第五十一話 説教
「はぁっ!」
ラグレスとリキトは森に入り、中にいる魔物を狩っていた。まだ先にはあまり進んでおらず、高くてもランクCの魔物しか来ていない。
ラグレスが初めて森に入った時、ランクCの白狼で手一杯だったが、今では余裕に倒せるようになった。
「なぁ...本当に黙って行ってよかったのかよ?」
「しょうがないだろ...エルクはもうやることが見つかっているのに、俺らだけ何もないなんて...」
先ほど二人でエルクの屋敷に向かったところ、顔色の悪いエルクから事情を聞いた。
その時、やることが見つかっているエルクに対して少し焦りを感じた。二年間、シエラの下で修行をすると聞いただけで確実に強くなるイメージが付く。だけど、ラグレスとリキトにはそんな話は来ていない。
ユアンがいなくなったこの国では戦力が必要だ。師が死んでしまったことや、幼馴染に差をつけられてしまったようで二人は焦りを感じていた。だから、体を動かさずにはいられず、嘘をついて森で自主練をしている。
「ラグレス、あまり奥には行かないようにしようぜ。段々と魔物の数が多くなってきてるし...」
「バカ言え!これが修行ってもんだろ!それに...実践をしなきゃ強くなれない...」
すると突然、二人の目の前から魔物の大群がこちらに向かってきた。見たところランクは下位ばかりだが、その中にはランクCの魔物もいる。
「ホラ見ろよ!だからあんなに奥に進むなって...え?」
魔物達はラグレスとリキトを素通りして移動していった。
「ど、どういうこと?」
「さぁ?」
だけど、その奥を進んで魔物が逃げていた理由がわかった。
その奥にはブラッドベアが二匹、下位の魔物を食べていた。
「マジかよ...」
「おい、流石にここは逃げないとやべーぞ...」
リキトの言う通り、ここは逃げた方がいい。だけど、強くなるためには命をかけた実践が必要だ。
「リキト、ブラッドベアの足元に泥沼吸収をやってくれ」
「待てよ!ラグレス!お前戦う気か!?」
「ここでやらなきゃいつ強くなるんだよ!」
「それは...」
「エルクはもうやることが決まった。だけど、俺たちは決まっていない。なら、自分達で強くならなきゃだめなんだよ!」
リキトは何も言い返せず、ただ「わかった」と頷いた。
「この方法なら魔人にも効果はあった。いつも通りで行こう」
「ああ」
いつも通り...と言っても今回はエルクはいない。いつもならラグレスが揺動リキトがトラップで本命はエルクの魔法だ。これなら初見なら確実に決まる。だが、今回はエルクがいないためリキトが揺動とトラップということだ。
「おい!こっちだ!」
リキトがブラッドベアに向かって叫ぶ。ブラッドベアもリキトに気づくと、二匹ともリキトに視線が移った。
そして、その瞬間をリキトは見逃さなかった。
ブラッドベアの足元には泥沼吸収が現れ、二匹とも膝下ぐらいまで沈んで身動きが取れない状況だった。
「今だ!」
「ナイス揺動だ!リキト!」
背後から首めがけてラグレスの攻撃が直撃する...が首は硬く、ラグレスの光剣では切り落とすことができなかった。
ブラッドベアは怒り狂い、無理やり泥沼吸収を抜けてラグレスに襲い掛かる。
ラグレスはその恐怖から思わず目を閉じた。すると、何も起きない。それどころか急に肌寒く感じる。
目を開けてみると、目の前にはアイとケントの姿があった。
「ったく...何やってんだよ」
「危なかったね。もう少し遅くなってたら大事になってたんだよ?」
二人の姿を見て力が抜けたのか、座り込んでしまった。
襲いかかってきたブラッドベアはアイの魔法で氷漬けになっていた。
「あの...嘘ついてすみませんでした...」
「本当にごめんなさい...」
正座をしている二人を見ると怒るに怒れない。その表情は本当に申し訳なかったんだなと思える表情をしている。
「お前らがこんなことをしたのはなんとなくわかる。確かに俺らもユアンのことで何もできていなかったから俺らにも責任はあるけど...」
その瞬間、ラグレス、リキトの頭上にゲンコツが落ちた。
二人は悶絶し、アイはゲンコツが落ちた瞬間思わず目を閉じた。
「嘘までついて森に行くんじゃない!もし、それで死んだらどうすんだ!?」
「それで死んだら俺らが弱かったってことです...」
ラグレスは罰が悪そうな言い方をする姿を見て、その姿をなぜかユアンと重ねてしまった。
だからなのか、それが本当に許せなかった。ここで怒鳴りたい気持ちはあったが、あえて逆効果になってしまう気がした。
「はぁ...とりあえず今回のことはこれで終わりにする」
「「本当にすみませんでした」」
二人が深々と頭を下げた。
「もう終わったんなら、本題に移ってもいいんじゃない?」
「そうだな...」
二人はキョトンとした顔でケントを見る。
「これからお前達には三ヶ月間、騎士団の方で剣術を学んでもらう。ユアンが死にそうなほどになっていたほどだから、多分相当きついぞ」
「きつい」という言葉を聞いて二人は目を輝かせていた。ようやく自分達にもちゃんとした修行ができると舞い上がっていた。
「喜んでいるところ悪いが、帰ったらすぐに騎士団の方に行けよ。もう話はつけてあるから」
「「わかりました!!」」
二人はもと来た道を走って森を出た。
その様子を見ながらアイはくすくすと笑っていた。
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