第四十九話 バレた後...
エルクと二人で話そうとした途端、廊下を走る音とともに部屋のドアを勢いよく開ける音が、部屋中に響いた。
「ぺ、ペトラ様!今日はどのようなご用件で!?...ってええ!!シエラ様!!??」
慌てた様子の男性の名は、マルクス・リーエン。現二十三代目当主で宮廷魔道士副団長を務める実力者でもあり、エルクの父親だ。
「うるさい、それとドアを閉めて。早急にね」
「は、はい!!」
マルクスはすぐにドアを閉めると、シエラの前に正座をした。
「本日はどのようなご用件で!?」
「エルクの師となることを本人に伝えにきただけ。要件が終わればさっさと帰るから安心して」
「そんなに急がなくても...それより...今なんとおっしゃいました?エルクの師と聞こえたのですが...?」
「そうだけど、何か問題でも?」
シエラはキョトンとした顔でマルクスに視線を移す。マルクスはあり得ないという顔をしている。
「なぜですか!?なぜ、私ではなく娘のエルクを!?」
「賢者の会議で決まったから。推薦したのはケントだけど、みんな了承した結果だよ」
すると、ケントの名を出すとマルクスの表情はいささかよくなかった。
「ケント...?あのいきなり賢者になった子どもですか...」
マルクスはそう吐き捨てるように言った。
「お父様!ケント様はそんな悪い人ではありません!」
「エルクは黙っていなさい!あの子たちがいなければ...あの子たちがいなければ私たちの同僚や師匠は死ななかった!」
するとシエラは正座しているマルクスの頬に平手打ちをした。
部屋には平手打ちされた音が響き、エルク、それにマルクスは何をされたかわかっていなかった。
「し、シエラ様!?何を...!」
「あなたは、ユアンやケントやアイちゃんが戦っていた姿を見て何も思わなかったの?国を守るためにあんな小さい子が命をかけてこの国を守ってくれたのよ?でも、確かにあの子たちがきてから色々問題は起こった...けど、あの子たちのおかげでここまで被害は最小限で抑えることができた。あなたはそれすらもわからないの?」
「そ、それは...」
「それに、あなたの師匠のヴァントが死んだのはあの子たちのせいじゃない...私達のせいよ」
「え?」
「これはまだ公になっていないけど...ヴァントが死んだのは亜種の魔物が魔人化したやつに殺された。最初ユアンは複数名で行った方がいいって言ってくれたけど、私たちはそれを拒んだ。その結果ヴァントは死んだ。だから、ヴァントを殺したのは私たちなの...ごめんなさいね、早く謝りに行くべきだったわ」
それを聞いた途端、マルクスは地面に手をつきながら涙を流す。
ヴァントの死を防ぐことは絶対にできた。たかだか魔人一匹という考えの結果、ヴァントは死んだ。これは賢者全員が背負っていく業になる。
「シエラ様...私...私は...」
「いいのよ。たくさんの知り合いが亡くなれば誰でも精神が不安定になる。けど、そこから変わらないと前に進むことはできないわよ」
マルクスは「はい!」と答えた後、エルクの方を振り向いて今回の要件を伝える。
「エルク、一週間後にここを出て海と隣接しているシーラス王国に向かいます。あなたも一緒にきなさい?」
「えっ?シーラス王国ですか?」
「そうよ。ちょうどいい機会だからこの二年間を使ってあなた達三人を賢者に推薦しようってことになっているから拒否権はなしよ」
「いや、ちょっと待ってください!そんないきなり言われても!学園だってありますし!」
「そんなの休学でもなんでもすればいいじゃない。私の権限で無理矢理にでも進級させといてあげるから」
一歩も引かないシエラに対してエルクはなすすべもなかった。
すると、ふとさっきシエラが言った言葉を思い出す。
「あの...二年間って?」
「二年間私と旅をするの。その間付きっきりで魔法を教えてあげられるでしょ?」
「じゃあ...もしかして...」
「そうよ。シーラス王国まで徒歩よ。食べ物も魔物を狩って食べるか、途中の街で宿屋に泊まるかそれしかしないからね」
エルクの顔から血の気が引いていく。
先ほどまでマルクスは自分も弟子にと言っていたが、今の話を聞いた途端、同じく顔から血の気が引いている。
「さてと、要件は伝えたから私は帰るわ。それじゃあ一週間後ね?逃げてもいいけど......その時は容赦しないわよ?」
シエラは去る前ににっこりと笑顔だったが、その奥には鬼のような顔が隠れていたのは言うまでもなかった。
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