第四十三話 クローム王国の上層部
アウスト王国で会議が開かれている同時刻、隣国のクローム王国でも会議が開かれていた。
参加しているのは、国王並びに皇女、上位貴族、ジェロンド、時の魔女の合計十名ほどだった。
「なんでも、アウスト王国最強と謳われる賢者が亡くなったそうですな。どうですか?これを機にアウスト王国を攻めてみるのは?」
ある一人の貴族がアウスト王国を攻めると発言する。
「ふざけるな!そんなことは考えておらん!」
「ですが陛下、アウスト王国の資源は貴重なものが多いです。これを逃したら...」
「だからって攻めたりはせん!アウスト王国とは友好国なんだぞ!」
「そんなもの、戦争で勝てばよろしいのですよ。こっちにはジェロンドもいらっしゃいますし...」
一人の貴族が戦争も申し立てると、他の貴族も口車に乗せられたように戦争の意見を肯定していく。
「はっ...哀れじゃの...これだから人間は...なぁジェロ坊よ?」
「.........」
ジェロンドは下を向き、時の魔女の問いかけに答えなかった。
だけど、その様子を見て陛下、時の魔女はジェロンドがブチギレていることは感じ取れた。
「ジェロンド!貴様も何か言ったらどうだ!最近は暴れ足りないのだろ!?アウスト王国を攻めて派手に暴れようじゃないか!」
「貴様ーーー」
ルリネ皇女が口を挟もうとした瞬間、ジェロンドの殺気が部屋中を満たした。
ジェロンドの殺気に触れて貴族たちは「ひっ!」と叫び声を上げた。
「黙って聞いてれば好き勝手言いやがって...ユアンがどんな思いで国を...世界を救ったと思ってるんだよ...何が戦争だ、何が貴重な資源だ...てめーらは自分の私利私欲しか考えてねーのか!!!」
ジェロンドはゆっくりと貴族たちの方へと歩きながらじっくりと詰め寄る。
「だ、だが、貴重な資源を得れば国だって大きくなるし...土地も増える...こ、これ以上いいことなどないぞ!」
「それが私利私欲ってもんだろうが!!!いいか?俺が戦争に参加するとしたら大間違いだ!てめーらがもし戦争を引き起こすつもりなら......俺がお前ら全員ぶっ殺してからアウスト王国に寝返ってやる。そうすればお前らがしたい戦争ができるよな?」
「ぶ、ぶ、無礼だぞ!!たかが平民のくせに上級貴族の私にそんな口を聞いていいと思っているのか!?」
「お前ら貴族ごとに俺がどうこうできると思ってんの?」
「もう良いジェロ坊!少し頭を冷やせ」
ジェロンドが貴族にさらに重圧をかけようとしたところで時の魔女に止められた。
「だけど...」
「お主の気持ちは痛いほどわかる。こんなクズどもにお主が手を下すまでもない。じゃがこれは会議じゃ。暴力で話し合いにきたわけじゃない。そうじゃろ?国王よ」
「ああ、魔女様の言う通り...ここは話し合いの場所じゃ。ジェロンドよ...すまなかったな」
そう言って国王はジェロンドに頭を下げた。
「陛下!?なぜ頭を下げるのですか!?」
「そうですよ陛下、我々を侮辱したのですからジェロンドは不敬罪に...」
「もうお主らはここを出ていけ...後で使いのものに罰金を支払うよう命じるから自宅で待機していろ」
「な、なぜですか陛下!?」
突然のことで貴族たちは慌てふためく。
「この会議において私利私欲の発言、他人を侮辱や友好国への戦争の会話、全てこの会議にふさわしくないとしてお主らには罰を与える」
「そ、そんな...陛下...」
「早く出ていけ!!!」
「「「「「はっはい!」」」」」
戦争を肯定した貴族たちは全員出ていき、残ったのは国王、ルリネ皇女、ジェロンド、時の魔女の四人だけだった。
「ようやくちゃんとした会議ができるの...誰じゃ?あんなゴミどもを会議に呼んだのは...」
「私です...国の中枢を動かしているものたちでしたので話し合いに参加させましたが...よくない方向に向かってしまって...」
「まぁ良い...それよりジェロ坊よ。平気か?」
「平気...じゃないな。あいつらの発言はユアンを侮辱している...今でもあいつらは許せない!」
「お主の意見は尤もじゃ。じゃが、今はこれからについて話していこうか」
「そうですね、私としてはこれからも援助をしていこうとは思っています」
「ほぉ?具体的には?」
「まず、兵士の追加ですね。王都で戦闘が起きたと聞いたので建物が壊れたと思います。兵士をさらに追加して建物の復旧などに取り組もうかと思います。もう一つは物資の補給など考えております」
「なるほどの...最初に言った兵士の追加はしなくて良いぞ、わしの友人の創造の魔女に全て直させたから問題ない。物資の援助は有難いと思うからよろしく頼む」
時の魔女の言葉を聞いて全員固まった。
「あの...今なんておっしゃいました?」
「ん?物資の援助は有難い」
「その前です」
「兵士の追加はしなくて良いぞ」
「違う!もうちょい後」
「...わしの友人の創造の魔女?」
「それです!!」
創造の魔女という単語にみんな耳を疑った。
「なんで創造の魔女がアウスト王国にいるんだよ...」
「言ったじゃろ?友達だって」
「まぁ...それは置いといて、俺たちがやるのは物資の援助でいいんだな」
「ああ、それで頼む」
「物資の援助には俺が行きます。ついでにユアンの墓に手を合わせたいので」
「わかった。物資の援助にはジェロンドに行ってもらおう。だけど早く帰ってくるのだぞ、お主がいないときに何かが起きればこの国は終わりじゃからな」
「そんときは脳筋の娘さんがお隣にいらっしゃるじゃないですか」
「ほぅ...それは私のことを言っておるのか?」
「お前以外に誰がいると?」
「よぉし!表へでろ!その口を二度と馬鹿にできぬよう教育してやる!!」
ジェロンドとルリネは二人して外へ出ていった。
「さてと...わしも戻ろうかの」
「もうお帰りになるのですか?」
「ああ、じゃがまた近いうちに話し合いが起きそうじゃからな...また来る」
そう言って国王の目の前から時の魔女は消えたのだった。
いつもありがとうございます。面白かったらブックマークと評価をお願いします。




