閑話 飲み会
これは、ユアンたちがまだ十歳の時のお話です。
「うー...吐きそう...」
「ったく...何やってんだよ...」
今にも吐きそうになっているレイン...そしてその横にいるバーンとアークが女性の背中をさすっている。
「こんなところで吐かないでよ?賢者が街中で吐いたら笑い物だからね」
「...わかってるわよ...そんなみっともないことはしないわよ...」
「どうだかな...酒場でのあの出来事を見た後だと...」
時は約三時間前に遡る。
レインとバーンとアークは仕事終わりに飲む約束をしていた。その経緯に至った理由は、レインが彼氏と別れたからその愚痴を聞いて欲しいということだった。
酒場に入った瞬間、客の目が一斉に俺たちへと向けられた。レインは気にすることなく、空いてる席に座り早速注文をした。
「おばちゃん!エール三つとオークの串焼き九本ね!」
「はいよ!おや、アークちゃんとバーンちゃんも一緒かい?珍しいね!」
「あははは...どうも...」
アークは苦笑いで返すが、酒場のおばさんは厨房の中へと入っていった。そしてすぐにエール三つを持って戻ってきた。
「はいよ!エール三つね!串焼きは時間がかかるからもうちょい待っててね!」
「おばちゃんありがとね!」
そして、レインが酒を飲むこと一時間、別れたであろう彼氏の愚痴がマシンガンのように止まらなかった。
「でさぁ...あいつ、私よりも好きな女ができたから別れて欲しいってどんだけよ!私がどれだけ大変な思いをしながら仕事をしてるのかわかってんのかよ!」
レインはジョッキをドンとテーブルに叩きつける。その音で客の目がまたこちらに視線が集まる。
「おっおい!飲み過ぎだぞ、レイン!」
「そうだよ、ほら、今度はバーンの家で飲もうよ!」
アークの提案にバーンが速攻却下する。
「なんで俺の家なんだよ!」
「だって、ここは迷惑になるけど君の家なら大丈夫だろ?」
「俺の迷惑になるだろ!」
言い争いをしている間に、レインはおかわりのエールをこっそり頼んでいた。
「ほら!そこうるさいわよ!...でさぁ、あいつ私になんて言ったと思う?「君よりも可愛らしくて守ってあげたい女性なんだ」って言ったのよ!信じられないでしょ!?」
レインが切れるのはわからなくもないが、できればお酒が入っていない時に話が聞きたかった...
すると、一人の大柄の酔っ払いが座っているレインの肩を掴み始めた。
「なぁなぁ、姉ちゃんや。そんなに彼氏が恋しいんならわしが相手しようか?グフフ」
その瞬間、酒場は凍りついた。だけど、一番凍り付いているのはバーンとアークだ。
相手が酔っ払ってるからかそれともレインだと把握していないのか、どちらにしても、あいつは死んだなという思いしかなかった。
「ねぇ...誰に向かって言ってるの?」
レインは静かに殺気を出す。
「誰ってお姉ちゃん以外に誰がおるん?」
「そう...だったら覚えておきなさい...誘ってもいい人と悪い人がいるってことをね!!」
「レイン!やめーーー」
バーンが引き止める声を聞かずに、レインはノーモーションで水玉を酔っ払いの腹部に攻撃した。酔っ払いはそのまま店のドアを壊して伸びている。
「あっははは!吹っ飛んだ!あははは!」
「おい!今のうちだ!」
「うん!」
バーンはレインを抱え店を飛び出し、残ったアークがドアの修繕費と酒の代金を少し多めに払い店を飛び出した。
賢者を止めれるのは賢者だけ。あの場に長時間いれば、レインを止めることはほぼ不可能だっただろう。
そして、現在に至る。
吐きそうになったレインは、その場で寝てしまいバーンがおぶっている状態だった。
「はぁ...こんなことになるんだったら来なきゃよかったぜ...」
「まぁ...レインも色々と溜まってたんだからしょうがないよ」
「くそ...こんなことになるんだったらもっとちゃんとユアンとかを誘っておけばよかったな...」
「いや、ちゃんと誘ってもユアン君は来なかったと思うよ?」
「まぁ...そうだな。あいつには「未来予知」があるもんな」
「僕が軽く誘った時も、哀れみの目で見てきたから多分ね...」
もし、ユアンがいればこんなことにはならなかったのかもしれない。
賢者全員で飲みに行くことがあれば、それはものすごく楽しいんだろうな...と思う夜だった。
そして、その後レインを無事家まで送り届けバーンとアークは家に帰った。
次の日、レインは昨日の酒場のことは綺麗さっぱり記憶がなかった。
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