第四十七話 決断
※「次回の会議はケント君とシエラ様が帰ったとき」→「各々やることの進捗を報告」に変更しました。
翌日も話し合いが行われ、賢者全員が会議室に集まっていた。
「さて...昨日話した中でやっぱり一番の候補は宮廷魔道士長サリファか、ソイ爺だけだね」
「でも、ソイ爺は断られただろ?やっぱりサリファなんじゃねーのか?」
「でも、サリファは戦力としてきついんじゃない?精霊の加護を持っていなかったらこの先きついと思うよ」
アーク、バーン、レインの意見がぶつかり合う。
どちらかといえば、ソイ爺の方が戻ってきてくれた方が助かる。賢者の中でも経歴が長いし、経験が豊富だ。
「あの...少し話が脱線するんですけど、ちょっといいですか?」
三人が意見をぶつける中、アイはそっと手をあげてゆっくりと立ち上がる。
「どうしたアイ?何かあるのか?」
「はい...」
アイはケントとアイコンタクトを取り、ケントはゆっくりと頷いた。
「えっと、夜寝ている時に私とケントはセレス...加護をもらった神様に呼ばれて...少し話したんですけど...」
それを聞いてその場にいるケント以外の賢者は驚いた。初代賢者のシエラでさえも驚いていた。
「そ、それで...何を話したんだ!?」
「まずは、ラウレスが復活するまでの期間と今度魔人達と戦う時に必要な他国との協力です」
「ラウレスが復活までの期間?どういうこと?あいつのことだからすぐ復活してまたこっちを攻めようとしているんじゃないの?」
「それは可能性がないらしいです。ユアンの攻撃で体はボロボロになって完全に修復するまで最低でも二年はかかると言っていました。」
「二年...」
二年と聞いて全員何かを考える。正直言って二年は短い。
「そうなると、今はまだ急がなくてもいいのか?」
「でも、それとこれとは話は違くない?賢者が揃っていることは早いことに越したことないよ」
そこでケントが手をあげた。
「えーっと、その件に関してもちょっと話があって...」
「ん?どうした?」
「二年...期間としては短いけど、育成するには時間はあると思わない?そうすれば...候補だったはずのラグレス達を育て上げれば...戦力としては十分いけると思いますよ」
そのケントの言葉にシエラが反論する。
「本気?たった二年で私たち賢者と同じにさせるってことだよね?アイちゃんとケントを除いたとしても、最低でも魔人を倒すレベルにするってことだよね?」
「もちろんそのつもりですよ。二年あれば十分です!あいつらは才能がある。二年あれば個人で魔人撃破も夢じゃないでしょう」
シエラは鋭い目つきでケントを睨見つける。それほどまでに、ラグレス達を危険な目に合わせたくないのかはわからないが、これは絶好のチャンスだ。このチャンスを逃せば、ラグレス達は一向に強くなることはできないだろう。
「もし...その二年間で強くなれなかったらどうするつもり?」
「その時は...誰かが新たに賢者として迎えられるまでの間、俺が二人分の仕事をするよ」
「...どうしてそこまでしてあの子達を推薦するの?あなたは彼らの師匠でしょ?だったら危険な目にーー」
「師匠だからですよ!師匠だからあいつらには強くなってもらわないといけない。この二年間で俺とアイが育てれば必ず強くなります」
シエラは何かを言いたそうだったが、グッと堪えて「わかった...」と承諾した。そして、すぐに「しかし、」と話し始めた。
「しかし、君たち二人で三人を見るのはバランスが良くない。マンツーマンで教える方が最も効率的だよ」
「でも、ユアンがいないのでそうするしかーー」
「じゃあ、エルクは私が預かるよ。それを承諾してくれなければ、さっきのアレは無しだよ!」
会議室に衝撃が走る。
シエラがエルクを育てるとなると、祖先が直々に魔法を教えるということになる。確かにその方が効率的だが、何か怪しいような気がする。
「な、何をするつもりなの?」
「普通に育てるだけだよ?厳しくはするつもりだけど」
これ確実にエルクが死ぬパターンかもしれない。未来予知がなくてもこの場にいる全員はそんな未来が見えたような気がする。あの、鬼畜の修行をするレインでさえも引いているのだからしょうがない。
「まぁ...とりあえず賢者は決まったな...あとは...」
「そうだね...アイちゃんが言ってくれた二つ目の課題...他国とどう連携するか...だね」
「クローム王国は決まっているだろ。あそこはアウスト王国と友好を結んでいるんだし、嫌とは言わないだろ。問題は...」
「隣国のドミノ王国とシーラス王国とクエント帝国だね」
「ドミノ王国は言っちゃ悪いが、もう崩壊しているだろ。王族がおかしかったし何より...」
「捕まった国民がラウレスの生贄になったってことだね」
レインの一言で想像したくない光景が頭の中に現れる。
助けたいのは山々だが、ラウレス達の居場所はわからないから捕虜になった国民を助けることができなかった。
「そうなると、シーラス王国とクエント帝国の二つだな...」
「問題は場所だよね...この二つの国はここから馬車で三週間から四週間ってことだね...」
「使者だけを向かわせるっていうのは?」
「それはどうだろうね...」
バーンの提案は悪くはない。本来の言伝ならそれで済むが、今回は内容が内容なので下手に使者だけをいかせてしまったらふざけていると思われても仕方がない。
「誰か賢者がついていくべき?」
「それがいいかもね。国の戦力としてアイちゃんかケントは残しておきたいな」
神の加護を持つ人間が一人いれば十分心強い。ユアンのように「未来予知」を持っていれば、対処はいくらでもできるが、わたしたちにはそれがない。だったら、意地でもこの国を守るしかなかった。
「じゃあ、その他国には俺が行きます」
「なら、私も」
同じタイミングで手を挙げたのは、ケントとシエラだった。
二人はお互い顔を向き合った瞬間、何かを察したようでニヤリと笑みをこぼしていた。
「僕は、この二人で異論はないけど...みんなはどうかな?」
「俺は別に」
「私も特に...」
「私もー」
「じゃあ決定だ!ケント君は山々に囲まれているクエント帝国、シエラ様は海と隣接しているシーラス王国でいいかな?」
「「意義なし」」
「じゃあ、今回の会議は終わりってことで、次回はまだ未定にしておいて、各々やることの進捗を報告するだけになるけどそれでいいかな?」
「それでいいよ」
全員がアークの提案に納得し、今日の会議は午前中で終わりとなった。
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