経った頃だろうか、走って移動していると馬車の周りに魔物が群がっているのを発見する。
「ケントさん!馬車が魔物に!」
「わかってる!行くぞ!」
「「はい!!」」
護衛の騎士が必死に馬車を守っているが、全滅するのは時間の問題だ。
ブラッドベアーやフォレストモンキー、その他にもAランクの魔物が数体いる。
「ラグレス!リキト!お前たちは自分達が倒せるやつをやれ!無理はするなよ!」
そう言ってケントはラグレスとリキトを置いて猛スピードで馬車の方へと走っていった。
「助太刀しますよ!」
急に現れた少年に兵士は驚くが、それよりもAランクの魔物を拳一つで絶命していく姿に恐ろしさを感じていた。
魔物を次々と殺すケントの姿を見て、魔物たちは一斉に逃げ出した。
「た、助かったのか?」
兵士たちは歓喜しているが、少し嫌な予感がする。
「助太刀感謝する。あなたのおかげで我々の被害は最小限に抑えることができた」
「いえ、たまたま通りかかっただけですし...」
「その黒いローブ...もしかして君はアウスト王国の賢者なのか!?」
一人の兵士はケントの肩をガッと掴んで離さなかった。
すると、ラグレスとリキトがようやく到着した。
「ケントさん早すぎですよ...」
「そうですよ...ってあれ?もう終わったんですか?」
「遅かったな。もう終わったけど、まだ何か嫌な予感がするから気を張っとけよ」
「「はっはい!」」
ケントは兵士の方に振り向き、自信がアウスト王国の賢者だと伝えると兵士たちは驚くと同時に胸を撫で下ろしていた。
「あの...もしよろしければ、ご一緒にベラットまで着いてきてもらうことはできますか?今の戦闘で疲弊している兵士達がいる中、先ほどのような魔物がいつ現れるか分かりませんので...」
目的地は一緒だが、そうなるとベラットに着くのが遅くなる。今は午後一時、俺たちだけで行けば、二時間ほどで着くが、馬車と一緒となると夜になってしまう。
ラグレスとリキトの方をチラッと見ると、少し疲れている様子だった。まだ何か引っかかることもあるし、ここは馬車と一緒に行くのが賢明だと判断した。
「わかりました。同行しますよ」
「本当ですか!?助かります!」
「じゃあ、俺たちは後ろの方でゆっくりとついていくので何かあったら連絡お願いします」
「わかりました。では、すぐに出発いたします」
出発の準備をしようとしたその時、馬車のドアがゆっくりと開いた。
そこには、ケントと同年代か少し年上の少女が現れた。
少女を見るや否や兵士たちは片膝をつけ始めた。
馬車をよくみると、物資などを運ぶ馬車とは違って明らかに貴族をのせる馬車だ。それもより上位の。
ケントの嫌な予感は止まらなかった。
「ヴィオーネ様!まだここは危険です!早くお戻りになった方が...!」
「よい、命を助けてもらった恩人に礼の一つも言わなかったら、皇族としてあってはならん!」
「ですが...」
「くどいぞ!何度も言わせるな!」
「はっ!」
ヴィオーネは、馬車を降りてケントの前までやってくる。
「其方のおかげで私の命は救われた。感謝する」
「い、いえ...あ、当たり前のことをしただけです...」
「緊張しているのか?そんな玉には見えないが...」
ゆっくりと近づいてくるヴィオーネにケントは一歩下がる。
この状況は非常にまずい。相手が貴族ともなれば、お礼は必ず受けないと失礼に値する。それにこれは他国同士であるから、もし断れば戦争にだってなりかねない。
「なぜ逃げるのだ?」
「いえ、逃げてはいないですよ...」
すると、馬車の後方から六つの火炎弾が飛んできた。
咄嗟に、ケント、ラグレス、リキトの三人は魔法障壁で防御したが、ラグレスとリキトの魔力障壁を破って数発の火炎弾が直撃した。
一発はヴィオーネに直撃しそうな火炎弾は、ケントが身を挺して庇ったおかげで、ヴィオーネは無傷だった。
「其方!背中を...」
「これくらい大丈夫ですよ。ですが...」
馬車の後方を見ると、強大な魔力を放ちながらゆっくりと歩いてくる人型の姿を確認する。
「あ、あれは...」
兵士たちは震える声でその人型を指差す。
「まったく...嫌な感って本当に当たるよな...」
現れたのは一体の魔人だった。
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