第十八話 戦闘スタイル
修行を始めてから数日がたった。ユアンは修行に慣れてきたのか最初の時と比べると随分と元気そうだった。
「ユアンはもうレインさんの修行には慣れたの?」
「んーボチボチかな。最初よりかは楽になったかな」
ユアンの体には最初の頃よりかは怪我をしなくなった。
「でも、ユアンが修行を抜け出そうとしたときは笑ったよな。事前にレインさんに逃げる可能性があるって伝えておいてよかったよな、アイ」
「あのときは本当に笑ちゃったよね。だって寝巻き姿で訓練場に引きずられてきた時を思い出すと......ふふっ」
あの時ユアンはレインに見つかった後、朝ごはんも食べずに訓練場へと連れて行かれた。その後はご想像通り。
あの時の修行はいつもより倍になった。あれ以来レインの修行はサボらないと心から誓ったユアンだった。
「でも、それにしても本当に怪我しなくなったよな。もう「未来予知」使いこなしてるのか」
「今は「透過」も使わせてもらってるから怪我しなくなったけど....」
「けど?」
「「透過」を使うことにするんだったら威力を強くするって言われてさ」
いつも通りケントとアイは引いている。
「まぁそのおかげで自分の戦闘スタイルがわかってきたし。お前たちはどうなんだよ?」
訓練場は一緒だが、自分の修行でお互いのことは把握できていないのでユアンは気になった。
「私は魔法オンリーかな。ユアンたちみたいに身体強化が得意じゃないし」
「俺は「豪腕」を使って体術をメインとする予定。風魔法で体全体を強化して戦うつもり」
意外にも二人の戦闘スタイルはよく考えられていた。二人とも魔力の量は、この修行で大きく成長している。この前どのくらいレベルが上がったかみんなで確認したところ、魔力量はレインやアークたちの魔力を超えていた。
「二人とも意外と考えてたんだな」
「そういうユアンはどうなのよ!全然話してくれないじゃん!」
アイは腰に手を当てて子供を叱るように怒っている。
「いや、決まったのは今日というか....ようやく自分が納得するのが思いついて....」
「ふーん、じゃあ教えてよ」
「じつは剣術を習おうと思ってて」
「え?本当に?」
「お前が剣術?」
二人の反応はあまり良いとは言えない反応だった。前世でも剣道なんかやったことはなかったから驚くことは仕方がない。
「いや、「未来予知」で攻撃が見えるけどさ、俺一人だったら「透過」を使えば良いけど。後ろに仲間とかがいたら「透過」は使えないじゃん?だから剣術を習おうと思っててさ。、もうレインさんには言ってあるんだ」
ユアンのスキルがあれば攻撃が当たることはないが、それは一人だった場合のみ。一人じゃなければその攻撃を防ぐことはしなければならない。手数の多い攻撃なら尚更だ。
「そう考えるとユアンのスキルって結構バケモノだよね」
「魔法も俺らと同じ二つ持ってるし、魔力量もほぼ同じで、神の加護を持っている。ただのバケモノだな」
二人ともユアンを見て少し引いている。
「おい!人をバケモノ呼ばわりすんじゃねぇ!お前らもバケモノみたいなもんだぞ。そもそもアイのスキルで「再生」ってどんな能力だよ!前から気になってたけどさ!」
「あれ?言ってなかったっけ?私のスキル「再生」は怪我したらすぐに治るんだよね」
アイは少し恥ずかしそうに頬を少し掻いている。「再生」の能力の想像はできたけど、アイの能力を全体的に見てもバケモノと言っても過言では無い。
「でも、「再生」には少し欠点があって、私の魔力が多いときは治るのが早いけど、少ないときは治るのが遅いの」
「いや、今の歳でレインさんたちの魔力量を超えてるんだから十歳になった時なんてもっと上がってるだろ」
「そう考えるとアイもバケモノだよな」
ケントが冷静にアイをバケモノとして認定した。
そんな会話をしていると自分の部屋が近くになったユアンは二人に別れを告げて自分の部屋に戻っていった。
自分の部屋に戻って一休みをしようと思ったところに、ドアがノックする音が聞こえた。
「セバスです。夕食の準備が整いました」
「わかりました。すぐに行きます」
そう言って部屋へと案内されたが、いつもご飯を食べている部屋とは違っていた。
「あれ?いつもと違う部屋ですね」
「今日は陛下も一緒に食べたいと申されたので...」
「ええ!?」
あまりの出来事に驚いてしまった。ここにきてしまった以上は一緒に食べなければならない。
「ケントとアイは?」
「お二人は後で来るそうです。陛下は少しユアン様とお話がしたいと。間も無く陛下が来ますのでごゆっくり」
セバスは一礼して部屋を出て行った。するとセバスと入れ替わるように陛下が部屋に入ってきた。
「すまないな。少しユアンと話がしたくてな」
陛下の話と聞いてユアンのなかに緊張が走った。
「じつは私にはユアンたちと同じ年頃の娘がいるんだが.....」
「はぁ.....」
「許嫁として婚約者になってくれないか?」
「は?」
陛下が何を言っているのかわからなかった。急に婚約者と言われて理解が追いつかなくなった。
「一番は本人の意思が大事だが娘に聞いたところ二人ともなっても良いと言っていて」
「なっても良いって....ん?二人とも?」
「もう一人はケントのことだ」
俺は陛下の言葉を聞いて確信してしまった。なぜいきなり婚約の話になったのか。それは俺たちのどちらかが婚約者になれば神の加護を持った優秀な人材を王都に止まらせてできるからだ。
「婚約の話は陛下が始めたことなんですか?」
陛下は少し黙っている。
「まぁ俺が陛下だったら同じことを提案しますよ。ですが俺はその話はなしでお願いします」
そういうと陛下は大きなため息を吐いた。
「やっぱりユアンには気付かれておったか....確かに婚約の話を始めたのは私だ。だが娘にはちゃんとお前たちのことを見てもらってから判断してもらっている」
「まぁ神の加護を持った人間が他の領に行かないで王都に止まってて欲しいですもんね」
「そこまでばれてたか...だが私は諦めないぞ」
陛下はユアンを見つめてニヤリと笑った。
「俺に執着しなくても次で成功すると思いますよ」
それを聞いて座っていた椅子を倒す勢いで立ち上がった。
「それは本当か!?」
「はい。ケントなら引き受けるでしょう。俺が保証しますよ」
「「未来予知」か...ならユアンの言葉を信じなくてわな」
お互いニヤリと笑ってケントとアイが来るのを待つ二人であった。
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