第四十六話 夢の中
シエラがラグエス達と戦った後、すぐに会議室で話し合いをしたが、結局いい案は出ず、ソイルを再び賢者として招き入れるという意見が出たが、本人に確認したところ「年だから今更キツイ」との返事がきた。
その日は解散となってまた後日話し合いをすることになった。
「あーあ...とうとう私も賢者か...」
「しょうがないだろ、ユアンが抜けた今、神の加護を持つのは俺ら二人しかいないんだから」
「そこはわかってるよ。でも、私につとまるかな?」
「それについては大丈夫だって。みんなベテランばかりだし、基本的に冒険者ギルドが手に負えない依頼をこなすだけだしな」
前まではアイも賢者ではないが、賢者であったユアンとケントの様子を見ていてもそんなに働いているという印象はなかった。ただ、魔人が襲撃してきたりや、スタンピートなどの危険な仕事は賢者が率先して仕事はしていた。
「それにしても賢者の会議って結構長いんだね」
「今回は特殊なだけだよ。いつもはもっと早くに終わるけど、今回は話し合うというよりも考える時間の方が多かったしな」
後一人の枠を埋めるのに時間がかかりすぎた。結局誰も決まらずに半日が過ぎ、現在の時刻は夜の六時となっていた。最終的な候補は、宮廷魔道士長のサリファと断られた元賢者ソイルぐらいだ。ソイルは実力的に申し分ないが、宮廷魔道士長のサリファは精霊の加護を持っておらず戦力になるか?と問われたらわからないとしか言えない。
結局その日は夕食をケントとクレアの三人で食べた後、風呂に入ってそのまま就寝となった。体を動かしていないとはいえ、話し合いで思ったよりも疲れていたせいでベッドに入った途端すぐに眠りについた。
目を開けるとそこは真っ白な空間の中を一人で立っていた。
あれ...もしかして...
そんな期待を抱いた瞬間、目の前に私に加護を授けた女神セレスが現れた。
「久しぶり、アイちゃん」
「せ、セレス様!?」
突然現れたセレスに驚きが隠せなかった。それ以前に、ユアンに呼び出されたのかと思ったがセレスだったことに少しだけガッカリする。
「ごめんね〜呼んだのがユアン君じゃなくて...」
少しだけ寂しそうにするセレスをアイがなだめる。
「い、いえ、そういうわけじゃなくて...セレス様に会うのが嫌ってわけじゃなくて」
「あはは、ごめんごめん。ちょっとからかっただけ」
咄嗟に言い訳する姿を見てセレスは楽しそうだった。
「それで?今回はなんの御用ですか?」
「うーんとねぇ...もう少し待ってくれるかな。後一人も呼んでるんだ」
セレスがそう言うと、突然私の隣が輝き出した。眩しさのあまり目を閉じる。ゆっくりと目を開けると、そこにはケントの姿と知らない男性が立っていた。
「ケント!?...と、誰?」
「初めましてアイ殿。私はケントに加護を授けた炎神のプロメテウスと申します。以後お見知り置きを」
「あっ、ご丁寧にどうも」
初対面ということもあって、お互い頭を下げながら自己紹介をする。
「アイ、炎神にそんな気を使わなくてもいいぞ。こいつ、ただ可愛い女子が好きなだけだから」
「そんなわけないだろ!現にお前と初めてあった時も自己紹介をしたろ!」
「そんな丁寧にやってないだろ!確か...「あー私は炎神。よろしく」みたいな感じじゃなかったか?」
ケントが炎神のモノマネをするが言い方も全て棒読みだったため全然似ていなかった。
「お前の記憶はどうなってるんだ!そんな棒読みで挨拶するわけがないだろう!」
「はいはーい!ケンカはそのくらいにして今は伝えることがあるでしょ!」
炎神とケントが言い合っている中にセレスが割り込んで入ったため、その場はなんとかなった。
「とりあえず、二人には話しておくことがあるの」
「話しておきたいことって?」
「ユアン君が殺せなかったラウレスのことについて...」
その瞬間、何もない真っ白な空間がピリッとする。
「ラウレスが生きていたことは知っているわよね?」
「ああ、目の前で見ていたからな...ほぼ死にかけてたけど」
「そのことなんだけど、ラウレスが本格的に活動できるのが約二年後が目安となっているの。それまでに、どうしても国の強化と他国と連携してラグレスを倒すことをして欲しいの...」
「でも、他国と連携って...アウスト王国の友好国はクローム王国しかないですよ。他の国は遠くてとても行ける距離じゃ...」
アイがセレスに無理だと言おうとした瞬間、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「だから、お前らに頼んでいるんだろ」
声の下方を振り向くと、そこにはユアンの姿があった。
「ユアン!」「ユアン!?」
「よっ!元気だったか?っていうかアイとはこの前あったから元気ってのはわかるけど、ケントも結構落ち込んでたみたいだな」
「当たり前だろ!二度も友達が死ぬなんて思わなかったし...」
「悪かったな...手紙に書いた通り俺は二度もお前達が死ぬところなんて見たくなかったんだよ。だから、前回お前らが先に死んだことと、今回俺が先に死んだことでチャラってことで!」
「「できるか!!」」
二人の激しいツッコミが飛んでくる。
「まぁ...その話は後にして、今は他国と連携だ。クローム王国は素直に承諾するだろう。ジェロンドさんもいるわけだし、問題は海辺にある国シーラス王国と山々に囲まれているクエント帝国の両方に協力してもらう必要があるな」
「でも協力と言っても戦力を貸してもらうとなっても国と国との距離が遠過ぎないか?」
「問題はそことちゃんと協力を得られるかが問題じゃない?急に初代勇者は生きていました!って言ってもどの国も信じてくれないでしょ?」
「確かにな...」
ユアンが話に参加しなくてもケントとアイの二人で色々と案が飛び交っている。ユアンはそれを遠くから見ながら二人のことを嬉しそうに見つめていた。
三十分も話していると、急にユアンが声を上げた。
「おおっと...もう時間か...」
突如、ユアンの体が白く輝き出した。
「待って!もうちょっといてよ!」
「悪いな、俺はもう死んだ人間だからこっちに長くいることができないんだ」
そう言ってかっこよく立ち去ろうとするユアンをセレスの一言で全てを台無しにさせた。
「よく言うよ。私たちが呼ぶとすぐにきて長時間居座る癖に...」
「よ、余計なことを言うなよ!」
二人の突き刺さるような視線が向けられて悲しくなる。
「言っておくけど、俺らが消えるのはお前らが目覚めるからだからな。居ようと思えばここにずっといられるんだぞ!」
「「ふーん」」
そう言って返すとユアンは顔を真っ赤にしながら消えていった。ユアンと同様にセレスとプロメテウスも同じように消えていった。
アイたちの意識も途切れ、朝を迎えた。
ものすごく短かった夢だったが、二人とも夢の中でユアンと会えたことでやる気に満ちていた。
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